連載「絵本の選びかた」では、絵本選びに迷う方に向けて、絵本の楽しみ方や選び方のヒントをお届けしていきます。今回は、5才の子どものための絵本選びのポイントをご紹介します。
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年長児になると、習い事などを通して文字を読める子が出てきます。ただ、子どもが文字を読めるようになっても、無理にひとりで読ませようとせず、絵本の読み聞かせを続けてください。絵本を深く味わうためには、大人が読んであげることが、まだまだ必要です。
子どもが大人に本を読んでほしがる期間は限られています。一緒に絵本の世界を旅する幸せを、どうか存分に味わってください。その記憶は、子どもが成長した後も色褪せることなく、精神的な絆として生き続けます。
5才頃は、体だけでなく、心も大きく成長する時期です。この時期に読んであげたいのは、心の成長の糧になる物語。この時期になると、子どもは相手の立場に立って考えることや、相手の気持ちを理解することが、かなりできるようになってきます。絵本の登場人物に気持ちを重ね、さまざまな感情に身を投じながら、多くのものを得ていきます。
物語を楽しむ力も育ってきて、 “遠くの世界” まで想像の翼を広げられるようになります。日常とは異なる世界に踏み込み、奇想天外な冒険をして戻ってくる、本格的なファンタジーも楽しめるようになっていきます。
『めっきらもっきら どおん どん』は、男の子がおばけの暮らす世界に紛れ込むファンタジーの絵本です。遊び相手が見つからず、お宮にやってきたかんたは、大きな木の根もとの穴に吸い込まれ、見知らぬ夜の山にたどり着きます。
そこに、ふしぎな姿をした3人のおばけが現れます。かんたはおばけの誘いにのり、枝から枝に飛び移ったり、宝ものを交換したり、なわとびをしたりして、愉快に遊びます。でも、遊びが終わって、3人のおばけが眠りはじめると、急に心細くなって……。
「もんもんびゃっこ」「しっかかもっかか」「おたからまんちん」……おばけの名前は、どれも思わず口に出してみたくなるものばかり。かんたがお宮で思いつくままに唱える呪文「ちんぷく まんぷく あっぺらこの きんぴらこ じょんがら ぴこたこ めっきらもっきら どおんどん」も、子どもたちを魅了します。
この呪文を唱えたら自分にも “もうひとつの世界” の扉が開くかもしれない、いつか3人のおばけに会えるかもしれない──そう感じた瞬間から、日常の世界もそれまでとは違って見えてきます。
『めっきらもっきら どおん どん』は刊行から40年以上になる絵本ですが、今なお古びることなく子どもたちに愛されています。時代は変わっても、子どもの心が求めるものは変わらないのですね。
『スーホの白い馬』は、モンゴルに伝わる民話をもとにした絵本。羊飼いの少年スーホは殿様の裏切りにあい、大切な白い馬を奪われてしまいます。何とか再会を果たすものの、馬は力尽きて死んでしまいます。
大きな悲しみを伴うお話なので、絵本を読んでもらいながら涙ぐむ子もいます。そういう時、子どもの心は主人公とひとつになっています。スーホと共に、殿様の裏切りに怒り、白い馬が死んでしまった悲しみに暮れ、いつまでも白い馬と一緒にいたいと強く願います。
──心というものは、あまりに強く揺さぶると壊れてしまうものですが、読み手が見守っていてくれる安心感の中で、『スーホの白い馬』のような絵本の出来事に心を動かす経験を重ねていくと、しなやかに強く育っていきます。
■ この時期におすすめの絵本を、他にもご紹介します。
・『ぐるんぱのようちえん』
・『こすずめのぼうけん』
・『おやつどろぼう』
・『へろへろおじさん』
・『こんとあき』
・『よあけ』
5才頃の子どもたちは非常に好奇心旺盛で、興味をもつ範囲がどんどん広がっています。また、ひとたび何かに興味をもつと、強い探究心を発揮し、より深く知ろうとします。知識を広げることと、深めること、どちらも大切にしたい時期です。
そんな子どもたちの「もっと知りたい」気持ちに応えるものが科学絵本です。動物、植物、自然、体、生活、遊び……さまざまなテーマがあるので、どういうものに興味を示すか考えながら、いろいろ読んでいくと、子どもの世界を広げ、知識を深めることができます。
科学絵本を選ぶ際は、好奇心をくすぐり、もっと知りたくなる工夫がなされているもの、正確な知識の裏付けがあり、わかりやすい言葉で語られているもの、文と絵が密接に結びついて内容を伝えているものをおすすめします。
