読み聞かせは子どもにいいらしい。こんなことを耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。でも……絵本がいいってほんと? この連載では、さまざまな角度から、絵本と子どもの関係を解き明かしていきたいと思います。
長年、「愛着」の問題に取り組まれてきた和歌山大学教育学部の米澤好史先生にお話を伺った記事、後編です。今からでも間に合う、「愛着」を深める親子のかかわり方とは?
——読み聞かせが親子の「愛着」を深め、感情も豊かに育むというお話をうかがいましたが、こどもが幼年期を過ぎると、一緒に絵本を楽しむこともなかなかできません。幼年期以降、愛着の形成に問題があることに気づいても、もう遅いのでしょうか?
それは大きな誤解です。年齢が高くなると、愛着関係を修復するのが幼年期よりも難しくなるという面は確かにありますが、愛着は何歳からでも、中学生でも高校生でも、大人になってからだって修復できるのです。
こどもが今何を考えているのか、何を求めているのかがわからない、ということはありますよね。でも、じっくりと本人と話をしてみたら、うちの子はこんなことが好きだったのか、ということを知る。そこでこどもが関心をもつことを一緒にやってみたら、関係が修復できたというケースもたくさんあります。
我が子のことをわかっているようでも、話をきちんと聞いてみることで、はじめてわかることがあるんですよね。
——それを知るとほっとする方も多いと思いますが、「愛着」に問題があるのは親のせいだと自分を責めてしまう方もいるようです。
愛情をもって一生懸命かかわっても、結果的にその子に合わないかかわり方をすると、愛着の問題は生じます。ただ、かかわり方を変えればすぐに改善していきます。親のせいだ、愛情が足らなかったのだと自分を責めて、愛着の問題から目を背けてしまう親御さんもいますが、あくまでかかわり方がこどもに合わなかっただけですからね。こどもに合ったかかわり方に変えていけばいいのです。そのことは強く伝えたいです。
——親のかかわり方がこどもに合わなかった場合とは?
たとえば、この子の才能を開花させてあげなければ、と親はたくさん習い事をさせた。でも、こどもは、本当は全然やりたくなかった、自分の気持ちを親はわかってくれなかった、と思っているケース。こういう場合、こどもは親に対して、この人と一緒にいても安心できない、守ってもらえないと思います。そうなると「安心基地」「安全基地」として機能しません。
よかれと思って親がかかわっても、こどもが不安を抱えてネガティブな気持ちになってしまうという状況はたくさんあります。そこは、こどもの観察が非常に大事です。習い事なら、本当に喜んで行っているかどうか、こどもの様子を丁寧に見てみてほしいです。
現代では、お子さんのことを心配するあまり、その子自身の感覚、感情、とらえ方を無視して、親が自分のやりたいことを押し付けているという問題がいろいろな場面で起きています。これは愛情があってのことですよね。
でも、こどもからすると、親は自分の思いに気づいてくれていない。親が先回りしてなんでもやってしまう……という思いになってしまいます。
自ら行動し、自分にとってプラスになることが起きて、それを実感し、達成感を味わう。これが「自立」ですが、親が先回りするやり方は自立心を阻害してしまいます。こういう場面が多くなってくると、こどもは親から逃げたくなってしまうのです。
一見ではわからないのですが、自信がない、意欲がでない、言い訳ばかりする、つい暴言や暴力がでてしまう、不安な気持ちにとりつかれる等、様々な心や行動の問題の根っこを探ってみると愛着の問題にたどりつくことは多いのです。
——「愛着」を耳にすることが増えているのは、愛着の問題を抱える子が増えているからなのでしょうか?
確かに、愛着に関しての相談の数は増えています。昔よりもこどもの数が減っているので、ひとりひとりに目が向きやすくなり、愛着の問題が見つかりやすくなっている側面もあるとは思います。
ただ、現代において、愛着形成にマイナスに働いている環境要因があるのも事実です。それは、家の中に、刺激が多すぎるということ。音楽が大きく鳴っていたり、映像が常に流れていたりすると、こどもにとって、その刺激は、人とのかかわりで受ける刺激よりも断然に強い。
そうなると、親としてはこどもにかかわっているつもりでも、こどもからすると親のかかわり具合が小さく感じられてしまうのです。
特に電子機器の普及によって、親子のかかわり……愛着という絆に、こどもの意識は向きづらくなっていると思います。
だからこそ、読み聞かせのようなアナログな親子のかかわりが、よりいっそう大切になっているとも言えるのではないでしょうか。
——愛着が大事だというのはわかったのですが、たとえば、共働きで忙しく、こどもと向き合う時間が少ないと、愛着形成は難しいのでしょうか?
そう思われる方が多いのですが、これは、大きな誤解です。愛着の絆は、かかわる時間が長ければ必ず結ばれるというわけでも、かかわる時間が短いから結ばれないというわけでも決してありません。気持ちでつながる絆ですから、気持ちの確認さえ、きちんとできていれば問題ありません。こどもにどう向き合っているか、量ではなく、質が重要なのです。
愛着の絆を結ぶときに、親と子の感受性が重要になってきます。同じ場所にいて、同じことをしていても、「今、この子はどんな気持ちなんだろう」と考えずにいると、心がつながれません。
「こどもと過ごす時間を増やすために仕事をやめたい」という話を聞くことがあります。私はそういうとき、こどもと一緒にいても、やめてしまった仕事のことを考えたり、本当はこういうことをしたいのに、とか、ほかのことを考えたりしてしまうのであれば、「そばにいるのに、この人の心はこっちに向いていない」とこどもは感じてしまい、かえってマイナスですよ、とアドバイスします。
また、親御さんに向けてお話をすることもありますが、「もしも、こどもと一緒にいてしんどくなってしまったら、地域のファミリーサポートセンターなどにお子さんを預けて、リフレッシュしてみてください」と言っています。それでリフレッシュして、こどもと向き合う時間を大事にしてもらえれば全然問題ないですよ、と。
——時間ではなく、こどもときちんと向き合っていれば問題ないのですね。
ただ、ひとつ注意です。うちの子は親の気持ちを充分にわかってくれているから大丈夫という方がいます。ですが、その気持ちを言葉で伝えていないと、伝わっていない場合も多いのです。
たとえば、下の子に手がかかって上の子に向き合えない。そういうときには、「今はこの子のお世話をしているけれど、終わったらちゃんとあなたの話を聞くからね」と言ってかかわれば大丈夫です。何も声かけがないと、その子は親に放っておかれていると思ってしまう。ひと言伝えるだけでお子さんの安心の度合いは変わります。できるだけ、こどもには、親の思っていることを、具体的にわかりやすいように伝えてください。
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