わたしの限界本棚

地図帖から遠藤周作、あのミュージシャンの詩集まで、思い出といっしょに詰め込んだ28冊の本棚|とものま編集部・K

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もし自分の蔵書を、ひと箱(35㎝四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 思い出の本や、何度も読み返したい本、さらにはもう手に入らないから手放せないという本まで……本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らして詰め込んだ、「限界本棚」を覗いてみましょう。第3回は、「とものま」編集部・Kの本棚をご紹介します。

近所には小さな書店がたったひとつ。本屋さんの子に生まれたかった、家の隣が図書館だったらよかった、と真剣に願った少女時代でした。そんな私に、祖母が講談社の「少年少女世界文学館シリーズ」(全24巻。毎月一冊ずつ自宅に届く)を購読してくれたのです。配本日は、前日からわくわくして過ごしました。

『赤毛のアン』(モンゴメリ)に出てくる「いちご水」に魅了され、自己流でいちごをつぶしてつくったら青臭い飲み物ができて落ち込んだり、眠れない夜に『黒猫』(ポー)を読んでしまい、壁に埋められた血みどろの女性の挿絵が脳裏に焼き付いてさらに眠れなくなり……と思い出は尽きません。

このシリーズは実家の本棚にまだありますが、『ああ無情』(ユーゴー)だけは、いまの住まいにあります。子どもの頃つらいことがあると、ジャン・バルジャンが苦難の中闘う姿を思い浮かべ、「彼にくらべたらこんな悩みなんてちっぽけ……がんばれ自分!」と自ら励ましていました。

いま、開くことはほとんどないけれど、ともに子ども時代を生きた大切な本です。

そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶなら…… 

《旅》

1『遠い太鼓』
 村上春樹 著/講談社文庫
2『松本清張地図帖』
 帝国書院編集部 著/帝国書院

20代、以前の職場で昼夜を問わず働いていたころ、年末の休暇は「海外へひとり旅に出て読書をする」というのが、働きつづけるために必要なリフレッシュの時間でした。そのときによく持参したのが旅エッセイの『遠い太鼓』です。異国の地で、さらに本につづられた異国に思いを馳せて、どんどん心は遠くへ。そうすることで息を吹き返せるような気になりました。そんな数十年前の思い出も詰まっているこの本はボロボロですが、この状態のまま持ち続けたい一冊です。

『松本清張地図帖』は、松本清張の作品の舞台が地図とともに解説された本です。清張作品を読んだあとに、この地図帖を眺め想像し、そして、ふたたび作品を読み、また地図を眺め、というように、この一冊があればエンドレスで楽しめます。清張作品(特に『Dの複合』『球形の荒野』)&旅好きの人におすすめします。

《遠藤周作と松本清張》

3『沈黙』
 遠藤周作 著/新潮文庫
4『日本の黒い霧上)』
 松本清張 著/文春文庫

遠藤周作と松本清張はどちらも好きな作家です。名も無き弱い人を優しくすくいとろうとする視点が共通しているように感じます。ふたりとも多作なので、まだまだ未読の作品があることにほっとします。
遠藤周作の『沈黙』に感銘を受け、本を片手に舞台となった雲仙や長崎市内を旅しました。ほかにも軽妙なエッセイや短編の恐い話も面白く、たいていの書店に遠藤作品は置いてあるので、旅先で購入することも多いです。

松本清張のフィクションは映像も含めてたくさん楽しんできましたが、戦後の有名な未解決事件「下山事件」に関する本を読み漁っていたときに、ノンフィクションである『日本の黒い霧』に出会い、自分の見ている世界はほんの一部にしか過ぎない、と足元が揺さぶられるような感覚になりました。

《装丁》

5『鈴木成一 装丁を語る。』
 鈴木成一 著/イースト・プレス
6『デザインスタイルから読み解く出版クロニクル 現代日本のブックデザイン史 1996-2020』
 長田年伸 川名潤 水戸部功 アイデア編集部 編/誠文堂新光社

