子どもと過ごす時間を大切に思っていても、いつも一緒というわけにはいきません。入園すると子どもは親の手を離れ、園で多くの時間を過ごします。わかっているようで、じつはよく知らない「子どもの園生活」。この連載では、大阪府堺市の「おおとりの森こども園」で園長を務める松本崇史さんの目を通して、子どもたちの日々を覗いていきます。
秋は、園の生活の中で、最も豊かで美しい季節といっても過言ではありません。春に植物が芽吹き、若々しい新緑となり、夏になると木々がざわめくように深緑となり、万緑となります。そして少しずつ、緑が赤に黄色に変化していきます。夏の猛暑がやわらぎ、朝と夕方は涼しくなり、太陽の沈む時間が早くなり、秋になっていきます。
園の子どもたちも、季節とともに変わっていきます。新年度のスタートの頃はバタバタしていた子どもたちが、夏を過ぎると落ち着いて、多くのことを自分でできるようになっていきます。一日の過ごし方も身につき、園での生活と遊びを自ら工夫しながら豊かにしていきます。他者との関係も心地よいものになっていくので、保育者との関係も安定し、その安定と安心が次の挑戦を生み出します。
秋に向かう季節の変化と、子どもたち自身の変化が化学反応を起こすとき、どれほど豊かなことが起こるでしょう。子どもたちは五感を駆使して秋を存分に楽しみます。秋の色、形、匂い、感触、音、味を、見て、匂いをかぎ、さわって、聞いて、味わうのです。
園庭の桜の葉の色が少しずつ変わりはじめます。ひらひらと落葉が舞いはじめます。隣接する神社をふと見るたびに、あれだけ緑だった葉が赤色、黄色になっていきます。大きなイチョウが3本並ぶ風景は壮観です。
H:みて。木が変わってるよ。
Y:色、変わってる。
保育者:本当だね。
A:きれい。持って帰る。この葉っぱ、赤と黄色がまざってる。
H:こっちはオレンジと茶色。
Y:ニワトリのふわちゃんみたい。
H:この葉っぱ、持って帰る。
保育者:ふわちゃんつくるの!?
H:そう。この色が好き。
モミジをはじめ、いろいろな落葉樹の葉っぱの形も秋の楽しみ。
ちいさいの、おおきいの、ギザギザしたの、まるいの、ふっくらしたの、ほそいの……。
子どもたちも保育者も、いろんな葉っぱを集めます。
N:この葉っぱの形、手みたい。手袋になりそう。
園長:本当だ。ちょうどよい大きさ?
N:うん。園長は?
園長:ほら、ぴったりでしょ。……あれ!?
N:全然ちがう!
園長:なんでだ!!
N:ぴったりの探してあげる。待っていてね。

どんぐりも落ちています。
大きくて丸いクヌギ、ふっくら大きいマテバシイ、ちいさな帽子のコナラ。
子どもたちはそれぞれの魅力を楽しみます。
U:これなんか太いな。転がりやすそう。
E:じゃあ転がしにいこう。
U:どこで?
E:築山かな!?(*)
U:(コナラのどんぐりを手に)こっちは?
H:割れるんちゃう?
U:あ~、ええな~!
そんな話をしながら、クヌギのどんぐりを築山から転がしてみたり、コナラのどんぐりを靴で踏み潰して割ってみたり。どんぐりの大きさや形で遊びが変わる子どもたち。
* 築山=園庭に作られている山のこと
園に隣接する神社へ、秋はよく散歩に行きます。
広い神社には「森」があります。
いつものように子どもたちは森に行きました。
昨日は朝まで雨が降っていました。
N:なんだかいいにおいがする。
S:本当だ。これ何のにおい?
保育者:何だろう?
N:森のにおい?
S:どこから?(クンクンしながら探して……)
S:わかった。森の葉っぱから。落ちて、すっごくいいにおい。
(落ち葉を保育者に渡す)
保育者:わ~、いいにおい。雨が降ったからかな。
N:秋になったからじゃない!?
また別の日に森に行きました。
風の気持ちよい日でした。
秋の透き通ったにおいを感じた日もありました。
U:なんだか気持ちいいな。すずしいな。
保育者:風が通ってるもんね。
U:ふむふむ。風のにおいか。
保育者:夏も終わったしね。
U:秋が来たんですな。
子どもたちが拾ったどんぐりが、千個ぐらいあります。
どんぐりからは “どんぐりころころむし”(*) が生まれます。
ある日、Fがどんぐりからまさに出てこようとする、どんぐりころころむしを見つけました。

F:みて、どんぐりころころむし。
M:うわ~。
F:かわいいな~。
(Mがさわろうとして……)
F:そんな急にさわらんといて。
M:そんなん大きい声で言うたら、(ころころむしが)びっくりするで。
F:Mちゃんが急にさわるからやん。
M:さわっていい?
F:いいよ。
(Mがそっとなでていく)
F:かわいい~~い~~い~。
M:さわってると、気持ちいい。
こちらでは、落ち葉をたくさん集めています。
枯れ葉になってしまった落ち葉も集めています。
枯れ葉はボロボロに崩れてしまいます。
M:なくなっちゃった。
Y:なんでかな。
M:でも、なんか気持ちいいな。
Y:そうなん?
M:やってみ。
Y:ホンマや! 気持ちいいな。
M:さらさらするの。
*「どんぐりころころむし」は、どんぐりの中からでてくる虫のこと(参照:絵本『どんぐりころころむし』)。いろんな虫がどんぐりを利用していますが、出会う機会が多いのはゾウムシの仲間の幼虫です。
公園の落ち葉をたくさん集めて山にしました。
みんなで手をつないで落葉に飛び込もうとしています。
H:みんないくよ!(5人で手をつないで)
保育者:いくよ~! 3、2、1、0!!
みんな:わ~~!!
H:ガサガサする!
M:ザブンとした!
Y:このシャクシャク、ガサガサっていうのがいいね。

秋の収穫は、さつまいも。
園庭の畑でさつまいもが収穫できたら焼き芋です。
みんなで落ち葉を集めて、みんなで木を集めて、みんなで焼きます。
S:いい匂い。おいしそう!
T:うお、みて! 大きい!
S:早く食べたい。
(保育者が手渡して)
S:うっま! あまい!
T:見て! これ! おいしい!

毎年の秋の風物詩です。
毎年のように見られる、子どもたちの素朴な姿があります。
子どもたちは五感を通して秋を過ごしています。子どもたちが感じていることを、ともに感じたいのが保育者です。夏が終わり、秋麗となり、冬が隣にやってくる。そんな季節を子どもたちと一緒に毎年味わうことができる、そういう喜びがここにはあるのです。
イラスト・おおつか章世
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