もし自分の蔵書を、ひと箱(35㎝四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第12回は、販売課・Hの本棚をご紹介します。
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昔からどこにでかけても、本屋さんを探索してしまいます。大きい本屋さんから町の本屋さんまで、好きなジャンルや流行りの棚をぶらりとして、その時々の興味のまま手に取るのがストレス解消の一環ということもあり、とにかく本が増える。最近は生活の質を考え「何度も読んだ本」を本棚のいい場所に整理して並べることにしました。そうすると分かる自分の歴史……
そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

1『宝塚──消費社会のスペクタクル』
川崎賢子 著/講談社選書メチエ(品切)
2『宝塚というユートピア』
川崎賢子 著/岩波書店(品切)
3『帝国劇場 アニバーサリーブック NEW HISTORY COMING』
東宝株式会社 発行 ぴあ株式会社 発売
4『愛と青春のすみれキッチン』
宝塚歌劇を愛する会 著/祥伝社
親子3世代の宝塚ファンで、宝塚を知ってからこのかた、お気に入りのショーの主題歌が流れれば秒で幸せになれるわけですが、2025年現在111年という歴史を持つ宝塚歌劇団を知りたい、作品を掘り下げたいと集めた本は数知れず……。
『宝塚』『宝塚というユートピア』は、宝塚歌劇団が戦後の舞台芸術文化の担い手としての矜持を保ち、今日にいたるまでたゆまぬ努力でファンを魅了し続けてきた現象と、そのメカニズムをひもとくファン必読の本です。
宝塚本の中で一番よく開くのは『愛と青春のすみれキッチン』。宝塚歌劇団の生徒さん専用食堂「すみれ食堂」のレシピを、OGのコメントとともに掲載した料理本。シンプルながらも「こういうのが一番おいしいのよね!」と、うなずきたくなるレシピが満載の1冊。
また、劇やミュージカルの聖地で、建て替えのために今年取り壊された旧帝国劇場を、すみからすみまで紹介したメモリアルブック『帝国劇場 アニバーサリーブック NEW HISTORY COMING』もお気に入り。文化の香り漂う昭和モダニズム建築とインテリアを、豊富な資料で満喫できます。

5『良いおっぱい 悪いおっぱい[完全版]』
伊藤比呂美 著/中公文庫
6『おなか ほっぺ おしり[完全版]』
伊藤比呂美 著/中公文庫 品切(現在は電子版で刊行)
7『新版 幼い子のいる暮らし』
毛利子来 著/筑摩書房
8『赤ちゃん教育』
野崎歓 著/講談社文庫 品切
9『孕むことば』
鴻巣友季子 著/マガジンハウス 品切
本の情報が一番信用できるタイプの古い人間ですので、子育て・育児本は、すすめられるまま色々と手にしました。結果、作家さんが自身の子育てで大わらわだった時代の体験談が一番心に響いたようです。
伊藤比呂美さんの『良いおっぱい 悪いおっぱい』『おなか ほっぺ おしり』は、妊娠・出産におののいていた時期に手にして「がさつずぼら」に勇気づけられました。
子育て中の自分を客観視しながら、わが子と向き合って状況を言語化する作家たち。そんなエッセイに共通していたのは、子育て期間ってあっという間なんだろうな……という予感でした。思春期渦中の子どもたちに向き合う親としての私を、いまだに勇気づけてくれるラインナップです。

