季節の本を楽しみたい! そう思っていても、あわただしく過ごしていると、あっという間に、もう次の季節……。それなら少し余裕をもって、準備を始めてみませんか?
この連載では、子どもたちに本を手渡しつづけている東京子ども図書館の皆さんに、「来月のおすすめの本」をご紹介いただきます。11月のおすすめを教えてくださるのは、鈴木晴子さん。さあ、11月はこれ読もう!
11月になると肌寒い日が増えて、人も生き物たちも冬支度の季節です。山の幸や温かい料理がおいしいのもたまりません。七五三で神社へ、もみじ狩りに山へ、芸術鑑賞に美術館へと、いろいろおでかけするのも楽しいし、たまには、おうちでゆったり本を読みふけるのもよいものです。
そんな深まる秋におすすめの本をご紹介します。
ドロシー・マリノ 文・絵 石井桃子 訳 /岩波書店 / 幼児から
子ぐまのくんちゃんの一家が暮らす山もずいぶん寒くなり、そろそろ冬ごもりの季節。ある日、鳥たちが南の国に渡っていくと知ったくんちゃんは、「ぼくもわたっていっていい?」と、おとうさんとおかあさんにおねがいします。
いざひとりで出発すると、丘の上にある松の木にたどり着くたびに、おかあさんへのキス、双眼鏡といろいろ忘れ物に気がつきます。何度も家に戻っているうちに……。
一所懸命なくんちゃんと、それを見守るおとうさんとおかあさんの姿に、じんわり温かい気持ちになる絵本です。優しいタッチのペン画に淡い青色1色で彩色した絵が、澄み渡った空を感じさせてくれます。
わたなべ しげお 作 やまわき ゆりこ 絵 / 福音館書店 / 幼児から
「七五三」にちなんで、3歳と5歳の兄弟が主人公のおはなしはいかがでしょうか?
お兄ちゃんのてつたくん、弟のみつやくんが森へいくと、大きな大きなたまごが落ちていました。ひみつにしようと草や葉っぱで隠して帰ると、次の日、たまごから恐竜に似た、赤と黄色のしま模様の動物が孵(かえ)っていました。「ぼか、へなそうる」と名乗るそのへんな動物と、2人はかくれんぼをしたり、カニとりをしたりして遊びます。
みつやくんとへなそうるが「たまご」を「たがも」、「おたまじゃくし」を「おぱまじゃくし」などと言い間違えてしまうのも、声に出して読んであげると、おかしさが際立ちます。
『ぐりとぐら』の画家・やまわきゆりこさんの挿絵がたっぷり入っているのも大きな魅力です。
東京子ども図書館 編 / 幼児から
幼い子から小学校の高学年まで、耳で聞いて楽しめるお話集の1冊です。
表題の「だめといわれてひっこむな」は「スプーンおばさん」シリーズで知られるノルウェーの作家、アルフ・プロイセンによるお話。おばあさんが、暖炉の前で毛糸をつむいでいると、小さな穴から子ネズミがちょろりと出てきて「チュー、チュー、チュー、おかあちゃんがきいてこいって──その糸をつむいでなにをつくるの?」と尋ねます。おばあさんが「うちの人のセーターを編むのさ」と答えると、子ネズミは穴にひっこみますが、すぐまた顔を出し、新しいセーターができたら古いセーターはどうするの? と尋ねます。何度も何度も穴から出たり入ったりを繰り返して……。
最後、「あるもの」を手に入れたネズミたちの喜びのうたは、適当にふしをつけてもよいし、リズムをつけて読むだけでも。
同じく収録されている日本の昔話「風の神と子ども」も、この季節にぴったりです。
≪幼児から≫
④『きんいろあらし』
カズコ・G・ストーン 作 / 福音館書店
大きな柳の下にある「やなぎむら」の住人は、ばったのトビハネさんと、かたつむりのキララさんと、くものセカセカさんと、ありのセッセ家族。秋のある日、あかとんぼが「きんいろあらし」がくると知らせにやってきます。みんなは吹き飛ばされないように準備しますが……。色鉛筆でこまやかに描かれた、小さな生き物たちの世界をのぞいてみませんか?
⑤『やまのたけちゃん』
石井桃子 文 深沢紅子 絵 / 岩波書店 ※品切れ
1年生の男の子たけちゃんは、初めて山へ「おちばかき」に連れて行ってもらうことに。落ち葉を大きな籠につめ、にいちゃんがその上でぴょんぴょんはねます。たけちゃんもやってみたくて……。昔なつかしい山村の四季折々の風物を背景に、子ども達の日常を描いた『やまのこどもたち』の続編。残念ながら本屋さんでは買えないため、ぜひ図書館で!
⑥『きのこレストラン』
新開 孝 写真・文 / ポプラ社
雨上がりにかさをひらいた真赤なタマゴタケ。かさの裏側には虫たちが集まり、サクサクとひだを食べる。ぷ~んと臭いスッポンタケ、瓦みたいに固いカワラタケ、生えたても腐りかけも、虫たちには栄養たっぷりのレストラン。鮮明な写真から、きのこのねばねばした質感まで伝わります。
⑦『うどん できた!』
加藤休ミ 作 / 福音館書店
兄弟がお母さんとうどん作り。ふわふわの粉と塩水をまぜて、ぐにゅーとこねておだんごに。次は袋に入れて足で踏む「ふみふみダンス」。温かみのあるクレヨン画と、リズミカルなオノマトペが印象的な絵本です。読むだけでも楽しいですが、おいしそうなきつねうどんのでき上がりに、自分でも挑戦してみたくなります。巻末には米粉のレシピも。
⑧『五感で調べる木の葉っぱずかん』
林 将之 文 / ほるぷ出版
葉っぱの形から木の名前を探せる大型の図鑑。葉のふちが「ギザギザ」か、枝に葉がどのようについているか等をヒントに、約290種を検索できます。実物大の写真が多く、拾った葉と見比べやすいのも便利。紅葉時の写真が載っているものも。落ち葉ひろいが楽しくなりそう。
≪小学生から≫
⑨『ドングリ山のやまんばあさん』
富安陽子 作 大島妙子 絵 / 理論社
やまんばあさんは296歳。プロレスラーより力持ちで、時速80キロの車にも追いつく俊足。秋、ばあさんは栗ひろいにでかけますが、栗がひとつもみつかりません。土の上には見たこともない足跡が。栗泥棒の正体は? 山でばったり出会ってみたいような、みたくないような、愉快なやまんばあさんのお話が5つ入っています。
⑩『だまし絵・錯視大事典』
椎名 健 監修 / あかね書房
いくら上がっても行きつかない階段、平行なのに歪んで見える線、怒った顔が逆さにすると笑った顔に。古典的な作品から、路上アートまで、古今東西のだまし絵や錯視を集めた図鑑。本をひっくり返したり、上下に振ってみたり、子どもも大人も、不思議なアートの世界に夢中になるはず。
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