月刊絵本「こどものとも」が、2026年、創刊70周年を迎えました。
小さい頃に読んでもらったり、入社して出会ったり、子どもに読み聞かせたり……これまでに刊行された「こどものとも」から、福音館社員が思い入れのある1冊をご紹介します。
第17回は入社34年目、編集総務室・Aの1冊。
編集総務室・A

月に何回か、ちーちゃんに会いにゆくことになった。私の顔を見るとうれしそうにする。しかし、あれこれ話しかけても少しうわの空の様子。テレビをつけても注意を向けるそぶりはない。ほんとうは何をする必要もなく、ただ一緒に過ごすだけでよいのだけれど、こうなるとやはり居心地が悪い。何度かそんなことをくりかえすうち、はたと思いついた。ここは絵本の出番、読み聞かせだ! さっそく試みると、予想を超えるうれしい反応が返ってきた。何につけても関心を示さなかったのに、絵本の世界を心底楽しんでいる様子が伝わってくる。

一番のお気に入りは『おおきなかぶ』。ページをめくるたびに、画面全体に視線を巡らせたり気になるところをずっと見続けたり、感じたことを口にすることも。「こんなにおおきなかぶがあるかねぇ?」「おじいさん、びっくりして腰ぬかしちゃった」「おじいさんがいちばんよろこんでる!」。繰り返しのことばにさしかかるといっしょに、「うんとこしょ どっこいしょ!」。


ちーちゃんはもうすぐ 90 歳。私自身、絵本を子ども以外にも届けることはできないかという思いを持っていた。しかしこれほどまでに、人生の大ベテランの、心の奥底に仕舞われかけたものを呼び覚ます力があろうとは! 今は会いにゆく足取りもいくぶん軽い。絵本を子どもだけのものにしておくのは、いかにももったいないことではないか。

1962年に月刊「こどものとも」として刊行された『おおきなかぶ』。最初の東京オリンピックの翌年生まれの私の幼稚園時代には、すでにハードカバー絵本としても刊行されており、お遊戯会でも劇として演じられていた。佐藤忠良さんが『おおきなかぶ』を描いたその人だと知ったのはずっと後のことだが、私の故郷の橋には忠良さんの彫刻作品が設置されている。母校の中学校の校長は、シベリア抑留の憂き目に遭ったことを折に触れて話してくださった。忠良さんもやはり抑留生活を経験されている。望まぬこととはいえ、かの地で過ごしたことが作風にも影響を及ぼしたとされている。小社への入社後、幸運なことに忠良さんのお話を少人数で聞く機会があった。やさしく静かでありながら、揺るがぬ根っこを感じさせる語り口を忘れはしない。
こうしたこともあって佐藤忠良さんに親しみを感じてきた。そして今、卓越したデッサンの力と内田莉莎子さんの名訳でもって、閉ざされたちーちゃんの心を解き放つのを目の当たりにして、『おおきなかぶ』は私にとって、よりいっそう特別な一冊になった。

『おおきなかぶ』
A・トルストイ 再話 内田 莉莎子 訳 佐藤 忠良 画
おじいさんが植えたかぶが、甘くて元気のよいとてつもなく大きなかぶになりました。おじいさんは、「うんとこしょどっこいしょ」とかけ声をかけてかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。おじいさんはおばあさんを呼んできて一緒にかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。おばあさんは孫を呼び、孫は犬を呼び、犬は猫を呼んできますが、それでもかぶは抜けません。とうとう猫はねずみを呼んできますが……。力強いロシアの昔話が絵本になりました。
*「こどものとも」1962年5月号
*現在は「こどものとも絵本」として刊行
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