わたしの限界本棚

ずっとそばにあってほしい 海外児童文学を軸にした29冊の本棚|「ちいさなかがくのとも」編集部・M

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もし自分の蔵書を、ひと箱(35㎝四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第11回は、「ちいさなかがくのとも」編集部・Mの本棚をご紹介します。

就職しておよそ16年の間に、7回引っ越しをしました。結婚・出産など様々な転機を迎えてのことでしたが、引っ越しをするたびになるべく荷物を少なくすべく、書棚を整理し、本を仕分ける作業をしてきました。この間、様々な本が増え、そして手元を去っていったのですが、読み返すわけでもないのにどうしても手放せない本、そばにいつもあってほしい本が、まるで棚の底に沈殿するように折り重なっています。住む場所が変わろうとも、本棚に並ぶなじみの本たちを見れば、自分の根っこにあるものを再確認して、ここが自分の居場所だと落ち着くことができるのです。

そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

《岩波少年文庫》

1『ジム・ボタンの機関車大旅行』
 ミヒャエル・エンデ 作 上田真而子 訳
2『しずくの首飾り』
 ジョーン・エイキン 作 猪熊葉子 訳
3『木曜生まれの子どもたち』(上・下)
 ルーマー・ゴッデン 作 脇 明子 訳
4『山賊のむすめローニャ』
 アストリッド・リンドグレーン 作 大塚勇三 訳
5『まぼろしの白馬』
 エリザベス・グージ 作 石井桃子 訳
 以上、岩波少年文庫

子どものころから海外の児童文学が好きで、ほとんどが岩波書店さんの児童書でした。当時はハードカバーが多かったのですが、大人になってから少年文庫になっているのを見かけると手元に置きたくなってついレジへ……。そんな本たちから特に思い入れの強いものを選びました。

ミヒャエル・エンデは『モモ』や『はてしない物語』が有名ですが、個人的に一推しの「ジム・ボタン」シリーズを投入。心優しくて力持ちの機関士ルーカスと少年ジムの冒険譚で、ハラハラしながら読み進めた感覚をいまも思い出すことができます。どうしたらこんなに不思議で美しくて楽しい世界を思いつくのかと、めくるめく想像力に酔いしれる物語です。

めくるめく想像力の女性代表としてジョーン・エイキンは外せないと思い、『しずくの首飾り』を。少し風変わりで美しいお話がつまった短編集で、きれいなものが見たい! と思ったときに読み返しています。

『木曜生まれの子どもたち』は大人が読んでも面白い、ほろ苦さを感じるバレエ物語の傑作です。かつて『バレエダンサー』というタイトルで出版されていましたが、新訳で再び刊行されたことに歓喜!

リンドグレーンの作品からは『山賊のむすめローニャ』を。美しくも厳しい自然を舞台に、野山を駆け回るローニャに憧れました。

『まぼろしの白馬』は登場する部屋や小物、食べ物の描写など、うっとりするようなディテールに彩られながらも、行動力のある主人公が魅力的。石井桃子さんの翻訳がとても素敵な、女の子の憧れがつまったファンタジーです。

《歴史もの》

7『時の旅人』
 アリソン・アトリー 作 松野正子 訳/岩波少年文庫
8『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』
 塩野七生 著/新潮文庫
9『ケルトの白馬/ケルトとローマの息子』
 ローズマリー・サトクリフ 著 灰島かり 訳/ちくま文庫
10『誇り高き王妃 ジョコンダ夫人の肖像』
 E.L.カニグズバーグ 著 小島希里・松永ふみ子 訳/岩波書店(品切)

『時の旅人』を読んで、この登場人物は実在した人なの⁉ と、ある種の感動を覚えたのが10歳くらいのころ。以来、歴史を題材にした小説や映画などに接すると、胸が高鳴ります。特に中世ヨーロッパ史が好きで、『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』をはじめ塩野七生さんの本を愛読していました。児童文学でも“歴史もの”にはドラマティックで大人も楽しめる作品が多く、中でもお気に入りの2作品を本棚に投入。

『ケルトの白馬』は、イギリスのアフィントン村に残る巨大な白馬の地上絵から着想を得た物語、誇り高き王妃 ジョコンダ夫人の肖像』より「ジョコンダ夫人の肖像」は、レオナルド・ダ・ヴィンチがモナリザを描くに至る物語です。著者のサトクリフとカニグズバーグは、それぞれイギリスとアメリカを代表するといっても過言ではないほど、素晴らしい児童文学をたくさん手掛けていますが、どちらの作品も全く甘いところがなく、本当にこんな出来事があったのでは、と思ってしまうほどの説得力に満ちています。そしてなんといっても、泣けます…! 過ぎし日の人々の思い、情景が生き生きと描き出されていて、苦しいほどの切なさが押し寄せます。物語の力ってすごい…!と読み返すたびに感じさせてくれます。

