2025年3月に休刊となった雑誌「母の友」に、「こどもに聞かせる 一日一話」という人気企画がありました。子どもにさっと読んであげられる短いお話を、一挙にまとめて掲載するものです。
その「一日一話」を「とものま」で再開します。季節ごとに7話ずつ、とびっきりのお話をお届けします。
中村 文 文
松成真理子 絵

茶色のこぐまは、冬のあいだ、山のほらあなで生まれました。暗いあなのなか、母さんのそばでじっとしていました。母さんはときどき、春にさく花や、にぎやかな鳥たちのことを話してくれました。
ある朝、こぐまはひょこっと顔をあげて、いいました。
「なんだか、あったかいねえ」
すると、母さんがいいました。
「春が来たの。さあ、そとへいきましょう」
こぐまは母さんについて、いっぽ、そとへでました。
なんという明るさでしょう。空に、まるいお日さま。地面に小さな花がさいています。鳥の声がつぴつぴ、聞こえてきます。
地面をふむと、ふんわりふしぎなにおいがします。
「ふんふん、なんのにおい?」
やわらかい葉っぱが、ふかふかしています。
母さんは、いいました。
「おや、よもぎね」
「ふんふん、よもぎのいいにおい」
こぐまは、よもぎの葉っぱを見つめました。

葉っぱのうえに、なにかがくっついています。赤いまるいつぶです。ぴかぴかして、まるでお日さまのかけら。
そっと手にのせると、ちびちびうごきだしました。そのままうでへと、のぼっていきます。
「わっ、どんどんうえにいくよ。これなあに?」
あれよというまに、かたにのぼって、耳のうえまで来ました。
ぷっと音がして、それは飛んでいきました。こぐまはぷるっと耳をうごかします。
母さんは、わらいました。
「うふふ、てんとうむし」
「てんとうむし、とんでった」
こぐまは、ぽかんとまえを見ました。すると、なにかがうかんでいます。こがね色をした、小さなかたまりです。ちらちらゆれながら、地面の花にぽろんと落ちました。まるでひかりのしずく。
こぐまが手をだすと、ふわっとうかびます。
「あれえ、うかんだり、しずんだり。これなあに?」
ふわりふわり、それは高く飛びます。
母さんはにっこりして、いいました。
「あらあら、ちょうちょね」
「やあ、ちょうちょ! どこいくの」
ちょうちょは、草むらのほうへ飛んでいきます。こぐまはせっせとおいかけました。そのとき、ごつん! なにかにぶつかりました。
見ると、大きな体がどっかりと立っています。こぐまとおなじ茶色です。
「わあ、母さんより大きい。これなあに?」
こぐまはそれを、ぐんと見あげて目をまるくしました。
空いっぱいに、ピンク色の花がさいています。花びらはきらきら輝き、まるで空の花ばたけ。
こぐまは、うでをうんと高くあげました。背のびをして、飛びはねました。空の花には、とどきません。

そのとき、風──。どどうと、つよい風が吹きました。
ぱっと花びらは空に散らばり、そこらじゅう輝きはじめました。花びらはきらきら、こぐまのまわりを飛んでいます。
こぐまが、えいっと手をのばすと、いちまいの花びらがくるりとまわって……ちょんとおでこにのりました。
母さんは、そばに来ていいました。
「まあ、さくら」
「やったあ、さくらが飛んできた!」
こぐまはさくらのなかを、きらきらかけていきました。
(おしまい)
◆子どもと一緒に挿絵を見ながら楽しみたい方は、こちらからPDFファイルをダウンロードし、出力してお楽しみください。 ※個人利用に限ります。

今月の「とものま」
来月は これ読もう!
親の知らない 子どもの時間
親子でたのしい! えほんやさんぽ
絵本がいいってほんと?
絵本のとびらを開いたら
あの人の ほっとするとき ほっとするもの
絵本の舞台を訪ねて
絵本の選びかた
手から手へ 松居直の社内講義録
絵本のとびらを開いたら
こどものとも70周年
来月は これ読もう!
来月は これ読もう!
こどものとも70周年記念