絵本のとびらを開いたら

《絵本のとびらを開いたら》第3回「絵本を上手に読むコツは?」①

絵本 |
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図書館の司書として長く子どもたちに本を手渡してきた伊藤明美さんに、絵本の魅力や楽しみ方について幅広く語っていただく連載です。絵本の奥深い世界をのぞいてみましょう!

第3回「絵本を上手に読むコツは?」その1

わたしの手元に1枚の写真があります。

保育園の4歳児に読み聞かせをした時、先生が子どもたちの表情を写してくれたものです。手前のじゅんくんは床をたたいて笑い、ひなとくんは後ろにひっくり返って笑い、まきちゃんたち女の子は両足をかかえ、顔を見合わせて笑っています。その表情はとても楽しそうで、子どもたちが心から絵本に浸っている様子がわかります。

読み手のわたしは絵本を見ているので、なかなか子どもたちの表情はわからないのですが、こうして先生が捉えてくださった子どもたちの写真はわたしの宝物です。

絵本『カニ ツンツン』

──わたしがそのとき何の絵本を読んでいたか、というと、『カニ ツンツン』(金関寿夫 文 元永定正 絵)です。

この絵本は「カニ ツンツン ビイ ツンツン」「イーニミーニ ムー ロッシーニ ショショーニ」「スプモーニ トトーニ スイート トスカニー」と、意味はありそうだけど意味不明の言葉が抽象的な絵とともに展開します。文字で書いてあるのは、オノマトペ・様々な民族の言葉・創作言葉。英文学者でアメリカ先住民の詩などを研究された作者ならではですが、大人はストーリーがわからずどうやって読めばいいのか悩む絵本です。

わたしはこの絵本を下は4歳から上は小学校高学年まで読み聞かせますが、最初は「なんだこれー?」「えーー!?」と言っていた子どもたちも、すぐにゲラゲラ笑い出し、わたしの後について、「ドンキー モンキー スモーキー ミルオーキー!」と叫び出します。「面白ーい!」「もう1回!!」と声がかかれば、繰り返し読みます。2回目からは子どもたちも展開がわかっているので、わたしが1行読むごとに良いタイミングでついてきます。わたしは子どもたちの声がおさまるのをまって、次の言葉を読みます。さながら言葉のボクシングのようなリズムが生まれます。

画面のどこかに小さく赤いカニ(?)らしきものが描かれ、「ツンツン」「ツン」と小さな字が添えられています。このカニに注目していた子もいました。「カニが増えた!」「あれ? 少なくなった!」「わー、巨大になった!」と驚きの声があがります。

最後の真っ赤な画面には何も絵がなく「チャララ」の文字だけ。真っ赤なカニに吸い込まれていきそうな終わり方が、子どもたちを違う時空につれていってくれました。

読み終わると、子どもたちは「あー、おもしろかったー!」「カニ ツンツン ビイ ツンツン」と叫びながらおへやに帰って行きました。子どもたちは大人より耳が良く、面白い音をすぐに覚えてしまいます。子どもに読むのはやっぱり面白いなあと、わたしも嬉しくなりました。
冒頭の写真を撮ってくださった先生も、「いやー、あんな風に読めばいいんですねえ。この本、どう読めば良いかわからなかったんですよ。子どもたち大喜びでしたね」と喜んでくださいました。

抽象的な絵の絵本 ─『ごぶごぶ ごぼごぼ』

こうした抽象的な絵の絵本は、昔勤めていた図書館ではあまり貸し出されませんでした。ストーリーがなく、大人がどう読んで良いかわからなくて敬遠してしまうのです。『ごぶごぶ ごぼごぼ』もそうした絵本のひとつです。

「ぷ──ん」「ぷく ぷく ぷく ぷくん」「ぷ ぷ ぷ ぷ ぷ ぷ」「ど ど どお──ん」「ごぶ ごぶ ごぼ ごぼ」という音のひびきの面白さと、抽象的な絵。

この絵本は10の見開き場面でできていますが、最初の3場面の背景は青、水色、黄。最後の3場面は黄、水色、青と逆になっていて、青から始まり青に帰ってくる構成です。使われている色は、青、水色、黄、赤の4色のみ。絵は丸と丸の変形のみ。実にすっきりしたデザインです。

さらにこの絵本は、画面に穴があいていて、前のページと後のページの色が見え、半立体的に感じられます。試しに本を少し開いた状態で床に立てて置いてみてください。穴から入った光が次のページに影を作り、過去から未来へつながる時間を感じさせる美しいデザインになっています。ブックデザイナーだった駒形克己さんは、絵本という2次元の世界で3次元の世界を表現したのではないかと思います。

『こぶごぶ ごぼごぼ』は、読んであげれば、0歳~2歳くらいまでの赤ちゃんがとても喜ぶ絵本です。「ぷ」という破裂音の後に「ど」、「ご」、「じ」という強い濁音から始まる音が続くことで、次の「ぷ」の楽しさがいや増します。「ごぶ ごぶ ごぼ ごぼ」「じゃわ じゃわ じゃわ じゃわ──」も、生活の中でよく聞く音ですね。赤ちゃんがお風呂に入って眠るまで、こんな音が聞こえているのかもしれません。

でも、そんな意味を考えなくても、気の向いたページから読んで、途中で終わっても良いでしょう。0歳から2歳くらいまでは、とくに、応答的な読みが大切です。絵をじっと見ていたり、指さしたりしたら、そこにある文字を読んであげる。一緒にことばと絵で遊んであげる。読み方は自由です。赤ちゃんは耳がよく、ことばのひびきを楽しんでいるのです。

絵本を上手に読むコツ①~③

絵本を上手に読むコツは5つ。
今回はそのうちの3つを紹介します。

コツの1:絵本のタイプに合わせて読むこと。
前回、前々回の『こすずめのぼうけん』『チムとゆうかんなせんちょうさん』のような、主人公がいて起承転結があるストーリーの絵本は、書いてある通りに読んでいきましょう。とくに読み方を工夫しなくても自然に読めば、ストーリーが動き出します。
一方、『カニ ツンツン』『ごぶごぶ ごぼごぼ』ように、抽象的な絵で、ストーリーがあまり感じられない絵本は、読み手が自由に、楽しく読むことをおすすめします(ふざけても良いですよ)。

コツの2:家庭での読み方に上手下手はないということ。
わたしは読むのが下手で、とおっしゃる方の中には、国語の音読を思い出している方がいらっしゃいます。子どもに絵本を読むのは音読ではありません。楽しんで読むのが絵本の読み方です。すらすら読めなくても良いのです。ある外国籍のお母さんは、日本語があまり読めなかったけど、子どもが待っていてくれたから、だんだん読めるようになったと嬉しそうに話してくださいました。子どもは何よりおうちの人に絵本を読んでもらいたいのです。

コツの3:繰り返し読むこと。
2回3回と繰り返すと、子どもも絵本の内容がわかって楽しみが増してきます。子どもは言葉にならなくても、「え?」と小さな声を出したり、「ふう」とため息をついたり、反応をしています。『カニ ツンツン』のように、言葉をついて言ってくることもあるでしょう。そうしたら、その反応を受け止めて、子どもの呼吸に合わせて読んでくだい。絵本を読むのが楽しくなります。

次回は、コツの4,5をご紹介しましょう。

※出版社名のないものは、福音館書店刊


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絵本のとびらを開いたら
《新連載・絵本のとびらを開いたら》第1回「子どもをとらえて離さない絵本」
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