さまざまな分野で活躍中の方に、絵本との思い出やエピソードを語っていただく「絵本とわたし」。記念すべきおひとり目は、大の絵本好きとして知られる俳優の美村里江さん。最終回は、美村さんが愛してやまない絵本と童話の数々をご紹介いただきます。
『もぐらとずぼん』は、小さいころから大好きな1冊です。もぐらくんが、ひと目見て気に入った青いズボンを手に入れるために奮闘して、最終的にはズボンを一から作ってしまうんですよね。この絵本を真似すれば、実際に生地も作れるし、染色もできてしまうのがすごい! ズボンを作ることに、ごまかしがないのがいいんです。この絵本が生まれたチェコは、実質的な国なんだろうなって、その国の背景も感じますよね。
それから、作ったズボンを履いて楽しむときに「ひとり」っていうのが結構大事なんです。素敵なズボンを見つけて、いろんな人に手伝ってもらいながら一生懸命作って、よく似合ってるってにっこりして終わる。わたしも、自分が何を好きなのかを発見して、いろんな人の手を借りたり、知恵をもらったりはするけれど、ひとりで満足に浸りたいタイプなので、もぐらくんの精神性はすごく憧れるし、こういう人生がいいなって思うんです。この絵本のせいでモグラ好きになりすぎて、わたしのパソコンには「もぐらの画像フォルダ」があります(笑)。
『エルマーのぼうけん』も大好きです。最初に出会ったのは、たしか姉が図書館から借りてきたとき。小学校の図書室にもあるのを見つけて何回も読んでいたら、「そんなに好きなら」ってことで、おばあちゃんが誕生日に買ってくれたんです。やっと自分の『エルマーのぼうけん』を手に入れて、すごく嬉しくて。登場する竜のデザインが、とにかくかわいいんですよね。
黄色とブルーの太いストライプに、赤い爪っていうだけで完璧に素敵なのに、さらにきょうだいがいるんですよ! 1巻目の『エルマーのぼうけん』ばっかり読んでいたんですが、ある時、2巻目(『エルマーとりゅう』)と3巻目(『エルマーと16ぴきのりゅう』)があることに気づいて。読んでみると、その中に竜の家族に出会う場面があって、全部柄が違う!!って大興奮しました。
それと、主人公のエルマーの用意周到さにも惹かれるんです。わたし、仕事の準備をするのが好きで、執筆や取材のときは、いろいろ読み返して下準備したり、撮影に行くときも、事前の役作りはもちろん、現場にどういうものを持っていこうかなって考えたり……仕事なんですけど、冒険でもあるんです。仕事柄いろんな現場に行って、いろんなことをやらせてもらうのもあって、冒険みたいだなって、いつも思っています。いろいろ準備するのが楽しくて好きなのは、エルマーのおかげかもしれません。
エルマーが知恵をつかって立ち回るところもいいんですよ。神聖な子どもの竜を力でねじ伏せて働かせるなんて……立派な犯罪ですからね。それに対して、エルマーは知恵で立ち向かう。子どもって、大人に勝ってみたい気持ちがあるんですよね。小さいうちは、ちょっと馬鹿にされたり、あなたにはまだ無理だって言われることも多いけれど、「エルマー」シリーズには、子どもだってできるんだ!っていう爽快感があるんです。
あとはこれ、『おなかのかわ』です。
母が持っていた絵本なんですけど、姉たちが買ってもらっているキラキラした本と比べて、この渋い紫がまずかっこいい!って胸がときめきました。他の絵本と何か違う、この空気に惹かれて、ここから村山知義さんの絵が大好きになったんです。すごくおしゃれですよね。カラーリングがちょっと不思議だったり、外国っぽい雰囲気があったり。
