1955年にオランダで生まれ、今年70周年を迎えた「うさこちゃん」。ディック・ブルーナさんが生み出した、かわいらしいうさぎの女の子は、今も世界中で愛されています。
この連載では、誕生70周年を記念して、「うさこちゃん」シリーズの魅力に迫ります。第3回では、初夏のオランダを旅した「とものま」編集部・Tが、うさこちゃんが生まれたオランダ・ユトレヒトの様子をレポートします。
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うさこちゃん誕生70周年の今年、ちょうどオランダを訪れる機会に恵まれたので、ブルーナさんの暮らしたユトレヒトにも足をのばしてきました。
ユトレヒトは、国土のほぼ真ん中あたりに位置する、オランダ第4の都市。ヨーロッパ各都市にも鉄道が伸びる交通の要衝で、ユトレヒト中央駅はオランダ最大のターミナル駅なのだそうです。
ショッピングモールを併設した近代的な駅の周辺から少し歩くと、中世の面影を残す旧市街が広がります。街の中央を貫くアウデグラハト(古い運河)の両側には飲食店のテラス席が並び、明るい日差しを楽しむ人たちがあふれていました。
ユトレヒトで生まれたブルーナさんは、戦火を逃れて湖畔近くの村に暮らしたり、研修のためにロンドンやパリに住んだりしたほかは、その生涯のほとんどをこの地で過ごしました。平坦な地形のオランダは、どの街も自転車に乗る人であふれていますが、ブルーナさんも愛用の黒い自転車で、旧市街地にあるアトリエに通っていたそうです。
そんなブルーナさんのアトリエは現在、街の南部にあるユトレヒト中央美術館(Centraal Museum Utrecht)で見ることができます。ユトレヒト滞在中に絶対訪れたいと思っていた場所なので、街のシンボルであるドム塔を経由し、アウデグラハト沿いに南へ。
ユトレヒトの運河は、アムステルダムなどと比べると水面が低い位置にあり、道路から階段を下った水辺には、カフェのテラス席が並んでいるところもありました。
アウデグラハトを右手に見ながら歩いていくと、ブルーナさんがよく立ち寄っていたという Cafe Orloff が見えてきます。ブルーナさんが座っていた席には、「I.M. Dick Bruna」と刻まれたプレートが飾ってあるのだそう。
「自転車をこぎながら見る街の人々のなにげない行動や景色から、作品のアイディアや言葉が浮かぶことがよくあります(※)」と語っているブルーナさん。オランダの建物はどこも窓がとても大きく、素敵に整えられた室内がよく見えるのですが、うさこちゃんの絵本にも窓がよく登場しますよね。ブルーナさんが小さい頃から見ていた光景が、絵本に反映されているのでしょうか。
※『ミッフィーからの贈り物』(講談社)p.16より引用
ユトレヒト中央美術館は、オランダにゆかりのある芸術家の作品を中心に、中世から現代まで幅広いコレクションを持つ美術館。古い修道院をリノベーションした建物は重厚感がありますが、内装はすっきり明るい現代風にまとめられています。
ブルーナさんのアトリエは、建物の最上階にあります。ガラスのドアを開けると、そこには愛用の自転車から、絵を描くためのデスク、お客さんを迎える小さな応接スペースに、世界中のファンから届いたプレゼントまで、当時のままに展示されていました。
そして、大きなスクリーンには、ブルーナさんのインタビュー映像が映し出されていて、ブルーナさんの声を聞きながら、アトリエ内を見て回ることができます。
中央美術館の向かいには、子ども向けのナインチェ・ミュージアム(nijntje museum)も! 今回は立ち寄れなかったので、入口だけ……。
入口近くには、うさこちゃん像が。着ている服に、小さなうさこちゃんたちが描かれていました。
ユトレヒトを歩いていると、いたるところでうさこちゃんに出会えます。
まず、ユトレヒト中央駅からすぐのところに、世界で一つだけの「うさこちゃんの信号機」があります。横断歩道もレインボーカラーで、とても華やか! うさこちゃんと一緒に横断歩道を渡っている気持ちになれる、ちょっと嬉しいスポットです。
デパートの目の前で、割と交通量の多い交差点なので、撮影難易度が高めです。写真を撮るときは、走り抜けていく自転車にご注意くださいね…!
ユトレヒト音楽院の一角にあるのが、こちらのうさこちゃんの像。後ろに回り込むと……
……なんとブルーナさんが!
2015年に開催された「ミッフィー・アートパレード」のために、オランダ在住のアーティスト ジャック・タンゲ氏が作った作品で、2016年からこの場所に設置されているのだそうです。
アウデグラハトを北に上った先にある nijntje pleintje(ナインチェ広場) には、ブルーナさんの次男マルクさんが作ったうさこちゃんの銅像が、そしてブルーナさんのアトリエがあったところには、壁からのぞくうさこちゃんのタイル画がひっそりと設置されています。
ユトレヒト以外でも、アムステルダムの街中や…
焼き物の街、デルフトでも…!
現地で知り合ったオランダ人の方に、「ナインチェの日本語版を出している出版社で働いているんです」と話したところ、「そうなの⁉ 日本語でナインチェが何て呼ばれているのか、ここに書いてくれる?」と嬉しそうに聞かれました。母国オランダで、うさこちゃんがいかに愛されているのか……それを実感する旅でした。
ユトレヒトでは、ブルーナさんが通っていたというTheo Blomというお菓子屋さんにも足を運びました。
うさこちゃんのクッキー缶なども売っていたのですが、今回のお目当てはこちらのバタークッキー。
ブルーナさんのお気に入りだったそうで、『うさこちゃんとにーなちゃん』にも、似た形のバタークッキーが登場しています。
ふたを開けると、バターたっぷりのクッキーがぎっしり詰まっていました。どれくらいバターたっぷりかというと、中に入っていたフィルムにまで、バターがしみだしているほど……バター好きにはたまりません。甘みと塩気のバランスが完璧で、あまりのおいしさにあっという間に食べきってしまいました。うさこちゃんとにーなちゃんは、2枚で食べるのをやめられてすごいな、と思います。
うさこちゃんに会いにユトレヒトに行かれる方は、ぜひ食べてみてください!
Illustrations Dick Bruna © copyright Mercis bv, 1953-2025 www.miffy.com
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