絵本作家のみなさんに、お気に入りのレシピを教えてもらいました。それぞれの家庭の定番料理から、旅先での忘れられない味を再現したものまで……作家たちの素顔が垣間見えるエピソードとともにお楽しみください。第5回は『あーそーぼ』の柳生まち子さんです。
柳生まち子
高原の夏は、あっちにもこっちにもトウモロコシ畑。私達は夏に、1年分のトウモロコシスープの素、つまりトウモロコシのペーストを作ります。
夫が食べ物のことで手伝ってくれるのは、夏みかんのマーマレード作りとトウモロコシのペースト作りだけなんだから、我が家では大変なイベントなのですよ。
トウモロコシなんて、夏になればいつでもあるから、いつ作ったっていいじゃーんていうのはシロウトよ。
夏のはじまりの気温のあがり具合、雨の具合、日照の具合、注意深く気にとめて、もうすぐ、もうすぐ、うまくなる、ここぞという時に買わなくちゃ、おいしいトウモロコシは手にはいりません。
いつ買うかが大問題。雨つづきの後はいけません。暑いお天気がつづいているからといっても、長いカラカラ天気というのもいけません。少し秋に近づいたほうがおいしいとはいっても、遅すぎると、実が小さくて虫もはいってしまいます。8月、お盆の前にしようか後にしようかと、毎年の思案です。買うとこはもちろん、いまとってきたばっかを売っている道路端のモロコシ売店。
さて、手にいれたトウモロコシ25本。なーんだ たったの25本なの? と夫はいう。でも、これで25回分のスープになるんだから、1年分としては十分よ。
大きなナベに湯を沸騰させて、ゆでる時間も問題。モロコシ売店のおばさんは、ものすごい大ナベのグラグラの湯に3分といいますし、ある友達は蒸し器で8分、水からゆでて30分なんてすごいこという人もいます。私達はグラグラの湯にいれて沸騰してから5分。
ゆだったら、ごらんのすばらしい器具を駆使して、夫が実をはずします。
これが熱くてたいへんなのよ。そして、フードプロセッサーでペーストにします。それを、ためておいたマーガリンのあいた入れ物に、2人前1回分ずつつめます。だいたい1パックはトウモロコシ1本分です。だから、25個のパックができます。
冷凍庫の中に25個のスープの素のパック。食べ物がいっぱい保存されてるのって、あー、ささやかな幸福感があるよね。
たいしたこともないトウモロコシスープのための、毎年のこの大騒動、まあ、この大騒動がかくし味になって、おいしいねえといただけるスープなのです。
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