「科学絵本はどのように読み聞かせたらよいかわからない」という方がいらっしゃいますが、ストーリー性をもつものが多いので、物語絵本と同じように読み聞かせができます。「かがくのとも絵本」シリーズには、そのような絵本が多いので、子どもと一緒に何かに出会い、共に理解を深めていくことができます。
科学絵本の幅広さを感じていただけるよう、テーマごとにご紹介します。
■ 身近な生きもの
・『アリのかぞく』
・『ぼく、だんごむし』
・『かなへび』
・『しっぽのはたらき』
■ 植物
・『たんぽぽ』
・『ざっそう』
・『バナナのはなし』
・『どんぐりかいぎ』
■ 自然
・『あしたの てんきは はれ? くもり? あめ?』
・『みずたまレンズ』
・『しもばしら』
■ 体
・『ちのはなし』
・『おへそのひみつ』
・『はははのはなし』
■ 未知の世界
・『きょうりゅうの おおきさって どれくらい?』
・『シロナガスクジラ』
・『すいぞくかんの おいしゃさん』
他にも、さまざまなテーマの科学絵本があります。子どもの好奇心によりそい、世界を豊かに広げる科学絵本を、物語絵本とあわせて読んでみてください。科学絵本は、現実世界の中に「すごい」「おもしろい」と感じられるものを、ひとつずつ増やしてくれます。「すごい」「おもしろい」がたくさんになると、世界はますます輝いて見えてくるはずです。
子どもたちの好奇心に応えてくれるものとして、科学絵本の他に、図鑑があります。図鑑を選ぶ時には、ただ情報が網羅されているものではなく、子どもが楽しみながら知識を深めていけるよう工夫されているかを見てください。一般的な図鑑とは異なりますが、「いきものづくし ものづくし」も、子どもたちの好奇心を満足させるシリーズです。ページを開くと、テーマごとにデザインされた絵が美しく目の前に広がります。
この時期まで絵本体験を積み重ねてきた子どもたちに、ぜひ読んでみていただきたいものが、挿絵の多い低年齢向けの童話です。童話と聞くと「子どもがひとりで読むもの」と思われる方が多いかもしれませんが、それは違います。読んでもらうことによって、子どもは絵本と同じように、お話を耳で聞きながら絵を眺め、想像を広げて頭の中にイメージを思い描くことができるのです。
一度にたくさん読み進める必要はありません。例えば1日に1章ずつといった感じで、子どもの集中力が続く分量を確かめながら、少しずつ読んでいってください。
『おおきな おおきな おいも』は、どのページを開いても楽しい挿絵が目に入り、イメージがどんどん広がる1冊です。
登場するのは、いもほり遠足が雨で1週間延期になった幼稚園の子どもたち。1週間後、おいもはどれくらい大きくなっているかな? 想像が膨らんだ子どもたちは、大きな紙を貼り合わせ、そこに大きな大きなおいもを描きはじめます。……こんなに大きいおいも、どうやって掘ったらいいだろう? 子どもたちの想像はどんどん広がっていきます。
『いやいやえん』は、7つの物語が収められている童話。表題作の「いやいやえん」は、こんなお話です。4才の男の子のしげるは、人の言うことをまったく聞かず、口を開くと「いやだ」ばかり。しげるが通う保育園の先生は、そんなしげるに別の保育園をすすめます。そこは、好きなことだけしていればよい「いやいやえん」という名の保育園でした。
『おおきな おおきな おいも』に比べると挿絵は減りますが、『いやいやえん』も同じ年頃の子どもが主人公なので、子どもは気持ちを重ねやすく、絵本から読み物への橋渡しにぴったりです。
■ 挿絵の多い童話を、他にもご紹介します。
・『ももいろのきりん』
・『みどりいろのたね』
・『番ねずみのヤカちゃん』
このような挿絵の多い童話を楽しめるようになったら、次は文章が中心の童話も読んでみてください。挿絵はすこし減りますが、『エルマーのぼうけん』や『こぶたのピクルス』などは、子どもの心をつかみます。
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手から手へ 松居直の社内講義録
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えほんとわたし
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