絵本のとびらを開いたら

《絵本のとびらを開いたら》第10回「だるまちゃん」は子どもの代表 ─ かこさとしさんの絵本

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図書館の司書として長く子どもたちに本を手渡してきた伊藤明美さんに、絵本の魅力や楽しみ方について幅広く語っていただく連載です。絵本の奥深い世界をのぞいてみましょう!

第10回「だるまちゃん」は子どもの代表 ─ かこさとしさんの絵本

2026年、かこさとしさんの生誕 100 年ということで、各地で展覧会が開かれています。600 を超えるその著作の中でも、とくに親しまれている「だるまちゃん」シリーズは、全部で 11 冊、福音館書店から出版されています。

この連載の第6回(読み継がれてきた本の力①)、第7回(読み継がれてきた本の力②)で、大学での読み聞かせグループワークのことを書きましたが、わたしが課題に挙げた8冊の中で、ある大学で最もよく読まれたのは、1967年に出版された『だるまちゃんとてんぐちゃん』(加古里子 作・絵)でした。

「大好きだった」「今読んでも面白い」という大学生。わたしは毎年、保育園の4歳クラスに読みますが、読むたびに、この絵本の底堅い魅力を感じずにはいられません。
   

『だるまちゃんとてんぐちゃん』

『だるまちゃんとてんぐちゃん』で、だるまちゃんは友だちのてんぐちゃんと遊んでいて、てんぐちゃんのようなうちわが欲しいと、おとうさんのだるまどんにねだります。だるまどんは床一面にたくさんのうちわを出してくれました。火の用心と書いたうちわ、ピンクの羽つき扇子……。おかあさんもうちわを持ってきてくれています。
「こんな うちわじゃ ないんだけどな」
だるまちゃんは、やつでの葉っぱをうちわにします。
てんぐちゃんは「ずいぶん いいもの みつけたね」と言ってくれました。

だるまちゃんは、てんぐちゃんのような帽子や履きものも欲しがりますが、そのたびにだるまどんはちがうものばかり出してしまいます。
赤くて長くてとんぼのとまる “はな” がほしいというだるまちゃんに、だるまどんが出したのは、カーネーション、チューリップ、バラ……。
「ちがうよ ちがうよ まるでちがうよ。 ぼくのほしいのは、さいている はなでなくて かおにある はなだよ」

『だるまちゃんとてんぐちゃん』P20-21

「ごめん ごめん。 これは おおまちがいの とんちんかん」
だるまどんはおもちをついて、かたちのいいながい鼻をつくってくれます。

この本で、子どもたちが好きなのは、だるまどんが出すものが、ずらりと並ぶ、もの尽くしの場面。うちわは 17、帽子は 37、履きものは 44、花は 20 も描かれています。ひとつひとつ見ていくと、子どもたちから、「ちがうよ」「そんなんじゃないよ」と、声が上がります。とくに帽子のページには、見たこともない帽子がいくつも並び、「なにこれ?」と不思議がっています。子煩悩なゆえに空回りしてしまう、憎めないだるまどん。子どもは作る過程を楽しみたいのに、早合点をして買い与えようとしてしまう、かこさんご自身の父親の姿が投影されているそうです。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』P10-11

だるまちゃんは、おとうさんが勘違いしているとわかると、自分で工夫して、問題を解決します。お椀を帽子に、ままごとのまな板が履きものに。子どもたちは最初は気づきませんが、じっくり絵を見直し、画面の端に、だるまちゃんのアイデアにつながるヒントが描かれているのを発見します。

だるまちゃんの家族は、おとうさんだけでなく、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃん、いもうとも一家総出でだるまちゃんの望みをかなえようとします。そして、てんぐちゃんは、だるまちゃんが持ってきたものをみんな受け入れてほめてくれます。
だるまちゃんの発想の豊かさ、だるまどんが息子のために手を尽くす愛情の深さ、家族のあたたかさ、てんぐちゃんの優しさ、子どもたちは何回読んでも飽きません。

わたしは、大学生の読み聞かせの声を、絵を見ずに聞いていて、ことばのリズムのよさに驚きました。とくに、「ごめん ごめん。 これは おおまちがいの とんちんかん」など、吹き出しそうになりました。この絵本はことばも楽しい本だったのですね。

かこさんは「作者のことば」に、「(だるまは)親しみあるひげの顔と赤橙色の丸い僧衣の日本的な姿と心となって多くの玩具となりました。その幼児形で現今日本の子どもの代表となってもらいました」と、書いています。また、天狗は日本では深山の精霊で、その幼児形をだるまちゃんの友だちにしたとあります。
調べてみると、天狗のうちわは、猛禽類の羽でできていて、その不思議な力で風を起こしたり空を飛んだりできると信じられていました。植物のヤツデの葉は天狗のうちわににていることから「天狗の羽団扇(はうちわ)」とも呼ばれ、厄除けや魔除けとして植えられることが多いそうで、かこさんはそれを絵本の中に生かしたのでしょう。 
 

