わたしの限界本棚

カルチャー誌に音楽雑誌……今も捨てられない雑誌が主役の27冊の本棚|販売促進課・ON

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もし自分の蔵書を、ひと箱(35㎝四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第10回は、販売促進課・ONの本棚をご紹介します。

昔から雑誌が本棚の主役です。さらーっとページをめくるだけでも、本を読んだ気になれるのが私の性に合っているのだと思います。一見バラバラに見える記事の集まりが、編集とデザインの力もあいまってまとまって見えてくる。そんな強豪サッカーチームのような雰囲気をまとった雑誌が好きです。気に入ったものはバックナンバーも揃えたくなるわけで……。雑誌が本棚を圧迫し続けています。

そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

《relax》

『relax』ヒップホップ誕生/モスバーガー 特集(2000年7月号)
 マガジンハウス(休刊)

雑誌そのものに興味を持ち始めるきっかけになったのは高校生のときに出会ったカルチャー誌「relax」でした。美容院でたまたま目にしたモスバーガーのロゴの表紙に一目惚れしたのをよく覚えています。都会らしさと懐かしさとユーモアが絶妙なバランスの雑誌ですぐに虜になりました。佐内正史さん、ホンマタカシさん、若木信吾さんらの写真がかっこいいんですよね。いつか私もこの一員に……と常に夢と憧れを与えてくれたものでした。今読むと当時の気持ちを思い出して少し気恥ずかしくなりますが、今でも本棚の一番いいところにズラーっと並べています。

《音楽系雑誌》

2『remix』2003年ベスト・ディスク大特集(2004年2月号)
 アウトバーン(休刊)
3『snoozer』Beastie Boys 戦時下のパーティー・アルバム『トゥ・ザ・5ボローズ』で世界は変わるか?!(2004年6月号)
 リトルモア(休刊)
4『FADER』vol.008
 HEADZ(休刊)
5『spectator』音楽とエロの穴(2003年冬)
 エディトリアル・デパートメント(休刊)
6『STUDIO VOICE』特集 ザ・ニュー・ノーウェイヴ(2004年6月号)
 インファス(休刊)

音楽系の雑誌(音楽特集も含めて)も大事にしています。当時はCDを買うための参考に読んでいたわけですが、今はサブスクで音楽を聴く時代。それだったらもう不要では? とどこかから矢が飛んできそうですが、つい「新曲」や「おすすめのプレイリスト」などアプリの思い通りに行動してしまいがちの自分に、全く無関係な20年前のおすすめを提供してくれる貴重な存在です! ページをめくれば、買えなかった話題の新作や昔は趣味が合わなかった過去の名盤との出会いを与えてくれます。

《今も買う雑誌》

7『NEUTRAL COLORS 1』創刊特集 自分で作ると決めたインドの朝
 加藤直徳 著/NEUTRAL COLORS
8『STUDY 10』ファッションの正体
 自費出版
9『奇奇怪怪』 
 TaiTan、玉置周啓 著/石原書房

雑誌が売れない時代といわれて久しいです。自らを振り返っても昔ほど雑誌を買わなくなりましたし、ほとんどの情報をスマートフォンから得るようになったと痛感します。自分にフィットした情報は心地がよいものですが、それでも紙の雑誌から得るザラザラとした情報はちがった味わいがあると信じています。『NEUTRAL COLORS』は編集部自らが印刷(リソグラフ!)、製本する手作り品の味わいも感じることのできる稀有な雑誌。『奇奇怪怪』は雑誌ではなく同名のポッドキャスト本。ポッドキャストには雑誌と同じ匂いを感じるものがあります。

《数学関連本》

10『フェルマーの最終定理』 
 サイモン・シン 著 青木薫 訳/新潮社
11『素数の音楽』 
 マーカス・デュ・ソートイ 著 冨永星 訳/新潮文庫
12『オイラーの贈物:人類の至宝eiπ=-1を学ぶ』 
 吉田武 著/ちくま学芸文庫
13『不完全性定理:数学的体系のあゆみ』 
 野崎昭弘 著/ちくま学芸文庫
14『数学する身体』 
 森田真生 著/新潮社
15『石頭コンピューター』 
 安野光雅 著 野崎昭弘 監修/日本評論社(品切)

世界には受験数学より難しい問題がある。高校の数学の先生が、授業中に数学の超難問について興奮気味に話していたときにそのことを知りました。それを機に読み始めた『フェルマーの最終定理』が想像をはるかに超えた人間ドラマで、それから数学を題材にしたノンフィクションやエッセイを読むのが好きになりました。『オイラーの贈物』はとにかく美しい数式に興奮。『数学する身体』は数学とは何であるか、に迫ります。『石頭コンピューター』はコンピューターの仕組みを安野光雅さんが絵と言葉で伝えようとする画期的な本です。

《直接買った本》

16『遥か街を切る』 
 福森翔一 著/自費出版
17『奇遇』 
 岡本真帆、丸山るい 著/自費出版
18『さばーく』 
 柴田聡子 著/試聴室

著者と会話してから本を買う。文学フリマやコミケ、ライブイベントなどが活況なこともあり、著者自身が自費出版や手売りで本を届ける機会が増えてきたように思います。『遥か街を切る』は家族旅行先(松本)のカフェ「栞日」で手に入れた写真集です。たまたま福森翔一さんの写真展がやっていて、ご本人からアイスランドを旅しながら撮影した時のエピソードを聞くことができました。『奇遇』は文学フリマで、『さばーく』はライブ会場で、それぞれ著者から直接買ったもの。本の内容もさることながら、買う過程にひとつ物語がある本も残していきたいなと思う今日この頃です。

他に選んだ本は…

19『今日もかき氷』(蒼井優 著/マガジンハウス)|20『君は君の人生の主役になれ』(鳥羽和久 著/ちくまプリマー新書)|21『憂鬱と官能を教えた学校(上下巻)』(菊地成孔、大谷能生 著/河出文庫)|22『箱男』(安部公房 著/新潮文庫)|23『砂の女』(安部公房 著/新潮文庫)|24『急に具合が悪くなる』(宮野真生子、磯野真穂 著/晶文社)|25『佐藤雅彦全仕事』(佐藤雅彦 著/マドラ出版 品切)|26『ぞうのマメパオ』(藤岡拓太郎 著/ナナロク社)|27『Tokyo and my Daughter(完全版)』(ホンマタカシ 著/Nieves)

限界本棚、とても楽しい作業でした。やってみようと思っている方、ご家族に「ここまで本棚がしぼれるんだ、へー」と思われないようにくれぐれもお気をつけください。

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