新米編集者の頃、毎日書店へ足を運び新刊をチェックするよう指導され、新刊コーナーを見て回っていました。「かっこいい」と感じて手に取る本が、ことごとくブックデザイナーの鈴木成一氏による装丁。『鈴木成一 装丁を語る。』は、魔術のように毎回あっと言わせる装丁を生みだす、鈴木氏の仕事を一挙に見られる……私にとっては画集のような本です。

その頃に流行した歌を聞くとその時代を思い出すのと同じように、その頃の装丁を見るとその時代を思い出します。1996年から2020年までの装丁が掲載された『現代日本のブックデザイン史』は、当時を懐かしみながら、時折開いて眺めたいアルバムのような一冊です。

《愛蔵品として》 

7『ことば──僕自身の訓練のためのノート』(限定版)
  山口一郎 著/青土社
8『MURAKAMI T: The T-Shirts I Love』(洋書)
  by Haruki Murakami ※日本語版『村上T―僕の愛したTシャツたち―』村上春樹 著/マガジンハウス
9『怪と幽 vol.11』(KADOKAWA MOOK) 
  KADOKAWA

ミュージシャンの山口一郎氏(サカナクション)の数年来のファンです。疲れたときは、俳人・種田山頭火を好きだと公言している一郎氏のことばを味わいます。限定版のこの詩集も、やはり限界本棚に入れたい一冊。

そして、村上春樹氏のサイン本(2022年に早稲田大学で行われた「村上春樹 presents 山下洋輔トリオ再乱入ライブ」のサイン本付きチケットに当選し入手)、京極夏彦氏のサイン本(神保町ブックフェスティバルでご本人がブースに登場。あの黒い皮手袋のお姿で目の前でサインを入れてくれました)も、長年の愛読者として手放すわけにはいきません。

《戦争》

10『夜と霧』(新版)
  ヴィクトール・E・フランクル 著 池田香代子 訳/みすず書房
11『水木しげるの戦場―従軍短編集』
  水木しげる 著/中公文庫
12『夕凪の街 桜の国』
  こうの史代 著/双葉社 
13『さよなら妖精』

  米澤穂信 著/創元推理文庫 

ニュース番組を見ながら、子どもたちと「戦争」について話す機会が増えています。これらの本に書かれていることは、とても重く、つらく、対峙するのに力を要します。でも、読むべき本であり、忘れてはならない本であり、語りつがねばならない本だと思っているので、機を見て子どもたちに手渡したいです。

ほかに選んだ本は……

14『ああ無情』(ビクトル=ユーゴー 著 塚原亮一 訳/講談社)|15『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹 著/新潮社)|16『1973年のピンボール』(村上春樹 著/講談社)|17『死海のほとり』(遠藤周作 著/新潮文庫)|18『ぼくのおじさん』(北杜夫 著/新潮文庫)|19『ノラや』(内田百閒 著/中公文庫)|20『動物農場』(ジョージ・オーウェル 著 開高健 訳/ちくま文庫)|21『李陵・山月記』(中島敦 著/新潮文庫)|22『日蝕』(平野啓一郎 著/新潮文庫)|23『るきさん』(高野文子 著/ちくま文庫)|24『JR上野駅公園口』(柳美里 著/河出文庫)|25『海からの贈物』(A・M・リンドバーグ 著/新潮文庫)|26『リハビリの夜』(熊谷晋一郎 著/医学書院)|27『うたかたの日々』(岡崎京子 著/宝島社)|28『今日のおかず』(高山なおみ/アノニマ・スタジオ)

ミニマルな生活に憧れているので、最初は数冊に絞ろうと意気込んだのですが無理でした……。

▼限界本棚はほかにも…▼

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わたしの限界本棚
美術書から海外ミステリまで…大判書籍の隙間に文庫を詰め込んだ28冊の本棚|「とものま」編集部・T

もし自分の蔵書を、ひと箱(35㎝四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 思い出の本や、何度も読み返したい本、さらにはもう手に入らないから手放せないという本まで……本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう

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「ファンタジー」と「虫」から広がった読書……文庫を中心にギリギリまで詰め込んだ39冊の本棚|とものま編集部・I

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