親の知らない 子どもの時間

第10回 冬の子どもたち ─ 子どもは風の子 ─

子育て |
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子どもと過ごす時間を大切に思っていても、いつも一緒というわけにはいきません。入園すると子どもは親の手を離れ、園で多くの時間を過ごします。わかっているようで、じつはよく知らない「子どもの園生活」。この連載では、大阪府堺市の「おおとりの森こども園」で園長を務める松本崇史さんの目を通して、子どもたちの日々を覗いていきます。

冬の子どもたち ─ 子どもは風の子 ─

「子どもは風の子」という言葉がありますが、この言葉には続きがあるのをご存知でしょうか? 

「子どもは風の子、大人は火の子」です。子どもは寒い風が吹く中でも元気に外で遊びまわり、大人は寒がって火のそばを離れない、という意味です。

現実はどうでしょうか? 昔に比べて便利な機械が増え、大人が快適に過ごせる環境の中で、子どもたちも日常を過ごしています。「子どもは風の子」という本来の姿は、なかなか見られなくなっているように感じます。

子どもたちが「風の子」でいられる環境を大切にしている、おおとりの森こども園では、元気溌剌(はつらつ)な子は、冬になっても半袖と半ズボンで遊んでいます。乳児の頃から園で過ごしてきた子は、寒いときは身体を温めるために走ればよいことを知っていて、園庭で鬼ごっこやかけっこ、大縄跳びに興じます。もう汗まみれです。

冬の寒い日も、夏の暑い日も、遊びを楽しむ姿こそが、子どもたちの真実の姿なのです。
先日もこんなことがありました。

私もやる」

冬の寒い日に、園に隣接する神社へ散歩に出かけました。その中には、2才児の M ちゃんの姿も。Mちゃんは甘えん坊で、自分の思い通りにならなかったり、嫌なことがあったりすると、手で目をふさぎます。きっと、何もなかったことにしたいのでしょう。そして、よく泣くフリも……。

さて、神社に着くと、先に来ていた上の学年の子どもたちが保育者と「はないちもんめ」をしていました。大きな声で快活に遊んでいます。

一方、M ちゃんはというと、散歩の途中から泣き声をもらし、寒さがつらいのか、「え~ん」と声をあげています。しかし、「はないちもんめ」に気づくと、横目でようすを見ながら、少しずつ、少しずつ、「はないちもんめ」の方へ近づいていきます。そして保育者の隣に来ると、泣きそうな顔で「やる~」とひと言。

「はないちもんめ」の輪に入り、ほかの子と手をつなぐと、ピタッと泣き声はやみました。その後、じゃんけんで何度も勝つことができて、飛び跳ねて喜ぶMちゃん。

──これが、風の子です。楽しさを感じたら、寒くても子どもは動くもの。そして、自分で困難を乗り越えていきます。

大人の庇護のもとに日々を過ごすことが、保育ではありません。寒いから「かわいそう」と暖かい環境を整えるのではなく、子どもが自分で一歩踏み出すきっかけを冬が生み出してくれる──そのことを理解して保育者は子どもたちとかかわっていきます。

しわしわになってきた!」

冬の「乾燥」も、恵みをもたらしてくれます。その最たるものが、大根です。

園庭の畑で大根が60 本とれました。細く刻んで乾燥させれば、切り干し大根になります。ざるに載せて毎日外に出します。みずみずしく白かった大根が、どんどんしわしわに。「わ~、ちいさくなってる!」「あれれ、大丈夫かな…!?」と、子どもたちは興味深そうに日々の変化を眺めます。


大根の葉っぱも、乾燥させます。ピンと張っていた葉が、どんどん縮んでいくと、「カサカサだね!」「これどうするの?」と、やはり興味津々。乾燥させた葉っぱは、すりこぎで潰していきます。粉々にして塩と混ぜると、美味しいふりかけの完成です。給食のご飯にかけて、「いいにおい~」と、その風味を楽しみます。

たくあんの場合は、大根をまるごと干します。干しておくと、数日で大根にシワが出てきます。それを見た保育者が、「むかしね、おばあちゃんみたいって思っていたんだ」とつぶやきました。すると、子どもたちも、「ほんとうだ、せんができてる!」「なんか、ちいさくなってきたね!」「うちのおばあちゃん、こんなにシワシワじゃないよ」と反応し、会話が盛り上がります。


冬の乾燥を大人は嫌がりますが、そこに豊かな生活があれば、マイナスと受け止められがちな季節の特徴も、子どもたちはちゃんと味わい、堪能することができるのです。

また、「乾く」という現象を目の当たりにする体験を通して、「乾く」=「水が抜けていく」という、科学的な部分も肌で感じていきます。

季節の恵みへの感謝を、子どもたちとの生活の中で深く感じています。

寒くなったらスケートできるな!

寒い日……それも、ものすごく寒い日に、子どもたちが心から楽しめるものがあります。
それは、氷。

「明日は寒いんだって」と伝えると、「こおり、つくりたい!」と子どもたちから声があがります。いろんな形のカップに水をためて、園庭の寒そうな場所に置いて、氷ができるか試します。タライに水をはると、大きな氷ができることもあります。

園庭の一角に、梅雨には水たまりができ、夏には簡易プールになり、秋には落ち葉プールになる場所があります。ある秋の日に4才児のTくんが、「なあなあ、えんちょう。ここさあ、もっとさむくなったらさあ、スケートできるんちゃうん?」と話しかけてきました。私が「えっ、どういうこと?」と聞くと、「いまは、おちばだろ! でも、あめふったら、ここみずたまるだろ。それでな、さむくなったらな、それがこおるだろ。そうするとな、スケートできるで!」と意気揚々。

子どもたちと共に生活し、遊んでいると、すべての季節の豊かさに気づかされます。
好奇心たっぷりの目で見つめ、耳で聴き、肌で感じて、口で味わい、鼻でにおいを嗅ぎ、そこから始まる生活のまるごとを楽しんでいます。

そこにあるのは「驚く心」。
その心を引き出し、その心を共に抱く。

子どものそばにいる大人は、そうでありたいと願います。

冬は寒くて、よい季節です。

 イラスト・おおつか章世 

*園の先生方へ*
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