えほんとわたし

児童書から感じた子どもへの誠実なまなざし|作家 背筋さん

絵本 |
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さまざまな分野で活躍中の方に、絵本との思い出やエピソードを語っていただく「えほんとわたし」。絵本にかかわるエピソードを通して、その人をもっと知ることができる、そんなインタビュー連載です。

今回は、「このホラーがすごい!2024年版」第1位、映画化もされた『近畿地方のある場所について』の作者である背筋さんにお話を伺いました。子どものころ、ある本を読んで衝撃を受けたそうです。そして、ホラーと縁の深いおばけの絵本についてもお話を伺いました。

作者の矜持が伝わる『いやいやえん』

──背筋さんは、幼いころ絵本や児童書に親しまれていたそうですね。何を読まれていましたか?

好きだった本はいろいろありますが、まずはいやいやえんです。本に出てくる「ちゅーりっぷほいくえん」には、子どもが守らなくてはならないたくさんの“約束”があるのですが、主人公のしげるは1日のうち、17 回もその約束を忘れてしまいます。それがリストになっていて、そのひとつが「はなくそを、なめました」だったんです。パワーワードですよね(笑)。「はなくそってなめるものだったんだ……」って幼心に衝撃を受けたのをすごく覚えています。

ほかにも、「せんせいがおはなしをしているとき、くすぐりっこをしました」とか、「うたをうたうとき、めんどうくさいので、ねていました」とか、リアリティをもって書かれている感じが面白かったんです。大人になって読んでも楽しいですね。

『いやいやえん』(中川李枝子 作 大村百合子 絵)より

──子ども時代に読んだ本なのに、背筋さんが細かいところまで覚えていることに驚きます。

この本はすごく印象に残っていました。書く側として「子どもらしい悪いこと」を考えたとき、大人がいかにも考えましたという、リアリティのないものならすぐに思いつくと思うんです。でも、おそらく、子どもというものを極限まで、妥協せずに追求すると、「はなくそを、なめました」となるんだろうな、と。

子どもってこういうものだろうっていう固定概念みたいなものにとらわれず、ものすごく誠実なまなざしで書かれているんだろうな、と今改めて読んで気づきました。子どもに対する作者の矜持を感じますよね。

たぶん、子どもの頃の自分も、この本からそのまなざしを無意識で感じ取ったからこそ、この「はなくそを、なめました」に感動して驚いたんだと思います。

ホラー作品においてもそうですが、ストーリーはもちろん大事だけれども、肝はやはり描写にあると言われています。読んでいる人が、まるで自分が本当にそこにいるかのように思わせるようなリアリティを持たせる、というような。

この本を読んだ子が、「しげるは私のこと」だとか、「この“罪状”は私のもの」って思わせることが大切なんだろうと思います。

おばけに会いたくて夜更かし

──世代を超えて子どもに読まれている作品には、そういうまなざしが欠かせないのかもしれませんね。他にはどんな本を読まれていましたか?

せなけいこさんのねないこだれだですね。私はこわいと思ったことはなくて、とても楽しい絵本として読んでいました。おばけが本当にかわいかったんですよね。「よなかは おばけの じかん」とあるので、おばけに会いたくて夜更かしをしていたほどです。

最後、寝ない子はオニにつれていかれるぞ、のような脅しではなく、「おばけに なって とんでいけ」で終わり、その先に何が待っているかは絵本には描かれていないのもよかった。

せなさんの『おばけにあったうさんごろ』(あかね書房/品切れ)も大好きでした。自分で本を読むようになったころ、この本をずっと読んでいました。おばけがかわいいんですよね、やっぱり。

──背筋さんにとって、おばけとは、かわいくて、魅力的な存在なのですね。

そうですね。おばけはこわいけれど魅力的というのはずっとあって、それは「ゲゲゲの鬼太郎」などの水木しげるさんの作品の世界観に触れたというのもきっとありますが、でも幼少期に出会った『ねないこだれだ』は大きかったと思います。

続きが予測できないから楽しい

──他にもお気に入りの本があると聞きました。

おおきな おおきな おいもです。黒と紫の色(インク)だけが使われているというのに惹かれました。そして、おいもがおいしそうで。

この本は、幼稚園の芋ほり遠足の前に先生がみんなに読んでくれたんです。だから期待をふくらませて、芋ほりに出かけた記憶があります。

あと、この本は、すべての場面に“引き”があるんですよね。「この続き、どうなってるの !?」と読者に思わせるんです。そして、その続きが全然予測できない。だって船になるとか、おならで飛び上がって雲で帰るとか、絶対にわからないですよね。次は何が起きるのかが読めないというのは楽しいことなんだって思いましたね。

ティム・バートンが制作に携わった『ジャイアント・ピーチ』(*1)という映画があって、魔法のかかった桃を食べて大きくなった虫たちと一緒に、ひとりぼっちの男の子が旅するというストーリーなのですが、これを思い出しました。

食べ物をモチーフにしながら、いい意味で、食べ物を食べ物として扱わず、乗り物にしたり、怪物にしたり。だけれども、「食べる」ということの大切さみたいなものは伝えているところに、共通点を感じました。