『だるまちゃんととらのこちゃん』

『だるまちゃんととらのこちゃん』(加古里子 作・絵)は、5歳クラスの子どもたちが夢中になりました。とらのこちゃんは、郷土玩具や縁起物として作られている、紙や土でできたとらがモデルです。

だるまちゃんはとらのまち3丁目のとらのこちゃんの家に遊びに行きます。とらのこちゃんのお父さんはペンキやさんですが、ひまで元気がなさそうです。だるまちゃんはペンキを塗ったり絵をかいたりして遊びたいと思ったのですが、ペンキはおとうさんが仕事につかうからだめ、ととらのこちゃんは言います。そこで、だるまちゃんはいいことを思いつきました。
だるまちゃんととらのこちゃんは、黄色い土と赤い泥で、泥の絵の具と土のペンキを作ります。赤はだるまちゃん、黄色はとらのこちゃんの色です。
「だるまは あかいろ とらのこ きいろ ぼくらは ともだち なかよしなかま もえる ちからは あかきいろ」
と、リズムよく歌いながら、とらのまちの道や壁を赤と黄色に塗っていきます。縞模様・波模様・丸・三角と、器用にどんどん塗っていくふたり。
花屋さんがそのできばえに感心して、店に模様を描いてほしいと言うと、とらのこちゃんはおとうさんのペンキやさんを紹介します。とらのこちゃんは遊びながら、しっかり営業活動をしているのです。1丁目から2丁目と、歩道や壁はふたりの長い長いキャンバスになり、なぜとらのこちゃんの家が3丁目に設定されているのかわかります。

『だるまちゃんととらのこちゃん』P16-17

でも、調子にのりすぎて、そばにとめてあったタクシーに、土のペンキが飛んでしまいます。
「こらこら こどもたち ちょっと まった」と、こわい顔のひげとらどんに問い詰められて、泣き出してしまうとらのこちゃん。
ふたりのペンキは雨が降ればもとどおりになる泥のペンキだと聞いたひげとらどんは、とらのこちゃんのおとうさんのもとへ。そして「あめが ふっても とけない」ペンキで、ひげとらタクシーのくるま全部の塗装を注文します。ひげとらどんは、だるまちゃんたちの仕事ぶりをおおいに評価してくれたのです。
大忙しとなったおとうさんは、おかあさんに花屋さんなどからの仕事を任せ、だるまちゃんたちは、おかあさんを手伝って、こんどは本物のペンキを使って、思う存分、お店に楽しく色を塗っていきます。
「いいなあ」と子どもたち。思いっきり絵が描けるのが、うらやましそうです。
その後も続くペンキ塗りの注文。たたみかけるような展開が、子どもの期待を高めます。

『だるまちゃんととらのこちゃん』P28-29

やがて、ずらりと並んだ車は色とりどりに塗られました。みなきれいな模様に塗られ、子どもたちから「わっ」と歓声があがります。「トラックだ!」「ブルドーザーだ!」「自転車もある」「おかあさんも塗ってる!」の声。見ると、おかあさんも赤ちゃんをおぶいながらベビーカーに色を塗っています。『だるまちゃんとてんぐちゃん』と同じく、ずらりと並んだ絵をひとつひとつ見ていく楽しみがここにもありました。

たっぷり遊び、考えること

かこさんに日本の子どもの代表を託されただるまちゃんは、どの本でも、自分で考え、行動して、状況を打開します。いかにも楽しげに。それを支えているのは、周囲の大人たちです。ひげとらどんもだるまどんと同じく強面ですが、根は優しく、あたたかです。子どもたちが幸せに育つには、たっぷり遊び、考えること。そして、まわりで見守り、困ったときは手助けもする大人が必要だと、かこさんは言っているようです。

「子どもたちは、ちゃんと自分の目で見て、自分の頭で考え、自分の力で判断し行動する賢さを持つようになってほしい。その手伝いをするのなら、死にはぐれた意味もあるかも知れない」¹ 。

戦時中の反省から戦後を歩み出したかこさんの言葉に、かこさんの絵本を今の子どもたちに読み継ぐ大切さを思います。 

1:『未来のだるまちゃんへ』(かこさとし 著/文春文庫) 20頁より引用
   
 ※ 出版社名のないものは福音館書店刊

 

 

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