連載「絵本の選びかた」では、絵本選びに迷う方に向けて、絵本の楽しみ方や選び方のヒントをお届けしていきます。今回は、4才の子どものための絵本選びのポイントをご紹介します。
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体と心がどんどん成長し、できることが増えていく、4才の時期。言葉についても同様で、日々の会話などを通して、ものすごい速さで吸収していきます。また、読み聞かせを通して、絵本の言葉も次々に自分のものにしていきます。
4才ごろは、想像力もどんどん伸びていきます。想像力は、物語絵本を楽しむ上でも大切なもの。絵本を読んでもらう時、子どもは絵を手がかりにしながら、お話を聞き、想像をはたらかせて頭の中にイメージをつくりだします。挿絵と挿絵の間の時間経過や、その間に起こった出来事なども、想像力で補いながら、ストーリーを理解していきます。
ですから、想像力が飛躍的に伸びるこの時期は、物語絵本をより深く楽しめるようになっていく時期といえるのです。
物語絵本の魅力は、ページを開くと「もうひとつの世界」が広がるところにあります。現実とは違う「もうひとつの世界」に入り込んで、思う存分、心の冒険をすることは、とびきり楽しい体験です。
「もうひとつの世界」というと、壮大なファンタジーを思い浮かべるかもしれませんが、日常の中にもその扉は開いていて、子どもたちは存分に心躍る冒険に繰り出すことができます。
『おふろだいすき』は、おふろを舞台にした物語絵本。おふろが大好きな男の子 まこちゃんが体を洗っていると、湯船の底から大きなカメが姿を現します。いつのまにか双子のペンギンもやってきて、オットセイ、カバ、はてはクジラまで現れて……。
おふろという生活空間が、突如としてファンタジーの舞台に移り変わります。想像力豊かなこの年齢の子どもたちは、大人のように現実と空想の境目がはっきりしているわけではありません。絵本の世界にまるごと入り込み、実際に体験するかのように物語を楽しみます。
自分の家のおふろにも何か現れるんじゃないかな……と、湯船をじいっと見つめる子がきっと出てきますよ。
「3才向け絵本の選びかた」でご紹介した絵本を無理なく楽しめるようになったら、『おふろだいすき』のように文章量やページ数が多めのものや、設定や展開が少し複雑なものも織り交ぜてみましょう。
子どもが「楽しい」と感じられることが大事ですから、読み聞かせの絵本は、子どもが大好きなものが中心です。様子を見ながら、時々変化をつけて、少しずつ幅を広げていってください。
■ 物語の楽しさを教えてくれる絵本を、他にもご紹介します。
・『そらいろのたね』
・『はじめてのおつかい』
・『しょうぼうじどうしゃ じぷた』
・『だるまちゃんとてんぐちゃん』
・『ピーターラビットのおはなし』
・『どろんこハリー』
人から人へ語り継がれ、磨き上げられてきた昔話には、物語のおもしろさを存分に味わわせてくれるものがたくさんあります。本格的な昔話の絵本も、この時期に楽しみたいもののひとつです。
『三びきのやぎのがらがらどん』は、ノルウェーに伝わる昔話。3匹のヤギが、橋の向こうの山へ草を食べに行くことにしました。小さなヤギが橋を渡っていくと、ヤギを食べようと橋の下から大きなトロルが現れます。小さなヤギは、少し待てば自分より大きなヤギがやってくると教え、見逃してもらいます。続いてやってきた中ぐらいのヤギも、もう少し待てば自分より大きなヤギがやってくるとトロルに教えます。最後に大きなヤギがやってきて……。
大きなヤギを食べようとしたトロルは、ヤギの大きな角とひづめにこっぱみじんにされ、谷川へ落とされます。
このトロルの結末のように、昔話には一見すると残酷に感じられる内容が含まれますが、言葉や絵に細かい描写はなくシンプルに表現されているため、具体的なイメージには結びつきにくくなっています。最後に残るのは、物語のおもしろさです。昔話の絵本の中には、子ども向けであることを理由に内容を改変しているものも見られますが、本来の姿をゆがめるもので、あまりおすすめできません。
トロルや鬼など、怖いものが登場するお話は、年齢が低いと怖さが勝って最後まで聞けないことが少なくありません。でも、この時期になると、ドキドキしながらも、信頼する大人の声に守られて、楽しめるようになっていきます。個人差はありますので、様子を見て大丈夫そうなら読んであげてください。
■ 本格的な昔話の絵本を、他にもご紹介します。
・『かさじぞう』
・『いっすんぼうし』
・『やまなしもぎ』
・『おだんごぱん ロシアの昔話』
・『ねむりひめ グリム童話』
子どもの感性によりそった科学絵本を、引き続きお楽しみください。それは、知識を一方的に押しつけるものではなく、「やってみたい」「もっと知りたい」という気持ちを育てるものです。
「幼児絵本ふしぎなたね」シリーズの『てのひらおんどけい』も、そんな1冊。いろんなものに手のひらでふれて、その温かさや冷たさを確かめていく内容です。
この絵本を読んでもらった子どもは、好奇心の赴くまま、いろんなものに実際にふれてみようとします。日なたと日かげの温度の違いや、物質による温度の違いなど、さまざまな気づきが待っています。
ある幼稚園で、こんなことがありました。外遊びの時間、園庭の大きな石に座った子どもが急にハッとした表情を浮かべ、こう言ったのです。「せんせい、おしりでもおんどをはかれるよ」。おしりから伝わる石のぬくもりと、絵本のテーマが子どもの中で結びついたのですね。
このような科学絵本を楽しんでいくと、子どもは絵本と現実の世界を行ったり来たりしながら、体験を深めていくことができます。
■ 4才にぴったりの科学絵本を、他にもご紹介します。
・『びっくり まつぼっくり』
・『あーと いってよ あー』
・『だんごむしの おうち』
・『はるが きた! いいもの いくつ?』
・『100』
・『ふゆめ がっしょうだん』
・『みんなうんち』
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