絵本がいいってほんと?

読み聞かせはいつから楽しめる? 子どもの発達と絵本の関係性|秋田喜代美先生①

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読み聞かせは子どもにいいらしい。そんな話を耳にしたことはありませんか? でも……絵本がいいってほんと? この連載では、さまざまな角度から、絵本と子どもの関係を解き明かしていきます。

今回のテーマは、「子どもの発達」。保育現場を見つめながら子どもの発達や教育について研究されてきた、東京大学名誉教授、学習院大学文学部教授の秋田喜代美先生にお話を伺いました。全3回でお届けします。

絵本の読み聞かせはいつから?

──「子どもの発達」という観点では、どのぐらいの時期から絵本の読み聞かせを始めるとよいのでしょう?

まず、子どもがいつ頃から絵本に反応を示すかといいますと、生後4か月ぐらいからです。

NPOブックスタート(*1)の調査(「ブックスタートがもたらすもの」に関する研究レポート 2014年)にも、その時期の事例が挙げられています。この調査結果を見たときに、私がなるほどと思ったのは、生後4か月ごろというのが、ちょうど追視(動くものを目で追うこと)が盛んになってくる時期なんですね。

赤ちゃんの視力は生後3~4か月から成長していき、1才ごろに0.3程度になります。早い、遅いはありますが、だいたい生後3~4か月になると、目の前の絵本に焦点を合わせて認識できるようになることもわかっています。

ただし、わかりやすい反応が増えて、赤ちゃんが「絵本を楽しんでいるな」と親御さんが認識できるようになるのは、生後9~10か月ぐらいでしょう。読み聞かせを早く始めると、それだけ発達が早まるということではありません。お子さんのペースで一緒に楽しんでいく気持ちが大事です。

赤ちゃんの時期は、絵本を最初から終わりまで読み通す必要はありません。特に0歳代のうちは、親御さんの語りかけや、親御さんと赤ちゃんが一緒に同じものを見て楽しむ時間をもつことに意味があると考えてください。

──早い時期に絵本を読んでみたけれど、赤ちゃんの反応が薄くて、「うちの子は絵本に興味ないみたい」と考える方もいらっしゃるようです。

まだ反応がなかったり薄かったりしても、赤ちゃんにとっては、親御さんが自分に語りかけてくれているということが大事なんですよね。

もちろん、その日の調子や状況によって落ち着きがないこともありますから、無理はなさらずに、最初は「1ページを一緒に」ぐらいの気持ちで読んでみてください。

赤ちゃんは安心感や安定感がないと、ちょっとした音に反応したり、外に注意が向いてしまったりということがよくありますから、落ち着いた環境でお子さんが安心できるように抱いてあげながら、赤ちゃんと眼差しを共有するイメージで絵本を楽しんでいただくとよいと思います。

成長に合わせた絵本の選び方

──赤ちゃんと楽しむ絵本は、どうやって選んだらよいでしょうか?

大事なのは、絵本を読む時間が、親子にとって楽しいものになっているかどうかです。最初はおもちゃのようにかじったり、たたいたり、次頁をめくろうとして遊んだりという感じですけれども、だんだんお子さんが関心を示すのはこういう絵本だということが見えてくると思います。

お子さんによっては、身の回りのものが描かれている絵本に興味を示すかもしれません。食べもの、乗りもの、生きものに興味を示す子もいます。絵は、色がはっきりしているものがよいという考え方もあれば、色は淡くても美しい絵がよいという考え方もあって、いろんなご意見がありますけれども、最初は親御さんが「好きだな」と思って、「子どもとこれを一緒に見ると楽しいな」というものを選ぶのがよいと思います。

長く愛されてきた定番の絵本はもちろんよいですし、若手の作家さんが作る絵本も親子で一緒に楽しめるものはいいですよね。お子さんの反応を見ながら、選んでみてください。

──成長とともに、絵本の楽しみ方はどのように変わっていきますか?

