絵本作家のみなさんに、お気に入りのレシピを教えてもらいました。それぞれの家庭の定番料理から、旅先での忘れられない味を再現したものまで……作家たちの素顔が垣間見えるエピソードとともにお楽しみください。第3回は『魔女の宅急便』の角野栄子さんです。
近頃食べたもので、一番信じられないもの、それは「のれそれ」。幅7ミリ、長さ7センチ、厚さ1.5ミリ、氷のように透明。小鉢に10あまり。みどり色の甘みそ添え。どう見ても、また食べてみても、「くず切り」。ところが、高知は土佐沖でとれた魚だというのです。
「えーっ、信じられなーい。くず切りじゃないの?」
私は思わず叫びました。すると、お給仕の女性は一瞬ひるみ、厨房に確かめに駆け込みました。よーく見ると、小さな黒い目がひとつあるではありませんか。海は広いな、大きいな、不思議だなとつくづく思ったことでした。
でも、角野さんの食材はしごくありきたり。目をこらせば、台所のすみにごろごろしているものばかりです。
【じゃがいももち】
金(かね)のざるを下に置き、その上でじゃがいもをすりおろします。ミキサーではなく、必ず大根おろしで。すり終わった頃には、適当に水切りが出来ています。それをスープスプーンに1杯ずつ、ぽっとん、ぽっとんと油を引いたフライパンに落として焼きます。きつね色になり、まわりがカリっとしたら出来上がり。それを、にんにく醤油でいただきます。それだけ!
でも、このじゃがいももちには不思議があるのです。出来上がると、おいもの量の半分に減ってしまうのです。どこにいっちゃったんでしょう。ところが消えた半分が、お腹の中で突然どすんっと現れるのです。「信じられなーい」と思ったら、どうぞおためしを!
【ジンジャーチャーハン】
てのひらぐらいのしょうががあったら、絶対おすすめ。新しょうがだったらもっと幸せ。みじんに切ってごま油で炒め、その4倍ぐらいのご飯を入れて更に炒め、最後にお醤油でちょっぴり焦がすようにして味付け。あれば白ゴマぱらぱら。焼き豚や卵があっても、これは絶対ジンジャーストレートがよろしい。「はじめぴりぴり、あとぽかぽか」。「あー、おいしい。信じられない」だといいけど……。
【石ころひとつで有名になったスープ】
ポルトガルの小さな町、アルメイリンを豊かにしたスープ “ソッパ デ ペドロ”。深めのボウルに入った、平凡なトマト味の野菜と肉のスープ。でも、その中に石ころをひとつずつ入れるだけ。だれが考え出したのか、この町の通りは、このスープを出すレストランの行列。石から味が出るのかな……。これが「信じられなーい」おいしさなのです。地球は広いな、大きいな、不思議だなとつくづく思ったことでした。
※「こどものとも年少版」2001年6月号折り込み付録より再掲
※表記は掲載当時のままとなっています