えほんとわたし

読み聞かせ会は濃密なコミュニケーションの場|フリーアナウンサー 堀井美香さん

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さまざまな分野で活躍中の方に、絵本との思い出やエピソードを語っていただく「絵本とわたし」。絵本にかかわるエピソードを通して、その人をもっと知ることができる、そんなインタビュー連載です。今回は、日本各地の図書館や児童養護施設で「こどもとえほんの会」と冠した読み聞かせ会を行う、フリーアナウンサーの堀井美香さんにお話をうかがいました。

正直な子どもたちの反応に、読む側も修行気分⁈

──堀井さんは、全国の図書館や児童養護施設で読み聞かせを行う「こどもとえほんの会」を開催されています。何か始められたきっかけがあったのでしょうか。

フリーになってから、絵本の読み聞かせはしたいなと思っていたんです。地方で活動したい気持ちもあったので、いろんな施設にメールを出しました。最初のうちは空振りばかりだったんですが、いくつかお返事をいただいて、場所を提供していただくという形で始めました。本当にありがたかったですね。何回か実現すると、少しずつ次につながりやすくなっていくんです。

そうやって、お母さんと子どもたちが来てくれるような会を何回かやっていたんですが、そこに来てくれるのは、家でもたくさん読んでもらっていて、すでに絵本で満たされているような子が多かったんですよね。それである時、もっといろいろな場所で読んでみようと思ったんです。児童養護施設は前から気になっていたので、チャレンジしてみようと。

児童養護施設はどこもちゃんとしていて、外部の人間に対してはガードが固くてあまり入れないんですよ。何とか1か所決まって、そこから少しずつ活動ができるようになった頃、日本児童養護施設財団というところに、朗読会の収益を寄付したんです。その時に、実はこういう活動もしているんです、とお伝えしたら、一緒にやりましょうということになって、今はその財団の方が、施設を紹介してくださるようになりました。

──最初に空振りしても、あきらめずにアプローチを続けられた……何がその原動力になっているのでしょうか。

そうですね……結局は、自分が楽しいからやっているんですよね。

例えば、ある程度自由になるお金を手にしたときに、旅行へ行くとか高いバッグを買うとか、幸せになるいろんな方法があるじゃないですか。わたしは、子どもたちに絵本を読んであげたりとか、駄菓子をいっぱい買ってあげたりとか、そういうことで幸せを感じるタイプなんでしょうね。ボランティアという気持ちでもない。自分がやってて楽しいから、その楽しみに時間とお金を使っているだけなんです。

もちろん、読み聞かせに行っても、毎回お行儀よく座って聞いてくれるわけではなくて、「ねえねえ、この本いつ終わる?」なんて言われることもありますよ。逆に、本当に面白い絵本だと、どんどん前ににじり寄ってきて、すごく素直に楽しんでくれる。反応があからさまなので、こっちも読み応えがあります。あんまりピンとこない絵本のときは、ダラダラして全然聞いてないのに、楽しい本だとノリノリで「もう一回読んで!」ってリクエストしてくるんです。すごく正直な反応を返してくるので、読む側も毎回修行みたいな気持ちです(笑)。

絵本を介したコミュニケーションを大切に

──子どもたちに読む絵本は、どのように選書されているんですか?

基本的には、読み聞かせ会をする施設にある本や、その日図書館で借りた本を30~40冊くらい並べて、子どもたちに選んでもらっています。「読みたい絵本を持ってきて」と言って、持ってきてもらうこともありますね。『すいどう』は、すごく子どもたちの食いつきがいいですよ。水が蛇口から出てくるまでの流れがわかりやすく描かれているので、子どもたちも身を乗り出して見ています。

──子どもたちに選んでもらう、というのはライブ感があっていいですね。

「こっち読んで!」「いやこれがいい!」なんて小競り合いしながら選んでくれます。こっちも「はいみんな落ち着いて! どれにするの?!」って言いながら(笑)。ある時は、働く車の図鑑をどうしても読んでほしいって持ってきた子がいて、これは3時間くらいかかるかもしれないな……なんて思いつつ読んだこともありました。

