子どもと過ごす時間を大切に思っていても、いつも一緒というわけにはいきません。入園すると子どもは親の手を離れ、園で多くの時間を過ごします。わかっているようで、じつはよく知らない「子どもの園生活」。この連載では、大阪府堺市の「おおとりの森こども園」で園長を務める松本崇史さんの目を通して、子どもたちの日々を覗いていきます。
土を耕す。畝(うね)をつくる。種をまく。水をあげる。芽が出る。花がさく。実がなる。収穫する。保存する。調理する。食べる。喜ぶ。そしてまた、土を耕す。
「食べる」ことは、このような循環の中にあります。おおとりの森こども園では、春夏秋冬の巡りの中で、野菜の種や苗を植え、それを子どもたちと育てていきます。
そして収穫したら、「〇〇キッチン」と称した料理が始まります。園長がメインでつくる場合は「園長キッチン」。そんなふうに「〇〇」には、誰かの名前が入ります。全員参加ではなく、手伝いたい子だけが手伝いにきます。
どんな野菜を育てて、どんな料理をつくっているかをご紹介すると、こんな感じです。
【春】の収穫と料理
いちご、人参、じゃがいも、タマネギ、スナップエンドウ など
⇒ いちごジャム、カレー、スナップエンドウの塩ゆで、ポテトチップス、ポテトサラダ など
【夏】の収穫と料理
トマト、なす、ピーマン、きゅうり、ブラックベリー、梅 など
⇒ ピザ、夏野菜炒め、ブラックベリージャム、梅シロップ、ドライトマト、ラタトゥイユ、浅漬け、流しそうめんのための焼き浸し など
【秋】の収穫と料理
さつまいも、里芋、かぼちゃ、小豆、渋柿 など
⇒ 焼き芋、さつまいもチップス、さつまいもご飯、鍋、かぼちゃのスープ、あんこ、干し柿、干し芋 など
【冬】の収穫と料理
大根、白菜、ブロッコリー など
⇒ 鍋、たくあん、切り干し大根、大根の葉っぱのふりかけ など

──料理はよく作るものを記しましたが、その年の収穫によって、多種多様に変化します。もちろん子どもたちに何が食べたいか聞いて、相談しながら、つくっていきます。
1年を通して、畑には常に種や苗が植わっていて、定期的に子どもたちと土を耕します。
園長の私がクワやショベルを持ち歩いていると、「どうしたん?」と5歳児のHくんが近づいてきました。「今度、大根植えるからさ、畑の土耕そうと思って」と話すと、「ぼくもやる」とHくん。隣で聞いていた同年齢のIくんも、「ぼくも」とショベルを持ってきました。「おー、頼むね!」と声をかけ、一緒に土を耕しはじめます。
すると土の中から、幼虫が出てきました。Hくんが「えんちょう、これなんのようちゅうかな!?」と尋ねます。「お~、なんだと思うよ?」と問い返すと、「カブトムシかな~、クワガタかな~」とIくんも一緒になって悩みはじめました。そこから、どんどん幼虫を探し始めて……。
──これは、毎年見られる子どもたちの姿です。最初は意気揚々と畑の土作りを手伝ってくれるのですが、幼虫が見つかると、子どもの心はそちらに移ります。土を耕すことが目的ではなくなりますが、幼虫の存在がHとIの2人にとっては、畑への興味や関心の土台になるのです。

毎年トマトが育ちすぎて、ジャングルのようになります。実もたくさんついて、毎朝のように収穫できます。5歳児のMちゃんが、「えんちょう、みて! きょうはこんなにとれたよ」と伝えにきてくれました。
園長:わお! 今日もたくさんだね!
M :もうね、ジャングルになっているからね。トマトをとるのも、ひとくろうだよ!
園長:それは大変ご苦労様です。野菜をとるのも “探検” ですね!
M :まったくだよ。えんちょうも、ときには “たんけん” しなさい!
園長:了解いたしました!
園長が敬礼すると、Mちゃんは笑って園庭に向かっていきました。
──園の野菜はよく育ちます。それが子どもたちにとっては当たり前の環境です。どんな野菜が採れたら、どんな料理を食べられるかということは、5歳児になると見通しをもてるようになります。夏に子どもたちが毎年楽しみにしている料理が、ピザ。おいしい焼きたてが食べられるとわかっているので、大変な水やりも頑張れます。最後に、大きな喜びの瞬間が待っています。
料理の準備をしていると、4歳児のTくん、Mちゃん、Uちゃんが「てつだう!」と寄ってきました。私は「お、また来たな」と思います。この子たちの目的をわかっているからです。
私は「ありがとう!」と言って、包丁で野菜を切り、炒めて、味付けをします。完成が近づくと、3人ともうずうずしている様子。そこで満を持して、「はい、お手伝いありがとう!」と言いながら、完成した料理をちょっとだけ渡します。
満面の笑みで食べて、「おいしいー!」と言い残して、3人は去っていきました。手伝う内容は「味見」、目的は「つまみ食い」です。
ラタトゥイユをつくった時のこと。食べ終わった3歳児のRくんが、もっと食べたくて、料理をしている場所に戻ってきました。
「おかわりがほしいの?」と聞くと、何も言わず「じーっ」とこちらを見てきます。「Rくん、今日は売り切れで、おかわりないのよ」と言っても、「あ!」と言うだけでこっちを見てきます。「いやね、Rくん、ないのよ。おいしかったのはわかるけど、全部食べちゃったよ!」と言っても、まだこちらを見てきます。「ないの、おしまい!」と言うと、手で目をふさぎ、「あ~」と言います。そして、手のすき間から片目でこちらを見てきます。
かわいすぎます……。
──こんなふうに、園において「食べる」という行動は、給食だけで語れるものではありません。
「食べる」までのプロセスがたくさんあるからこそ、「食べること」は「自分ごと」になっていくのだと思います。また、共に料理し、他人に振る舞うことが、喜びにもなっていきます。大人から食べさせてもらっていた赤ちゃんが、今度は自分が与える側になっていく。
つまり、「食べる」ということは、「人と共に生きる」ことにつながっていく「営み」なのです。
イラスト・おおつか章世
*園の先生方へ*
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