初めての感覚を味わった絵本

──そして、作家としての背筋さんに、影響を与えた絵本があるそうですが。

『おおきな木』*2)ですね。

これは、自分自身の作品を作るうえでのルーツにもなっていると言えるかもしれません。誰かを否定も肯定もしないやさしさ、みたいな。だけど、やっぱりそこにどうしても悲しみを感じ取ってしまうという。こういう感覚を味わわされたのは、この本が初めてで、原体験ですね。

なんていうんだろう……悲しみとか切なさとか、そういう一言で表現できるものではない感情。複雑な喜怒哀楽──怒りはないけれど──すべてが織り交ざったものすごい複雑なものが端的に描かれている。だから文字量は少ないけれども、受け取る感情の総量がものすごく多いんですよね。この本を読んで、どう思うのがよいかはわからないし、今でもやっぱりわからないままです。

ただ、人間の複雑性みたいなものを、短いフォーマットの中で説明できると思うことほど傲慢なことはないと思っているので、これが一番心に伝わる書き方だったろうと思うし、現に伝わっています。自分が作品を書くときに、この感じを念頭に置くことは結構多いです。

「疎外感」を感じていた子ども時代

──子ども時代に読んだ本が、作家としての背筋さんにつながっていることが伝わってきました。そんな子ども時代をどう過ごしていましたか?

おとなしい子でしたね。みんなが好きなものをあんまり好きじゃない気がすると感じていました。みんなが喜んでいるものが自分にとってはそうでないけれども、その場にいると、喜んでいるようにしないといけないのかなと思って……疎外感のようなものをずっと感じていました。そのことが寂しかったというのはありました。たとえば、みんながわいわいサッカーをやっているときに砂場のすみっこで泥団子を作り続けたり。そういうこともあって、本を読むことが結構多かったです。

家の近くに大きなマンションがあって、小学校の友達の大半がそこに住んでいて。必然的にそこに集まるのですが、小さな図書館みたいな場所があって、そこで『にゃんたんのゲームブック』とか『かいけつゾロリ』(ともに、ポプラ社)とかを読んでいましたね。

──今月刊行の小学生向けのホラーアンソロジー『こわい話の時間です 左肩のともだち』に、背筋さんは「鬼さんがくる」を書かれました。子どもに向けて書くということで意識したことはありますか?

今の話につながりますが、あの頃の、疎外感を感じている自分に向けて書きたいと思って書きました。

誰かと違うことを恥じる必要なんてないと、肯定してあげたかった。今回書いた作品(「鬼さんがくる」)はおじいちゃんのお通夜に行った子のお話なのですが、おじいちゃんは生前、認知症で……その子にはおじいちゃんとの思い出がない。そのおじいちゃんが死んだときに、周りの大人たちは「悲しかったね」と当然のように話しかけてくる。それなのに悲しんでいない自分はおかしいのではないか、と感じてしまっている男の子の話です。

そもそもこんな疑問を持つこと自体がよくないと自分を責めてしまう……こういう場面って、誰にでもあると思うんです。でも、疑問を感じるということは、その子のアイデンティティにかかわる何か重要なことがあるわけです。だからそれに蓋をしてダメなことってするのではなく、ちゃんとそれを覗けるような作品にしたかった。

『こわい話の時間です  左肩のともだち』
井上雅彦 編/新井素子・織守きょうや・北野勇作・最東対地・柴田勝家・霜島ケイ・背筋・高瀬美恵・新名智 作

わからないから知りたい

──こわい話は、今も昔も子どもに人気です。子どもがこわいものに惹かれるのはなぜだと思いますか?

わけのわからないものに対しての興味は、きっと誰しも純粋にあるものだと思います。

何かについて尋ねれば、だいたいは大人が教えてくれることが多い。でも、大人に聞いてもわからないものっていくつかあると思っていて。それはたとえば、宇宙の話だったり、恐竜の話だったり、そして、おばけの話も本質的には一緒だと思うんですよ。

わからないから知りたい、わからないから楽しいっていう、そういう根源がきっとこわい話にはあるのだろうと思っています。
 

*1 『ジャイアント・ピーチ』
ロアルド・ダールの原作『おばけ桃が行く』を映像化したファンタジー作品(1996年/アメリカ)。両親を亡くした孤独な少年ジェームズが、魔法の力で巨大になった桃を一口かじったところ、その中に引き込まれ……。ジェームズは中にいた虫たちとともに桃に乗って冒険へ出かける。

*2 『おおきな木』
シェル・シルヴァスタイン作 ほんだきんいちろう訳/篠崎書林
一本の木と、ある少年の長い関係を描いた物語。木は惜しみなく少年の成長に合わせて、実や枝を与え続ける。大人になった少年は木に寄りつかなくなるが、年老いて木のもとに戻ってくる。無償の愛について問いかけるロングセラー。
※現在刊行されている絵本は、村上春樹訳/あすなろ書房
 

*出版社の記載のないものは、福音館書店刊

撮影:黑田菜月 

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