読み聞かせは、静かに始めた方がいいとか、文章以外の語り掛けをしない方がいいとか、そういう考え方もありますよね。わたしは、最初に子どもたちに絵本を選んでもらうので、にぎやかな状態で読み聞かせを始めますし、子どもたちが途中で話しかけてきて絵本が中断してしまっても、気にせず会話しながら進めています。自分が読んでほしい絵本が選ばれたり、選ばれなかったり……そういう体験もしつつ、与えられた本をただ受け身で読んでもらうだけじゃなくて、コミュニケーションをとりながら能動的に参加できる形がいいかなって思っています。

わたしの場合、絵本の読み聞かせは、その場を子どもたちが楽しんでくれることを大切にしているんです。子どもたちに合わせてアドリブや語り掛けをしてみたり、ときには収拾がつかなくなったりもしますけど、子どもたちが結果的に「おもしろいおばちゃんが来て楽しかったな」って思ってくれたらそれでいいのかなって。

大好きだった絵本の塗りつぶされたページ

──堀井さんご自身が、子ども時代に好きだった絵本、思い出に残っている絵本があれば、教えていただけますか?

やなせたかしさんの『やさしい ライオン』(フレーベル館)ですね。今も大事に持っています。母が保育士だったので、家には絵本がたくさんあったのですが、こればかり読んでいました。

みなしごライオンのブルブルが、お母さん代わりの犬のムクムクに育てられるんです。最初は小さいけれど、どんどん大きく成長していくので、危険だっていって人間たちが殺そうとするんです。

上京する時も大事にこの絵本を持ってきたんですが、その時改めてこの本を見返したら、銃を持ってブルブルを追いかけ回す人間たちが、マジックで塗りつぶされていたんです。多分、悲しみや怒りが沸き上がって、自分で塗りつぶしたんでしょうね。今でもそれを見ると、そういう気持ちを絵本から学び取っていたのかな、なんて思います。

絵本っておもしろいなって思うのが、ひとりひとりハマる作品が違うじゃないですか。好きだった絵本に影響を受けて大きくなるからか、小さい頃好きだった絵本を教えてもらうと、大体どんな人なのかがわかる気がします。

同期の記者に、好きだった絵本を聞いてみたことがあるんです。そうしたら『やっぱりおおかみ』ばかり読んでいたらしいんですよ。たくさんの絵本を与えられた中でも、『やっぱりおおかみ』だけピンときて、両親が仕事で忙しくていない間、ひとりでこの本ばかり読んでいたそうで、なるほどと思いました。その同期は、ひとりで中東に行って取材をするような人なんです。ひとりでさすらって、真実に迫っていく。幼少期に好んで読んだ本っていうのは、人となりにつながっていくのかな。

──小さい頃に好きだった絵本は、その人の根っこのようなものになるのかもしれませんね。堀井さんは、小学校以降も本はたくさん読んでいらっしゃいましたか?

読書は好きでしたね。ノンフィクションが好きで、図書館から1冊ずつ伝記を借りて読んでいた時期もありました。両親はそれが嬉しかったんだと思うんですが、ある日家に帰ると、伝記が全巻本棚に並んでいたんですよ。私は1冊ずつ借りて、読んで、戻すっていう読み方が好きだったのに、「みかちゃん、全部そろえたよ!」みたいな感じで。そこから急に冷めてしまって、読まなくなりました(笑)。

