今年、70 周年を迎えた月刊絵本「こどものとも」。1956年の創刊以降 70 年にわたり、質の高い物語を子どもたちに届けてきました。その「こどものとも」が、ずっと大切にしてきたことは何でしょう? こどものとも第一編集部の編集長・満名要大(まんな もとひろ)に聞きました。
──月刊絵本「こどものとも」は、2026年に創刊 70 周年を迎えました。あらためて、どのような月刊絵本か紹介をお願いします。
「こどものとも」は、毎月1冊、ひとつのお話をお届けする、月刊の物語絵本です。今年の4月号で 70 周年を迎え、通巻で数えると 841 号になります。
雑誌「母の友」(2024年度をもって休刊)に掲載されていた、親子で楽しむ童話のコーナーが独立して生まれたものなので、「子どもと大人が一緒に楽しむ」ということを、当初から大切にしてきました。絵本は、子どもに自分で読ませるものではなく、大人が子どもに読んであげるもの──それを今も念頭に置いて、絵本作りをしています。
──「こどものとも」の編集部について教えてください。
「こどものとも」シリーズには、年長児向けの「こどものとも」のほかに、年齢ごとに3つの月刊誌──年中児向けの「こどものとも 年中向き」、年少児向けの「こどものとも 年少版」、赤ちゃん向けの「こどものとも 0.1.2.」があります。
その中の「こどものとも」と「こどものとも 年中向き」を担当しているのが、私たち「こどものとも第一編集部」です。現在は編集部員6名で、「こどものとも」「こどものとも年中向き」の各 12 冊、あわせて年間 24 冊を編集しています。
──ひとり年間4冊を担当する計算ですね。
平均すればそうですね。ただ「年間4冊」と決まっているわけではないんです。毎年のラインナップを決めるとき、いちばん優先するのは、購読してくださる読者にバラエティに富んだ作品をお届けすること。そのために調整を行うので、担当する作品数に差は生まれます。8作品担当する人がいたり、その年は担当作がない人がいたり、そういうこともあります。

──1冊の絵本は、どのような過程を経て生まれるのでしょうか。
基本的には、原稿をいただくところから始まります。文章と絵をひとりで担当される作家さんの場合は、同時にいただくこともあります。
作家の方とのお付き合いの中で原稿をいただいたり、こちらからモチーフをご提案してみたり、あるいはまったく初めての方に依頼したり、スタートは作品によってそれぞれです。対象年齢の子どもたちが楽しめるお話になるよう、ご相談しながら、作者の方に原稿を推敲していただきます。
初めにいただいた原稿からほとんど変更がないこともありますし、あらすじに関わるところからご相談させていただくこともあります。原稿の一部にフォーカスして、魅力的な部分を膨らませる形に練りなおしたり、登場人物を絞ったり……作者の方とご相談しながら骨子を固めていくので、平均すると1年から2年くらいかかります。絵の依頼をするのは、そのあとです。
──絵を描いていただく方は、どのように決めていますか?
文章と絵が別の作者の場合は、まず文章の方に絵のイメージをうかがうことが多いです。具体的な画家さんの名前を挙げる方もいらっしゃいますし、好きな絵のタイプ、好みの絵本をあげる方もいらっしゃいます。編集部でも「このお話にはどんな絵がよいか」ということは当然話し合うのですが、作者の方のイメージは必ず聞いて、きちんとすり合わせてから絵の依頼をするようにしています。
依頼したあと、画家さんにはまずラフスケッチ(下描き)を描いていただきます。それをもとに、1年くらいかけてご相談しながら、どのような絵に仕上げていくか、やり取りを重ねていきます。
──原稿を推敲する際もそうでしたが、ラフスケッチにも年単位の時間をかけるのですね。
絵の場合も、ひとつひとつの場面をどのような絵にしていくか、何をどこまで描くか……構想を練るのに時間がかかることが多いんです。
絵本の絵は、1枚の絵として完成しているだけではなく、すべての場面を通して見たときに、物語の「流れ」が感じられることがとても大切です。子どもは、お話を聞きながら、絵を見て物語の世界に入っていくので、流れが途切れてしまっていたり、耳で聞いている言葉と齟齬があったりすると、集中して楽しめません。
画家さんからラフスケッチをいただいたら、まず全ページを通して見て、お話がきちんと流れているか、文章と合わせたときに違和感がないかを確認しています。
──文章と絵を別の方が担当する場合、そのお2人が直接相談することもあるのでしょうか。
編集者が間に入ることがほとんどですね。例えば、『ぐりとぐら』(「こどものとも」1963年12月号)の作者 中川李枝子さんと山脇百合子さんは実の姉妹でいらっしゃいますが、本作りに関して直接やり取りされることはなかったそうです。

