1955年にオランダで生まれ、今年70周年を迎えた「うさこちゃん」。ディック・ブルーナさんが生み出した、かわいらしいうさぎの女の子は、今も世界中で愛されています。この連載では、誕生70周年を記念して、「うさこちゃん」シリーズの魅力に迫ります。
家族のあたたかさや、日常の中にあるささやかな幸せに満ちた「うさこちゃん」の絵本。穏やかで楽しい毎日を描いた作品が印象的なシリーズですが、「身近な人の死」「友だちとの関係」などの難しいテーマをまっすぐに描いた絵本があるのをご存じですか?
どうやって子どもに伝えたらいいだろう……と迷ってしまうことを、うさこちゃんを通して子どもと共有できる絵本を3冊、ご紹介します。
『うさこちゃんの だいすきな おばあちゃん』は、うさこちゃんの目を通して、「身近な人の死」を描いた絵本です。
いつものようにベッドに入り、そのまま眠るように亡くなったおばあちゃん。うさこちゃんは、おじいちゃんが泣くのを初めて見ました。棺に納められたおばあちゃん、悲しみながら見送る家族の様子、そしてお墓……うさこちゃんの目から見た「おばあちゃんの死」が、静かに描かれます。
この作品について、作者のディック・ブルーナさんは、このように語っています。
死ぬということは
人生の一部だと思っています。
それも非常に重要な事柄だし、
誰も避けて通ることができない。
それを子どもも知るべきだと思います。
(※1)
ブルーナさんは、うさこちゃんが生きている日々の延長にあるものとして「死」を描きました。身近な人の死はもちろん、大きな悲しみをともなうものではありますが、それを恐ろしいもの、避けるべきものとしては描かないのです。
最後の場面で、うさこちゃんはおばあちゃんのお墓をひとりで訪れます。
うさこちゃんは おはかのまえで
だいすきな おばあちゃん と よびかけます。
すると、おばあちゃんが ちゃんと
きいていてくれるのが わかります。
──『うさこちゃんの だいすきな おばあちゃん』
目には見えなくても、大好きなおばあちゃんが今もそばにいる。「死」をテーマにしながらも、最後には穏やかなあたたかさが心に広がる1冊です。
園や学校に通うようになると、子どもの世界は大きく広がります。新しい喜びや楽しみを見つけたり、時にはけんかをしたり、誰かのことを気にかけたり……友だちとのかかわりの中で成長していく子どもたち。それは、うさこちゃんも同じです。
ある日、うさこちゃんの学校に転校生「だーん」がやってきました。その子は片方の耳がたれていたので、みんなに「たれみみくん」と呼ばれるようになりますが、だーんと仲良くなるにつれ、うさこちゃんはそのあだ名が気になり始めます。
「みんなが あなたのこと たれみみくんって いうの いやじゃない?」と問いかけるうさこちゃんに、「うん、いやだよ」「でも、ぼく もう なれてるから」と、だーんは答えます。
そのばん、うさこちゃんは
いっしょうけんめい かんがえました。
そして、こころに きめました。
あした、くらすの みんなに いおう。
たれみみって よぶのは、よくないって。
──『うさこちゃんと たれみみくん』
翌朝、「たれみみくんって よばないように しようよ」と、みんなに伝えたうさこちゃん。新しくできた友だちの気持ちになって考え、勇気を出して行動するまっすぐな姿は、大人が見てもまぶしいですね。
そんなうさこちゃんも、「とても とても わるいこと」をしてしまったことがあります。
お母さんと一緒に買い物に出かけたうさこちゃん。お店でおいしそうなキャラメルを見つけて、思わずポケットに入れてしまいました……。その晩、黙ってお店のものをとってしまったことを思って、うさこちゃんは眠れません。翌朝、キャラメルをとってしまったことをお母さんに打ち明けて、一緒にお店に返しに向かいます。
うさこちゃんは おみせに いくのは
いやでした。ああ、はずかしい。
あんなこと しなければ よかった。
でも、これは じぶんの したことです。
──『うさこちゃんときゃらめる』
この作品では、うさこちゃんがしたことを、「いけないこと」「わるいこと」だとただ伝えるのではなく、うさこちゃんの心の動きに焦点を当てて描いています。
罪悪感で眠れなくなってしまったり、うつむきがちに小さな声で打ち明けたり、お店に向かいながら後悔したり……うさこちゃんに心を重ねる子どもたちは、最後の「こんなことは もう にどと ぜったいに しません と いいました」で、ほっとするのではないでしょうか。
今回紹介した3冊は、「正直にストレートに読者に向かわなければならない(※2)」というブルーナさんの信念が、特に強く伝わってくる作品です。同時に、不安や戸惑い、恥ずかしさ、悲しみなど、その時々のうさこちゃんの感情に寄り添って描かれているので、子どもたちもお話に入りやすく、難しいテーマでありながら、どこかあたたかさも感じられます。
まっすぐに世界を見つめるうさこちゃんが、いつも子どもたちのそばにいてくれること。それは、子どもにとっても、大人にとっても、とても心強いことですね。
※1、2 『ブルーナが語る ミッフィーのすべて』p.38より(白泉社)
Illustrations Dick Bruna © copyright Mercis bv, 1953-2025 www.miffy.com
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▼「うさこちゃん」と「ミッフィー」…2つの名前があるのはなぜ?
▼うさこちゃんシリーズについて▼
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