2025年3月に休刊となった雑誌「母の友」に、「こどもに聞かせる 一日一話」という人気企画がありました。子どもにさっと読んであげられる短いお話を、一挙にまとめて掲載するものです。
その「一日一話」を、「とものま」で再開します。
季節ごとに7話ずつ、とびっきりのお話をお届けしていきます。
戸森しるこ 文
たまむらさちこ 絵
クロリーヌは黒ねこです。クロリーヌの家には、こたつがあります。
赤いふとんのかかった、小さな丸いテーブルの下に、電気がついていて、ふとんの中に足を入れると、とってもあたたかいのです。
冬になると、こたつの中でおひるねをするのが、クロリーヌのおたのしみです。
今日もクロリーヌは、こたつであたたまっている、飼い主のユキさんの横から、こたつの中にもぐりこみました。

「あれれっ?」
のぞいてびっくり、いつもはまっくらなこたつの中に、小さなまちがあるではありませんか。こたつのテーブルのかわりに、青い空も見えます。
「わあ、すごい」
ユキさんの足のむこうは、ずっと広くなっていて、小さな家や、小さなお店が、たくさんならんでいました。たてものはすべて、こたつのふとんと同じ赤色です。
「小さくて、かわいいなぁ。もっと近くで見たいにゃん」
クロリーヌは身をのりだしました。
よく見ると、人もいます。お店で買い物をしている人や、家の庭で水をまいている人、学校の校庭で走っている、子どもたちもいます。そしてみんな、赤い服を着ていました。
小さな赤い人たちは、みんなで歌っています。

ひとーつ ふたーつ こたーつ
ここは たのしい こたつまち
こたーつ こたーつ こたつへおいで
あたたかくって ねむくなる
「むにゃむにゃ、たしかにねむくなるにゃん」
クロリーヌは、なにかにさそわれるように、小さなこたつのまちの中へ、進んでいこうとしました。
すると、まちの小さな人たちから、話しかけられました。
「ストップ、ストップ」
「黒ねこさん、大きすぎるわよ」
「小さくなれば、こたつまちでくらせるよ」
クロリーヌは、もうねむたくって、歩くことができません。
「もうここでねちゃおう」
目がさめると、見たことのない場所にいました。あたりを見ると、大きな赤い家や、赤いお店がならんでいます。でも、人はだれもいません。どこからともなく、歌が聞こえてきます。
ひとーつ ふたーつ こたーつ
ここは たのしい こたつまち
ねむっておきたら こたつびと
ねむっておきたら こたつねこ
「ねむっておきたら、こたつねこ? あっ」
よく見たら、クロリーヌは赤いねこになっていました。
「わたし、あの小さな赤いまちの大きさに、ちぢんじゃったんだ! こたつねこになっちゃったんだ! どうしよう」
クロリーヌは、こわくなって、しくしくなきはじめました。

そのとき、クロリーヌのはなが、ひくひく動きました。
「あれっ、いいにおいがする。クリームシチューだ!」
とろーりクリームと、ごろっとしたお肉が、たまりません。
「いってみよう!」
クロリーヌは、赤いまちの中を、クリームシチューのほうへ走ります。
ところが、どんなに走っても、前に進まないようなかんじです。からだがうまく動きません。
「えいっ、えいっ、おかしいにゃん」
クロリーヌは前足のつめを出して、思いっきり、前にジャンプしました。
びりっ!
すると、きゅうにかおが、ひやっと、すずしくなりました。
「クロリーヌ、おひるねはおしまい?」
ユキさんが、よるごはんのしたくをしていました。
「あらまあ! クロリーヌったら、また、こたつのふとんをひっかいたわね」
見ると、こたつのふとんには、たしかにひっかいたあとがありました。
「ごめんにゃー」
クロリーヌの頭の中は、クリームシチューでいっぱいです。こたつまちのことも、自分が赤いねこになっていたことも、もうすっかりわすれていました。
(おしまい)

子どもと一緒に挿絵を見ながらお楽しみになる方は、こちらからPDFのファイルをダウンロードの上、出力してお楽しみください。 ※個人利用に限ります。
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話
こどもに聞かせる 一日一話