わたしの限界本棚

女性作家たちの紡いだ言葉に力をもらった 25 冊の「シスターフッド」本棚|たくさんのふしぎ編集部・HY

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もし自分の蔵書を、ひと箱( 35㎝ 四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する “限界” まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第 18 回は、たくさんのふしぎ編集部・HYの本棚をご紹介します。

中学校からの帰り道、仲良しの女の子たちと、分かれ道の交差点で立ったまま何十分もおしゃべりするのが日課でした。毎日毎日よく話が尽きないね、と母は呆れ顔でしたが、他愛のない話でみんなと一緒に笑ったり怒ったりしていると、理不尽なことを言う大人たちにも立ち向かっていけそうな、そんな心強さを感じたものです。

自分の本棚を眺めてみると、女性の書いた本がなんと多いことか。女性たちの紡いだ言葉に励まされながら生きてきたことを実感します。あの頃の帰り道のおしゃべりみたいに、私を力づけてくれた本を集めて、「シスターフッド本棚」を作ってみました。

そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

子どもの頃好きだった本


1『クローディアの秘密』 E・L・カニグズバーグ 作 松永ふみ子 訳 / 岩波少年文庫
2『きょうはなんのひ?』 瀬田貞二 作 林明子 絵 / 福音館書店

子どもの頃、大好きで何度も読んだ2冊。
『クローディアの秘密』は、少女クローディアが弟を連れて、ニューヨークのメトロポリタン美術館へ「家出」をするお話です。お風呂は館内の大きな噴水、寝床は展示品の古いベッド。内向的で家でぬくぬく過ごすのが好きだった私にとって、船で海へ漕ぎ出したり大自然の中で野宿をするような冒険は怖かったけれど、美術館でこっそり暮らす冒険には大きな憧れをいだきました。今でも、海外の美術館に行くと、身を潜められそうな場所を無意識に探してしまいます。

旅の本


3『地球にちりばめられて』 多和田葉子 著 / 講談社
4『帰れない探偵』 柴崎友香 著 / 講談社
5『エストニア紀行―森の苔・庭の木漏れ日・海の葦―』 梨木香歩 著 / 新潮社
6『愉快なる地図 台湾・樺太・パリへ』 林芙美子 著 / 中公文庫

旅にまつわる本が好きです。中でも一番のお気に入りは、『地球にちりばめられて』。多和田葉子さんが描く、言葉をめぐる旅の物語です。故郷の島国が消滅して帰れなくなってしまった Hiruko は、同じ母語を話す人を探してヨーロッパ中を旅します。若い頃にドイツへ渡り、ドイツ語と日本語で執筆してきた作者ならではの、言葉への鋭い感性が光る作品です。

デンマーク、インド、イヌイットなど多様なルーツを持つ旅の仲間たちも魅力的。「僕らはみんな、ひとつのボールの上で暮らしている。遠い場所なんてないさ。いつでも会える」。国境も、言葉の違いも、人種の違いも軽やかにとびこえていく、渡り鳥のような本だなあと思っています。

『A子さんの恋人』

7~13『A子さんの恋人』 近藤聡乃 著(全7巻)/ KADOKAWA

この漫画と出会ったのは 29 歳のとき。
友人ふたりが、口をそろえておすすめしてくれたのがきっかけでした。

A子ちゃん、K子ちゃん、U子ちゃんは美大時代からの仲良し3人組。29 歳になった彼女たちは、それぞれ人生にちょっと行き詰っている。当時の私は、なんとなく自分と似た悩みを抱えた同い年の3人に、ずいぶんと元気づけられたのでした。意地悪を言いあったり、勝手に人の家にあがりこんだり、お世辞にも性格が良いとは言えない3人ですが、口には出さずとも誰よりもお互いを思っている、そんな関係性が素敵なのです。後日、すすめてくれた友人たちと「わたしは〇子ちゃんに共感した」などと盛り上がったのも楽しい思い出。

ヴァージニア・ウルフ

14『自分ひとりの部屋』 ヴァージニア・ウルフ 著 片山亜紀 訳 / 平凡社
15『燈台へ』 ヴァージニア・ウルフ 著 中村佐喜子 訳 / 新潮文庫

もしもシェイクスピアに妹がいたら。たとえ兄に負けない才能を持っていたとしても、女性だからという理由でものを書くことを許されず、絶望の淵で死んでいったことだろう――。1929年に出版された『自分ひとりの部屋』の中で、イギリスの小説家 ヴァージニア・ウルフはそう語ります。女性が男性と同じように文章を書くためには、自由なお金と、誰にも邪魔されない自分ひとりの部屋が必要である。女性が図書館へ入るのにも男性の許可をとらなければならなかった時代に、彼女は力強く訴えたのでした。
100 年後のいま、私は幸いにして自由なお金も時間も手に入れて、自分の部屋でこの原稿を書いている。過去の女性たちが声を上げ、道を切り拓いてきてくれたおかげです。大きな進歩ではありますが、それでもまだまだ道なかば。次の 100 年、女性が本当に生きやすい社会を作るために私たちは何をすべきか、ウルフから問われているような気がします。

ふせんだらけの本

16『他者の苦痛へのまなざし』 スーザン・ソンタグ 著 北條文緒 訳 / みすず書房
17『マザリング 現代の母なる場所』 中村佑子 著 / 集英社
18『迷うことについて』 レベッカ・ソルニット 著 東辻賢治郎 訳 / 左右社

悲しいことに、どんなに素晴らしい本でも、時間がたつと記憶がうすれてしまいます。いたく感動したことは覚えているけど、どんな内容だったかな……。そんなこともしばしば。なので、この一節を忘れたくない、折に触れて読み直したい、と思ったときは、迷わずページにふせんをぺたぺた貼るようにしています。この3冊のふせんを読み返してみたら、当時の感動が鮮明によみがえってきたり、逆に、なぜここにふせん? と首を傾げたり。人に見られるのはちょっと恥ずかしい、自分の思考の足跡をたどる旅になりました。

他に選んだ本は…

19『編むことは力』 ロレッタ・ナポリオーニ 著 佐久間裕美子 訳 / 岩波書店
20『別れを告げない』 ハン・ガン 著 斎藤真理子 訳 / 白水社
21『掃除婦のための手引き書――ルシア・ベルリン作品集』 ルシア・ベルリン 著 岸本佐知子 訳 / 講談社
22『読む時間』 アンドレ・ケルテス 著 渡辺滋人 訳 / 創元社
23『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』 大白小蟹 著 / リイド社
24『百年の散歩』 多和田葉子 著 / 新潮文庫
25『笹の舟で海をわたる』 角田光代 著 / 新潮文庫

 

 

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