こどものとも70周年

福音館社員が選ぶ 「こどものとも」わたしの1冊|『いもうとのにゅういん』(編集部OH)

絵本 |
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月刊絵本「こどものとも」が、2026年、創刊70周年を迎えました。
小さい頃に読んでもらったり、入社して出会ったり、子どもに読み聞かせたり……これまでに刊行された「こどものとも」から、福音館社員が思い入れのある1冊をご紹介します。

第5回は入社16年目、こどものとも第二編集部・OHの1冊。

ドキドキしながらめくった、『いもうとのにゅういん』

こどものとも第二編集部・OH
 

小さな頃に何度も読んだ絵本を、大人になってから改めてひらくと、当時とは少し違う印象を抱くことがあります。同じ物語なのに、心に残る場面や気持ちの動きかたが変化しているのです。

『いもうとのにゅういん』をはじめて読んだのは、幼稚園の頃でした。奥付を見ると、この絵本がハードカバーとして出た年は、私の生まれた年と同じ。偶然ですが、同い年のような親しみを感じています。

幼い頃の記憶でとりわけ鮮明なのは、中盤の一場面。盲腸になった妹のあやちゃんを連れて、お母さんが病院へ行ってしまい、家にひとり残されたあさえが、毛布にくるまってお父さんの帰りを待つシーンです。雷が鳴り、稲光がカーテンの隙間から差し込む夜の描写は、怖いのに目が離せず、子ども心に強く焼きついています。

毛布にくるまって震えているその場面と、お父さんが帰宅して部屋に明かりが灯る次の場面を、私は行ったり来たりしながら、何度もめくっていた記憶があります。今思えばそれは、赤ちゃんが「いないいないばあ」を好むように、不安と安心、緊張と緩和を、自分なりに繰り返していたのかもしれません。絵本には、強い感情の動きも、安全に体験させてくれる力があるのだなと思います。

ごめん ごめん。これでも ちょうとっきゅうで かえってきたんだよ。

帰ってきたお父さんの言葉に、あさえは(幼い私も)どれほど安心したことでしょう。長い不安な時間を越えて安心を取り戻したあさえの心は、今度は妹のあやちゃんへと向かいます。夜中に小さな灯りをつけて、病院にいるあやちゃんのために折り紙の鶴や手裏剣を折りながら、あさえは思い巡らします。

「あやちゃんが、もっとよろこぶものって、なにかしら……」
あさえは、かんがえ、かんがえ、ずっとかんがえつづけました。

絵本を読み返していて、小さい頃は、この文章がほとんど印象に残っていなかったことに気づきました。でも大人になったいま読むと、あさえの、幼いながらも妹を思う心が胸に迫ってきます。折り紙だけではなく、「もっと喜んでくれるもの」を探し続ける、あさえの優しさに改めて出会います。

あさえが選んだのは、(あやちゃんがいつも持っていってしまう)大切な人形、ほっぺこちゃんでした。自分の宝物をあげること。それは、あやちゃんを心から大切に思っている証であり、同時に勇気のいる行動でもあったはずです。お母さんが妹につきっきりで、寂しさもあったでしょう。それでも、妹のためにほっぺこちゃんをあげることに決める、そのけなげな気持ちに胸を打たれます。

私自身は兄がいる妹で、兄によく親切にしてもらって過ごしていました。でも、この絵本を読むときは、なぜかいつもあさえになったつもりでページをめくっていました。自分はこんなふうになれるかな、と少し不安に思いながら、雷の場面と、お父さんが帰ってくる場面を何度も行き来した頃を、この絵本をひらくたびに懐かしく思い出します。
 

『いもうとのにゅういん』 
 筒井 頼子 さく 林 明子 え

あさえが幼稚園から帰ってくると、お母さんはぐったりした妹のあやちゃんを病院につれていくところでした。友だちと遊びながら待っていると、お母さんが帰ってきて、あやちゃんが盲腸の手術で入院することになったといいます。あさえはお父さんが帰ってくるまで、ひとりで留守番をします。そのうち暗くなって、雷が鳴り……。妹の入院でちょっぴりお姉さんになったあさえの物語です。

*「こどものとも」1983年2月号
* 現在は「こどものとも絵本」として刊行


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こどものとも70周年
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