「いそがしい日々のなかで、ほっと一息つきたいとき、どうしていますか?」
とっておきの場所で心地いい時間を過ごしたり、お気に入りのアイテムで気分転換したり……気になるあの人に「ほっとするとき ほっとするもの」を伺います。
第1回は『魔女の宅急便』シリーズなどの著者、角野栄子さん。
とびきり楽しいイラストといっしょに、3つの「ほっとするとき」を教えてくれました。
朝起きると、パジャマの上から、娘が作ってくれた仕事着を羽織り、麦わら帽を深く被(かぶ)り、大きなメガネをかけて、小さな小さなウッドデッキに出ていく。いつも仕事場に篭(こも)りっきりなので、8分でもいいから日光にあたるようにと、医者様から言われた。素直に実行するようになると、この時間がとてもいい。白湯(さゆ)を一杯脇に置き、ちびりちびりと飲みながら、目をきょろきょろと動かして、面白いものを探したくなる。下手な巣の張り方なんてしている蜘蛛(くも)を見つけると、似たもの同士を見つけたように嬉しい。生まれたばかりのチビカマキリを手の平に乗せる、すごく可愛い。ちょびっとした時間だけど、意味なくホッとする。
仕事を3時ごろにはやめて、外に出ていく。近くに海があるので、夕日に合わせて浜辺にいくこともあるけど、海にはカフェがないので、街にいくことが多い。お気に入りは「まちこさんの店」。小さな小さなカフェ。でもエスプレッソは抜群。エスプレッソは二口で終わるのが私の粋(いき)。お砂糖をたっぷり入れて、ぐいぐいっと飲む。ブラジルに住んでいた時を懐かしんで、立って飲む。この時間は近くのレストランのシェフも休み時間らしく、集まっていて、おしゃべりが楽しい。こっちは食いしん坊。話だけでも美味しい。賑やかなのに、ほっとする。
寝るのがとっても下手。いつまでも起きていたい。やることが沢山ある。TV見たり、映画見たり、まあ本も読んだり・・・さて寝るか・・・、うふふっ、ここから私の超賑やかな夜が始まる。ブラインドが閉まっているか確かめ、カーテンをピチリと引き、スマホのミュージックからサンバを選び、スピーカーと繋(つな)ぐ。鳴り出す。するともう止まらない、踊り出す、白髪乱した老女が。ま、ゾンビだ、ゾンビがおどる。真夜中のカーニバル。騒がしい音の合間に、ときどき細く長くそぐわない静かな笛の音がまじる。すると私の全身は「サウダージ」につつまれる。ふと涙ぐんでしまう。
ゾンビ、90歳。キキの物語、40歳。
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