《アーシュラ・K・ル=グウィン》

11『影との戦い ゲド戦記Ⅰ』
 アーシュラ・K・ル=グウィン 作 清水真砂子 訳/岩波書店(現在は文庫で刊行)
12『ギフト 西のはての年代記Ⅰ』
 アーシュラ・K・ル=グウィン 著 谷垣暁美 訳/河出書房新社(品切)
13『ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ』
 アーシュラ・K・ル=グウィン 著 谷垣暁美 訳/河出書房新社(品切)

「ゲド戦記」をはじめて読んだときに“魔法”の在り方がそれまでに読んだファンタジーとは全く異なっていて、衝撃を受けました。真の魔法は世界の在り方を変えてしまう、とてもシビアな展開にしびれて夢中になりました。大人になってから出会った「西のはての年代記」シリーズは、より静かな物語ながらも、ゲド戦記と出会ったころの興奮を思い出させてくれました。特に好きな『ギフト』『ヴォイス』を入れていますが、後に続く『パワー』とあわせて読み応えたっぷりの3部作です。

《森見登美彦さん》

14『夜は短し歩けよ乙女』
 森見登美彦 著/角川文庫
15『ラ・タ・タ・タム ちいさな機関車のふしぎな物語』
 ペーター・ニクル 文 ビネッテ・シュレーダー 絵 矢川澄子 訳/岩波書店
16『虫とけものと家族たち』
 ジェラルド・ダレル 著 池澤夏樹 訳/中公文庫(品切)

森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』にキーアイテムとして登場する絵本『ラ・タ・タ・タム』。少し不気味さを感じる幻想的な絵に心をつかまれ、幼いころに繰り返し読み聞かせしてもらった絵本だったので、小説の中に『ラ・タ・タ・タム』の文字を目にしたとたん、わあ! と嬉しくなって、以来、森見登美彦さんのファンです。

この小説にはもう1冊とても好きな本が登場しているので、ぜひあわせて楽しみたいところ。『虫とけものと家族たち』はギリシャのコルフ島を舞台にした、ジェラルド・ダレルの自伝的作品で、ユーモア溢れる、とにかく愉快な物語です。虫をはじめ生き物が好きすぎる著者ご本人の生き物への偏愛っぷりも楽しいのですが、何よりも個性的すぎる家族たちが面白すぎます! 現実を忘れて幸せな気持ちになりたいときにおすすめです。

《“シスターフッド”》

17『本屋さんのダイアナ』
 柚木麻子 著/新潮社(現在は文庫で刊行)
18『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
 米原万里 著/角川文庫
19『幻の朱い実』上・下
 石井桃子 著/岩波現代文庫
20『笑う大天使(ミカエル)』1・2
 川原泉 著/白泉社文庫

限界本棚の選書をしていて、女性作家さんの本が多いな……と気づいたのですが、上記4作は、漫画・ノンフィクションなど、どれも形は違えど、女性同士の友情を描いています。読み返すたびにあたたかな励ましをもらってきた作品たちで、共通するのはシスターフッド的精神のように思います。どの作品にも、支えあい、時に反発しあいながら、その時代を生きる女性たちのしなやかな姿が描き出されていて、1冊1冊が、まるで大切な友人のように感じる本たちです

他に選んだ本は…

20『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(エリナー・ファージョン 作  石井桃子 訳/岩波書店 品切)|21『植物記』(埴 沙萠 写真・文/福音館書店)|22『まどのそとのそのまたむこう』(モーリス・センダック作 脇 明子 訳/福音館書店 品切)|23『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン 著 小尾芙佐 訳/早川書房 品切)|24『真珠の耳飾りの少女』(トレイシー・シュヴァリエ 著 木下哲夫 訳/白水Uブックス 品切)|25『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子 著/文春文庫)|26『ケッヘル』(上・下)(中山可穂 著/文春文庫 ※現在は電子版で刊行)|27『小石川の家』(青木 玉 著/講談社文庫)| 28『レキシントンの幽霊』(村上春樹 著/文春文庫)| 29『ヒューマン・コメディ』(ウイリアム・サローヤン著 関 汀子 訳/ちくま文庫 品切)

限界本棚、選んだのは書棚のごく一部のはずなのに、ものすごく“自分の本棚”感が出ていて驚きました。品切の本たち、ぜひ復刊してほしいです……!

\限界本棚はほかにも…/

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わたしの限界本棚
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SF・ファンタジーと歴史書、娯楽としての本を集めた22冊の本棚|営業推進課・N

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これまでに集まった限界本棚 一覧

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