10『フィンランド語は猫の言葉』
稲垣美晴 著/猫の言葉社(現在は角川文庫より刊行)
11『トーベ・ヤンソン・コレクション1 軽い手荷物の旅』
トーベ・ヤンソン 著 冨原眞弓 訳/筑摩書房 品切
12『カーヴの隅の本棚』
鴻巣友季子 著/文藝春秋 品切
20代後半でフィンランドを中心に、北欧を電車や船で3週間ほど巡りました。フィンランド第2の都市タンペレ近くの小さな町で道に迷って、フィンランド語しか通じない中、まさに身振り手振りで行き先をたずねた経験があり、『フィンランド語は猫の言葉』を手に取ったわけです。(”Niin” というあいづちに基づくタイトル。)今では北欧人気でいろいろと本が出ていますが、情報が少なかった時代に渡芬(トフン※)した著者の愉快な留学体験記。いつかまた旅したい国です。
旅の本については「その国の歴史を知る」「旅をしない選択をする」など、いろいろなバージョンで集めてしまいます。
※フィンランドに渡ること。フィンランドの日本語表記は「芬蘭」。

13~15『漂流教室①~③』
楳図かずお 著/小学館文庫
16『わたしは楳図かずお──マンガから芸術へ』
楳図かずお 著 石田汗太 聞き手/中央公論新社
12歳のとき、学習塾の先生に「あなたはこれが好きだと思う」と自信満々に手渡された『漂流教室』。続いて『おろち』も借りまして、すっかり世界観のとりこに……。ホラー漫画と言われることもありますが、人間の本性が現れる瞬間は生々しいが美しく、折に触れ手にします。それにしても小学生の私にこれをすすめた大人がすごいなと思います。先生ありがとうございます……。

17『ともだちは海のにおい』
工藤直子 作 長新太 絵/理論社
18『ねえさんといもうと』
シャーロット・ゾロトウ 作 マーサ・アレキサンダー 絵 やがわすみこ 訳/福音館書店(品切)
子どもたちと一緒に楽しんだ絵本や童話もたくさんありますが、いつまでも終わらないでほしいと思いながら、少しずつ大切に読んだ本を選びました。
海で出会ったお茶が好きなイルカと、ビールが好きなクジラの会話や書簡がここちよい『ともだちは海のにおい』。ひとりもいいけど友だちって素敵だなと思える作品です。
『ねえさんといもうと』は幼いころから2歳下の妹と何度も読みました。この本の背が目に入ると「そういえば元気かな?」と妹を思い出します。
19『帝国劇場 レ・ミゼラブル 2024年12月20日~2025年2月7日』(公演パンフレット)|20『鉛筆印のトレーナー』(庄野潤三 著/小学館)|21『ベルサイユのばらの街歩き』(「ベルサイユのばら」を歩く会 著/JTBパブリッシング 品切)|22『パリのパサージュ──過ぎ去った夢の痕跡』(鹿島茂 作/平凡社 品切)|23『パリのパサージュ──過ぎ去った夢の痕跡』(鹿島茂 著 中公文庫)|24『Lilies』(Michel Marc Bouchard/Coach House Press 品切)|25『トーマの心臓』(萩尾望都 作/小学館文庫)|26『ガラスの動物園』(テネシー・ウィリアムズ 著 田島博 訳/新潮文庫)| 27『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』(北村紗衣 著/白水社)| 28『ブロードウェイ・ミュージカル事典』(芝邦夫 著/劇書房 品切)| 29『碾臼』(マーガレット・ドラブル 著 小野寺健 訳/河出文庫 品切)| 30『ボートの三人男』(ジェローム・K・ジェローム 著 丸谷才一 訳/中公文庫)| 31『チャリング・クロス街84番地』(ヘレーン・ハンフ 著 江藤淳 訳/中公文庫)| 32『ジュリア』(リリアン・ヘルマン 著 大石千鶴 訳/ハヤカワ文庫 品切)| 33『パディントンとテレビ』(マイケル・ボンド 作 松岡享子 訳 ペギー・フォートナム 画/福音館書店)
こうして限界本棚に並べても、自宅の本棚とほぼ変わらない散漫なありさまを目にして、おもしろいものだと思いました。何度も何度も読みたい作品が増えるのは、子ども同様に大人も幸せなことですよね。
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\限界本棚はほかにも…/
あの人の ほっとするとき ほっとするもの
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母の気も知らぬきみ
母の気も知らぬきみ
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わたしの限界本棚