秀逸なのは、たくさんのクッキーと一緒に猫に丸飲みされたオウムが、クッキー2つだけを持って、猫のおなかから出てくるシーン。必要なだけ取り返せれば、それ以上は望まないっていうオウムの品格ですよ。一方で、王様と兵隊の行列まで飲んでしまった猫が、最後はカニという小さいものにジャイアントキリングされるところも好きです(笑)。何もかも丸飲みしたせいで、カニに切られてしまったおなかの皮を、自分で縫っている猫。こっちになっちゃいけないなって思います。まあ、本の中でこうやって暴れてくれるキャラも楽しいんですけどね。
『おばけリンゴ』も母親が持っていた絵本です。小さい頃は、りんごがどんどん大きくなるところや竜の退治の場面をワクワクしながら読んでいたんですが、大人になってみると、ちょっと不気味さも感じます。巨大なリンゴは、主人公が欲にかられて収穫を先延ばしにした結果なんですよね。最後の場面、主人公が、小さなリンゴでいい、2つでいいからリンゴがなりますようにって言うんですけど……どうして2つなんだろうって思いませんか。ひとつじゃなくて2つと言ってしまうあたり、最後まで欲望を制御しきれていないのか、または自分ひとりじゃく誰かと食べようという意識の変化でしょうか。次のリンゴがどうなったか気になりますね。
怖い本つながりで言うと、実は『こんとあき』も怖かった。今見るとこんなにかわいらしい絵本なのに、小さいころは読むたびにモヤモヤしていたんです。わたしは家族や親戚の中で一番年下だったので、子ども扱いされることに嫌な気持ちがあったんです。でも『こんとあき』では、自分と同い年ぐらいの「あき」より、さらに小さい「こん」が、張り切ってお兄ちゃんのように振る舞うじゃないですか。自分の抱えているコンプレックスと、その小さきものが失敗してボロボロになっていく悲しさが相まって、砂丘のシーンがすごく怖かったんです。
あきが荒涼としたところでひとり叫んでいる場面や、砂に埋まっていたこんが抱え上げられるところも絶望感が大きすぎて、最後のお風呂の場面を見ても全然ほっとできない。こんがかわいいふっくらした姿に戻るのに、わたしの心が戻ってこなくて……。中学生くらいのときに『こんとあき』を読み返して、「なんてかわいいんだ!」と思えたとき、大人になったなって思いました。今では、理不尽なことがあったり、気持ちがへこんだりしたときに読み返しますね。『こんとあき』は、気持ちを優しくふっくら戻してくれる気がします。
『やっぱりおおかみ』は、ペシミスティックなお話なので、へそ曲がり期に読むことが多いかもしれません。「やっぱり おれは おおかみだもんな おおかみとして いきるしかないよ」という言葉は、万人に当てはまるじゃないですか。いかに自分のことが疎ましかったり、もっとこうだったらよかったのにって思ったりしても、自分は自分でしかない。バージョンアップしていくことはできるけど、やっぱり根本とかは変わらない。「そうおもうと なんだかふしぎな ゆかいな きもちに なってきました」っていうのも、人生学というか。この境地にたどり着けたらいいよねって思います。
『三びきのやぎのがらがらどん』は、音読するとすっきりします。小・中・大のヤギの声を読み分けたり、トロールの気持ちの悪い感じを出してみたり……。特に、「おおきいやぎの がらがらどんだ!」っていうセリフは、声に出すとすごく気持ちがいい! わたしは結構ひとりで音読するんです。役者としての滑舌や発声のトレーニングにもなるので、発声練習をした後に自分の好きな絵本を音読することもあります。音読は、ひとりで読む方にもおすすめです。絵本って、読んだ時の響きやリズムまで考え抜いて作られているので、声に出して読むと気持ちいいんですよね。ぜひ恥ずかしがらず、ひとりでも楽しんでやってみてください。
写真:井上佐由紀
スタイリング:高橋さやか/ヘアメイク:千葉友子
トップス:KOTONA
アクセサリー:sorte glass jewelry
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