子どもと過ごす時間を大切に思っていても、いつも一緒というわけにはいきません。入園すると子どもは親の手を離れ、園で多くの時間を過ごします。わかっているようで、じつはよく知らない「子どもの園生活」。この連載では、大阪府堺市の「おおとりの森こども園」で園長を務める松本崇史さんの目を通して、子どもたちの日々を覗いていきます。
「生活リズムを大事にする」ということは、家庭の子育てにおいても、こども園の集団生活においても、よく言われます。子どもたちが安心して生活を送るために、早寝早起きに代表されるような生活リズムが必要であることは、多くの人が理解するところです。
ですが、生活リズムを守ることは容易ではありません。特に子どもの集団生活の場合、さまざまな家庭環境で過ごしている子がいるため、最初にひとりひとりの生活リズムを把握するところから始めなければなりません。登園時間も降園時間も違う中で、どうやって保育者は子どもたちの生活リズムをつくっていくのでしょうか?
──大きく分けて、2つのパターンがあります。
ひとつは、園の都合に合わせて、半強制的に生活の流れを決め、それに子どもたちが合わせていくもの。もうひとつは、ひとりひとりに寄り添うという観点から、保育者が個別に合わせていくものです。
どちらにもメリットとデメリットがありますが、大切なのはそれが子どもたちにとって心地よいかどうかだと思います。
おおとりの森こども園では、この2つをうまく組み合わせることを意識しています。給食や午睡(昼寝)などの生活の節目となる出来事を組み立てて、できるだけ同じ時間に、同じ場所で、同じことが繰り返されるようにしていきます。そうして基本となる生活リズムを保育者がつくりながら、一方で必要に応じて個別に向き合い、子どもたちの自立をめざしています。
「みんなー、給食の時間だよ!」と声がかかると、子どもたちはいっせいに身のまわりのものを片づけて、いっせいにトイレに行き、用意のできた子からイスに座っていきます。
しかし、3歳児のAちゃんは、保育室の隅にポツンとひとり座ったまま。保育者が「Aちゃん、トイレ行って。ごはん食べる時間だよ」と語りかけると、Aちゃんは振り向きもせず「いやー!!!!」と叫びました。

見るとAちゃんは、その手に何かを握りしめています。保育者が、「それなーに? 大事なもの?」と聞くと、手をひらいて見せてくれました。それは積み木でした。
「あぁ、これを守ってほしかったの?」と聞くと、「うん」とうなずいて立ち上がります。保育者は積み木を棚の上に置き、「守っておくね」とAちゃんに伝えました。Aちゃんは安心したようすで、トイレに向かいました。
こちらも給食の時間のこと。1歳児のHくんが給食を前にして、「いや!!!」と言っています。保育者が「食べてほしいな~」と話しかけても、「ううん!!」と拒否。
「そっかぁ、食べたくないんだ。どうしよう?」と保育者はいろいろ声をかけますが、その日、Hくんは最後まで食べようとしませんでした。次の日も、その次の日も、食べない日が続きます。Hくんの保護者も心配している様子です。
でも、Hくんに寄り添うことを大切に考えると、強制はしたくありません。どうしたらよいのかな? と悩む日々です。
──AちゃんとHくんの事例は、どちらも実際に起こったことです。
給食のためにいっせいに動かされることを拒絶しながらも、自分の気持ちを汲んでもらって、給食に向かったAちゃん。自分に合わせてもらいながらも、食べない日々が続くHくん。どちらの場合も、保育者は適切なかかわり方をしています。
子どもに寄り添うだけでは、リズムがバラバラになってしまいます。かといって、子どもたちに強要すれば、気持ちが置き去りになってしまいます。
あらためて「生活リズムとは何だろう?」と考えさせられます。
一方で、子どもたちを見ていると、「同じことを繰り返す心地よさ」もちゃんと感じていることがわかります。同じことを同じ時間に同じ場所ですると、心がホッとする。それが、生活リズムの根幹だと思います。
心地よさを感じられる生活リズム、それは子どもたちが自身でつくっていくものではなく、私たち大人がつくってあげるべきものではないでしょうか。
0歳児の子どもたちは、登園するとまず便器に座ります。午睡明けも、便器に座ります。その時、保育者はすぐそばで、「しーしー出るかな? 出ないかな?」と笑顔で楽しそうに話しかけます。顔を見ると、子どもたちも、なんとなく晴れやかな表情です。
ある日、Iちゃんは初めて「しー」と便器でおしっこが出ました! 「わー!! 出たね!」と保育者は喜びます! でも、Iちゃんは「わ~!!」と泣きだしました。初めてのことに、びっくりしたのです。でも目の前の大人たちは、なぜか、とっても喜んでいます。Iちゃんは「あれ?」という顔をして、なんだか嬉しい気持ちに……。
──こんなふうに、毎日同じことを繰り返してルーティンをつくると、子どもたちはリラックスします。
おしっこは、リラックスしていなければ出ないもの。この日、Iちゃんがおしっこできたのは、同じことを繰り返す心地よさをIちゃんが感じられている証拠です。
1歳児のOちゃんは、登園すると、毎日必ず5歳児の保育室に入っていきます。そして、その部屋で飼われている生き物を順番に愛でていきます。表情はニコニコ。なかなか1歳児の部屋に行こうとしません。
毎日繰り返されると、5歳児の子どもたちも気づきはじめます。なんとかOちゃんを1歳児の保育室に行かせようと、みんなで楽器を鳴らしたり、歌を歌ったりして気を引こうとするのですが、ふしぎなことにOちゃんが生き物を見ている間は、それを邪魔しようとしません。Oちゃんの気持ちに寄り添おうとしているのです。
──生活リズムは、大人がつくってあげるもの。子どもたちが安心できるようにそれを築いていく方法を、私はこうした子どもたちの姿から学んでいます。

こども園の一日の流れは決まっています。その中で、子どもたちがひとつひとつのことを「できる」ようにしていくために、保育者は一生懸命かかわっています。でも、子どもが大事にしている心持ちは、決してないがしろにしません。
生活リズムを守りながら、その時々の子どもたちの気持ちも大切にする。そのバランスが難しいのです。子どもたちは、大人が気持ちを込めて伝えていれば、それに応えようとしてくれます。だからこそ、私たち大人は、子どもたちが「心地よいと感じているか」ということに、敏感でなければならないと思います。
──考えてみると、子どもたちにとって、保育者がそばにいることも毎日の繰り返しです。それが心地よいものであれば、子どもたちはリラックスして、毎日を過ごすことができます。そして保育者との間に親しみや信頼の気持ちが育っていきます。日々登園して保育者に出会い、ともに過ごすこと。それは、子どもが身近な人と心を結んでいくための「生活リズム」といえるのかもしれません。
イラスト・おおつか章世
▼ 前の回を読む ▼
*園の先生方へ*
こちらもぜひご覧ください
園向け情報サイト「こどものとも ひろば」
今月の「とものま」
来月は これ読もう!
こどものとも70周年
こどものとも70周年
親子でたのしい! えほんやさんぽ
絵本のとびらを開いたら
わたしの限界本棚
行ってきました!
こどもに聞かせる 一日一話
こども時代、どう生きる!?
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話