1955年にオランダで生まれ、今年70周年を迎えた「うさこちゃん」。ディック・ブルーナさんが生み出した、かわいらしいうさぎの女の子は、今も世界中で愛されています。
この連載では、誕生70周年にあわせて「うさこちゃん」シリーズの魅力に迫ります。第1回は、「うさこちゃん」がどうやって日本にやってきたのか、そしてなぜ「うさこちゃん」「ミッフィー」という2つの名前があるのかについてです。
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うさこちゃんの生みの親 ディック・ブルーナさんは、1927年、オランダ・ユトレヒトに生まれました。幼いころから画家を志していたブルーナさんは、父親が経営する出版社でブック・デザイナーとして働きながら、1953年に初めての絵本『de appel/りんごぼうや』、1955年に『NIJNTJE/ちいさな うさこちゃん』『NIJNTJE IN DE DIERENTUIN/うさこちゃんと どうぶつえん』を出版します。
「nijntje/ナインチェ」は、オランダ語の「konijntje/コナインチェ」(日本語では「うさちゃん」といった意味)を元にした名前。ブルーナさんが家族で休暇を過ごしたときに見かけたうさぎがモデルになっています。この小さな白いうさぎについて息子に話してあげようと思ったブルーナさんのアイディアが、ナインチェの物語へとつながりました。
1955年に刊行されたナインチェの絵本は、縦長版で、絵は左右両方のページに入っており、姿も今とは少し違っています。
その後、1959年に『de appel/りんごぼうや』が正方形の絵本として新たに出版され、1963年には『nijntje/ちいさな うさこちゃん』『nijntje in de dierentuin/うさこちゃんと どうぶつえん』も、今と同じ版型・構成の新版となりました。
小さな子どもたちの手におさまりやすい約16㎝の正方形の絵本を開くと、左ページに文、右にシンプルで美しい絵が並ぶという、ブルーナ絵本のスタイルが確立されたのです。
そんな「ナインチェ」が日本にやってきたのは、1964年のことでした。
きっかけは、福音館書店の編集者・松居直が、1963年に訪れたアムステルダムの児童図書館で、刊行されたばかりのブルーナさんの絵本に出会ったこと。その時のことを、松居はこう語っています。
オランダ語を英語に訳しながら、話してくださってそれを見ました時に、本当にびっくりしました。何とかして作らなきゃいけない、何とか作りたいと思っていた種類の絵本が、作られていたという事実です。私はそれを見たときに、これは子どもが喜ぶだろうと思いました。この判断は全く直観的なものでした。(※1)
松居はさっそく版権をとって、ブルーナさんの絵本を8冊刊行することを決めます。ナインチェは、翻訳を手掛けた石井桃子さんによって「うさこちゃん」と名付けられ、1964年に「子どもがはじめてであう絵本」(※2)として日本の子どもたちに届けられました。
「うさこちゃん」には、いろいろな呼び名がありますが、世界的に知られているのは「ミッフィー」という名前です。
オランダ語を話す人にとって、「ナインチェ」は「コナインチェ(うさちゃん)」が元になっているとすぐにわかる名前ですが、ほかの言語ではそうではなく、発音も難しい。
そこで、ブルーナさんはこの小さなうさぎに、英語版の翻訳者と一緒に「Miffy(ミッフィー)」という名前を考えました。「ミッフィー」には、特定の意味はないそうですが、どの言語でも発音しやすい名前で、今は世界中で親しまれています(※3)。
日本でも、オランダ語の原書に基づいて翻訳された福音館の絵本では「うさこちゃん」という名前で呼ばれていますが、それ以外では「ミッフィー」と呼ばれています。
※1 松居直『絵本とは何か』(ちくま書房 刊)、p.277より引用
※2 各4冊のセット。第1集は『ちいさな うさこちゃん』『うさこちゃんと うみ』『うさこちゃんと どうぶつえん』『ゆきのひの うさこちゃん』、第2集は『きいろい ことり』『さーかす』『ちいさな さかな』『ふしぎな たまご』。
※3 https://www.miffy.com/the-name-miffy より
参考資料:
『誕生70周年記念 ミッフィー展 70 years with miffy』信陽堂 刊
『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』講談社 刊
Illustrations Dick Bruna © copyright Mercis bv, 1953-2025 www.miffy.com
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