1才を過ぎると、だんだん指差しが始まり、いろんな言語の発達が始まります。この時期になると、言葉の音や響きを一緒に楽しんだり、リズムを一緒に体で感じたりできるようになっていきます。『もこもこもこ』(谷川俊太郎 作・元永定正 絵/文研出版)のような、音の楽しい絵本はよいですね。

食事や着替えなどの生活を描いた絵本も、楽しめるようになってくる時期です。『くだもの』のような食べものの絵本や、「うさこちゃん」のシリーズをはじめ、さまざまな絵本があります。子どもが「これ!」と持ってくる絵本があったら、ぜひ一緒に楽しんでください。

ちなみに、2~3才ぐらいの時期は、まだ遠近画法を理解できません。例えば『ちいさなねこ』という絵本に、ネコの尻尾の下に子どもが描かれている場面がありますが、子どもは「ぶつかっちゃう」と感じます。ネコは手前にいるわけなので、ぶつからないんですが、それがまだわからないということです。成長しながら、少しずつそういうこともわかるようになっていきます。

──言葉の受け止め方や、絵の見方も変わっていくのですね。

そうですね、ただ子どもには個人差があります。好きなもの……例えば電車がたくさん載っている本に惹かれるお子さんもいますし、早いと2才ぐらいから物語性のある絵本を好きになっていくお子さんもいます。

認知的な発達から言えば、自分の経験と重ねて理解できる生活を描いた絵本から、起承転結のある物語の絵本に移っていくのは、2才から3才あたりです。

子どもはお話の筋を追うだけでなく、絵本の絵を隅々まで見ています。そのため絵の中に気になるものがあると、「これなに?」と指をさして聞いてくることがあります。そういうとき、親は「お話をちゃんと聞いてほしい」と思うかもしれませんが、「ああ、こんなところの虫まで見つけてるんだわ」と、子どもの気づきを一緒に楽しんであげてください。

『はじめてのおつかい』という絵本は、絵の中にいろんな情報が詰まっています。この絵本を読んだあと、「くすりはきくや」と子どもが口にするので「何のことだろう?」と思ったら、絵の中の張り紙に書かれた言葉だったということも。それぐらい子どもは絵をしっかり見ています。

そんなふうに細部を楽しみながら、だんだん登場人物に自分の気持ちを重ねて「自分ごと」としてお話を楽しめるようになっていきます。いろいろなジャンルの作品にふれ、自分の経験したことのない世界を描いたファンタジーの絵本を楽しんだり、自分とは違う他者の気持ちを絵本から学んだりもしていきます。

絵本は「心のミルク」と言われることがありますが、食べ物から体の栄養が得られるように、心の栄養を絵本から得ることができる、ということです。絵本を楽しみながら、培われるものがたくさんあります。

一緒に楽しむ気持ちが大事

──こうして子どもの発達と絵本の関係性を知ると、発達を促すために絵本を読まなければ、と気負ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんね。

イギリスで始まったブックスタート(赤ちゃんのいる家庭に絵本をプレゼントし、絵本を介して親子の心のふれあいを生む活動)には、「Share books with your baby!」という理念があります。

本を赤ちゃんとシェアする、分かち合うということですが、その心がとても大事です。絵本を「読んで聞かせる」という一方向の感覚ではなく、一緒にそのお話の世界を旅しようという心の持ちようでもあります。

子どもの発達が目的になって絵本がその手段になったら本末転倒ですから、子どもと一緒にお話の世界に入り込むことを第一にしてくださいね。

「遊び」もそうですけれど、目的があって遊ぶのではなく、それが楽しいから遊ぶんです。だからこそずっとワクワクできるわけです。それが「学び」になると、目的があるので、「お勉強のためにこの本を読みなさい」ということになってしまうのですが、そうなってしまったら子どもも大人もおもしろくないですよね。

絵本を生みだす作家さんも、何かを学んでほしくて作っているのではなく、その絵本の世界そのものを味わってもらいたくて作っておられる方が多いと思います。

私たちの身の置き方として、その世界に入り込む気持ちで、ほんのわずかな時間でも子どもと目を合わせ、呼吸を合わせながら楽しむことが大切ではないでしょうか。
 

 ・出版社名のない書目は、福音館書店刊行
 

*1 NPOブックスタートは、ブックスタートを実施または検討する自治体に情報提供や支援活動を行っている民間の非営利組織。

 

第2回は 子どもの発達と絵本について
さらに深くうかがいます
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