親の知らない 子どもの時間

第14回 生き物と暮らす ─「どうにもならない」ということ ─

子育て |
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子どもと過ごす時間を大切に思っていても、いつも一緒というわけにはいきません。入園すると子どもは親の手を離れ、園で多くの時間を過ごします。わかっているようで、じつはよく知らない「子どもの園生活」。この連載では、大阪府堺市の「おおとりの森こども園」で園長を務める松本崇史さんの目を通して、子どもたちの日々を覗いていきます。

生き物と暮らす ─「どうにもならない」ということ

おおとりの森こども園には、大小さまざまな生き物がいます。

現在は、ヤギ2頭、ニワトリ1羽、うさぎ1羽、ケヅメリクガメ1匹、クサガメ1匹、ヒョウモントカゲモドキ2匹。そこに季節の生き物たち(ダンゴムシ、テントウムシ、バッタ、カマキリ、コオロギ、カナヘビ、オケラ、ヘビ……)が交ざり合いながら、共に暮らしています。

なぜ、こども園で生き物を飼育するのでしょうか? 

──ひと言で語るとすれば、「命と出会う」ためです。もちろん、子どもたち自身は、「命と出会ってやろう!」などと思ってはいません。ただ純粋に生き物に魅了され、共に暮らすことに喜びを感じているのです。 何に魅了されるかは、その子次第です。見た目のかわいらしさ、捕まえる楽しさ、手にのせられる嬉しさ、モフモフの感触、餌をあげる喜び……。生き物はさまざまな魅力をもっていて、共に暮らしていると、さまざまなかかわりが生まれていきます。

ふわちゃん、いくよ!

ニワトリのふわちゃんは、いつも園庭を自由に歩いています。

ある日、年長児の数名がふわちゃんをかかえて、築山の上に連れて行きました。何をするのか見ていると、「いちについて! よーいどん!」と競走を始めました。

子どもたちは一斉にゴール目指して走って行きます。ふわちゃんもなんとなく走りはじめましたが、盛大にコースアウト。子どもたちは戻ってきて、「どこ行ってるんだよ~!」「こっちだよ!」「いくよ!」と口々に声をかけ、ふわちゃんを何とかコースに戻そうと懸命です。 きっと、生き物といっしょに遊びたかったのでしょう。でも、相手は生き物。思うようにはいきません。

怖かった……

つい先日のことです。年長児のKちゃんが、ヤギの小屋を掃除していました。雨の中、カッパを着て、一生懸命掃除をしています。するとヤギのチョコくんがKちゃんのカッパの裾をかんできて、カッパが破れてしまいました。それでも、掃除をちゃんとやらなくちゃ……。Kちゃんはいろんな思いが交錯しながら、それでも頑張ったようです。

カッパが破れたことを報告しに来てくれたので、「そうかぁ、破れても頑張ってくれたんだね!」と言うと、コクっとKちゃんは小さくうなずきました。続けて「チョコくんね、大好きな人のほうに近づいて遊ぼうとするんだよ」と伝えると、Kちゃんは「怖かった……」とひと言。「そうだね、怖かったね。でも、頑張ったね」と言うと、またコクっと、今度は大きくうなずきました。

「年長だからお世話をちゃんとしなければ」という思いと、「大きくてちょっと怖い」という気持ちの狭間で、Kちゃんは生き物と暮らす責任を果たそうとしています。 生き物と暮らすと、子どもの力、あるいは人間の力では、「どうにもならないこと」が起こります。子どもと共に生きる保育者として、その「どうにもならない」ことにこそ、大きな意味があると考えています。

園長、あれ捕って!

ツマグロヒョウモン()が、ひらひら飛んでいます。子どもたちが虫網で捕まえようと追いかけています。ツマグロヒョウモンは園舎の壁にとまりましたが、高くて届きません。

「園長、あれ捕って!」と、子どもたちが叫びます。

「いや、おれも届かないよ!」
「じゃあ、抱っこして!」

“たかいたかい” の要領で抱き上げますが、それでも届きません。
「あー! どうしたらいいんだ!」と、頭をかかえる年長児のTくん。

すると、ツマグロヒョウモンがまた飛びはじめました。高く舞い上がるのを見て、子どもたちは、今度は園舎の2階に上がって捕まえようとします。しかし、屋根の上より高く飛んでいきました。 「あー! もう!」と、ちょっとお怒り気味の子どもたち。

タテハチョウ科に属するヒョウモンチョウの仲間

赤ちゃんを助けたい……

ある日、公園の池にカッパを釣りに行きました。ひもの先にキュウリをつけて池にたらし、カッパを狙うのです。

すると、池のほとりにザリガニが転がっていました。先に来ていた近隣の園がザリガニ釣りをしていたので、釣り上げたザリガニを池に戻そうとして、失敗したのかもしれません。そのザリガニを見ると、まだピクピク動いていました。3歳児のYくんが棒で引き寄せると、やはり生きています。

そばにいた保育者が、突然、「うわ! 見て、赤ちゃんだ!」と言いました。「え! どれどれ! うわ、本当だ! いっぱいいるわ!」とYくん。よく見ると、たしかにお腹に赤ちゃんが。

園長 :「どうしよう……? このままだと……」
Yくん:「連れて帰るわ! 園長も頼んだで!」
園長 :「それなら、責任をもって連れて帰ろう。ザリガニはね、1回連れて帰ると、絶対逃がしちゃダメな生き物だからね()」
Yくん:「赤ちゃんを守るわ。だから園長も運ぶとき、揺らしたりしたらあかんで」

年長児のTくんが「僕が持とうか?」と声をかけますが、Yくんは「いや、これは園長やわ」と私に渡しました。「任されました」と、連れて帰ります。

園に帰ると、クラスの全員に状況を伝えました。母ザリガニは園に着いてまもなく死んでしまいました。赤ちゃんザリガニたちは、なんとか生きています。母ザリガニが動かないのを見て、年長の何人かが「水の近くに埋めてくる」とお墓をつくりに行きました。「お母さんは助けられなかったね」という私の言葉に、「赤ちゃん、かわいそうやな」とTくんが返しました。

特定外来生物に指定されているため、野外に放つことは禁止されています

どうにもならないこと

生き物と共に暮らしていると、毎日のように「どうにもならないこと」が巻き起こります。

──ただ、それは、日常の中に常に「ある」ものです。「どうにもならないとき」や「どうにもならないこと」があるからこそ、人は考えます。感じることも、思うことも、あります。そうやって、考え、感じ、思うなかで、生き物への親しみが増していき、命に対する感受性が育まれます。

大人の場合は、生き物と暮らす際に、科学的な視点ももっています。
でも、子どもたちは違います。生き物と暮らすときに中心になるのは、「生き物の気持ち」なのです。

生き物と共に暮らすのは、正しい知識や適切な飼育方法を知るためではありません。

「どうにもならない」瞬間をめいっぱい生きること。
それ自体に大きな価値があるのではないでしょうか。

 イラスト・おおつか章世
  

 
 

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