工夫して楽しんだ親子の絵本時間

──堀井さんは親になって、お子さんとはどのように本を楽しんでいらっしゃいましたか。

図書館でたくさん借りていたし、定期購読のようなものもしていたし、絵本は家にあふれていましたね。

仕事もあって忙しかったんですけど、絵本の時間がすごく好きで、いろんな工夫をして読みました。「はなさかじいさん」だったら、お話を読んだ後に、ティッシュの花吹雪を机の上とかソファの上から降らせて、本当に花が咲いたようにするとか。掃除をしないで寝てしまって、ティッシュが散らかったまま、朝家を出るみたいなこともありました(笑)。家の中にちょっとしたテントを張って、その中で読み聞かせをしたり、声を変えながら、バービー人形や三国志の人形を使って読んだり……いろんなことをしましたね。思い返すと、すごくいい時間だったなと思います。

──忙しくて、なかなか読み聞かせの時間が取れないという悩みをもつ方は多いですが、堀井さんは読み聞かせの時間を優先的に確保されていたのでしょうか?

1日3冊とか、読む冊数を決めて、できるだけ毎日読み聞かせをするようにしていました。読む絵本は子どもたちに選ばせるんですけど、すごく真剣に選ぶんですよ。

子どもたちに選ばせると、毎回持ってくる本が同じなんです。子どもたちも内容を覚えているので、ページをめくる前からそらんじるような状況で、わたしが一方的に読んでいるっていうよりも、一緒に読んでいるような感じでした。娘はわりとノリノリで参加していたんですけど、息子はしれっとして特にありがたみも感じてないような雰囲気でした(笑)。

──子どものそばに絵本があることには、どんな意味があると考えていらっしゃいますか?

絵本から感情を学ぶことって、すごく大切だと思うんです。これって悲しいことなんだ、とか、これって楽しいことなんだ、とか……小さい頃に絵本を通してそういう体験をしておかないと、成長して思春期を迎えた時に、今自分はどんな感情なのか分からなくなってしまう。自分の感情が認識できないと、モヤモヤだけがたまって、イライラしたり、周りの人に当たったりしてしまうじゃないですか。何に対しての怒りや悲しみなのかはっきりしてくると、その子自身の助けになるんじゃないでしょうか。

泣く、笑う、失敗する、嫉妬する……そういう疑似体験を、小さいうちからたくさんしておくことは、子どもにとって大事だと思います。

気を楽にしてくれた先輩の言葉

──子育て中は、楽しいこともたくさんありますが、仕事との両立に悩んだり、自分という存在が希薄になっていくように感じたり、先のことが思い描けなかったり、いろいろ考えてしまう時期でもあります。子育てがひと段落した堀井さんから、子育て真っ最中の方々へ、最後にメッセージをお願いします。

わたしも子育て中、いろんな仕事を断ったり、これできませんっていうことが重なったりして、すごくモヤモヤしていた時期がありました。そんな時、ある女性の先輩から「今は子育てしなさい。で、終わったら全力で仕事しなさい」って言われたんです。それを聞いて、すごく気が楽になったんですよね。「今はこれでいいんだ、一生懸命子育てしよう。その代わり子育てが落ち着いたら仕事に全力投球しよう」って覚悟が決まって、ぱっと気が晴れたんです。

わたしの場合は、今は子育て、落ち着いたら仕事に全力、というのがしっくり来たんですが、人によってこのバランスは違うと思います。今は子育てに100%取り組みたいから仕事はいい、とか、仕事をしっかりやっておきたいから仕事80%、子育ては人にも頼って20%ぐらい、とか、いろんなパターンがありますよね。いずれにしても、今の自分の気持ちに向き合って、自分の状況をしっかり認識しておく、そしてそれを周りの人にも伝えておくと、モヤモヤが少し減らせるんじゃないかなと思います。

あとは、10歳、20歳くらい上のロールモデルを作っておくと、夢が広がりますよ。わたしはタレントの清水ミチコさんが憧れなんですけど、今もおひとりですごい量のライブをこなしているんです。ちょっと派手なワンピースを着て、髪も赤く染めて……最高じゃないですか。頑張ればこの人みたいになれるかもしれない。そういう憧れの人を見つけておくと、視線がすっと未来に抜けるような気がします。

撮影:黑田菜月 

\絵本にまつわるインタビュー/

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