中川さんの文章ができたら、編集者が山脇さんにお渡しして絵を描いていただく。直接のやりとりがなくても、お2人は世界観を共有されていたから、お話と絵がぴったり一致していますよね。
先ほども話しましたが、子どもは言葉を聞き、絵を見て物語に入っていくので、文章と絵にずれがなく、ひとつの世界が立ち上がってくることがとても大切です。編集者はそれぞれの作者と相談を重ねながら、作品に一体感が出るように伴走します。
そういうことも意識しながら、ラフスケッチの相談を繰り返し、目処がついたら原画の制作に移っていただきます。画家さんによって差はありますが、原画の制作には半年ぐらいかかることが多いです。
──これまでに担当した作品の中で、特に印象に残っているものは?


たくさんありますが、ベテランの作家さんとの仕事は印象に残っているものが多いです。なかのひろたかさんの『ぞうくんのおおゆきさんぽ』(こどものとも年中向き/2022年1月号)や、「ばばばあちゃん」シリーズの最新作になった、さとうわきこさんの『いたずらからす』(こどものとも/2022年4月号)などがそうです。
言うまでもなく経験豊富な方々なので、編集者として自分は何をすればいいんだろう……と最初は思いました(笑)。それでも、どちらの作品も最初の原稿から大きく変わっていって、完成するまでには相応の時間がかかっています。ベテランでいらっしゃるから、すぐに作品を作り上げられる、ということではないんです。子どもの本だからこそ妥協せずに取り組むという姿勢を、ベテランの方が背中で示してくださっているように感じます。


一方で、作家さんのデビュー作となった絵本にも思い入れがあります。『スプーンのおうじさま』(こどものとも 年中向き/2018年3月号)の絵を描いていただいた鬼頭祈(きとう いのり)さんや、『ようようしょうてんがい』(こどものとも/2020年12月号)の文章を手掛けていただいたラッパーの環ROY(たまきろい)さん……自分が依頼しなければ、別のジャンルで活躍をつづけている方が、とても真剣に絵本のことを考えてくださっている様子を目にすると、そのきっかけに自分が多少でもなれたことに、ちょっとだけ誇らしい気持ちを抱きます。
──満名さんは、2人のお子さんをもつお父さんでもありますよね。親という立場になって、絵本の見方は変わりましたか?
1冊の絵本を繰り返し読むことのおもしろさを、あらためて実感しました。上の子は、寝る前に絵本を読むと、「次はこれ」「次はあれ」みたいな感じで、一晩に 20 冊以上も読むこともあったのですが、その中に同じ絵本が何度も入ってくるんです。『三びきのやぎのがらがらどん』が3回、『すいかのたね』は4回、という感じで……大人は疲れますけど、よい本はやっぱり繰り返し読んでもおもしろいんですよ。聞き手はもちろん、読み手も繰り返し楽しめる。それが発見でした。
──自分が子どものころに好きだった絵本も、教えてもらえますか?
これは、自分が小さいころに読んでいた『はじめてのおつかい』なんですけれど……

普通の本だと、ここまでボロボロになってしまったら、もう手もとに置きませんよね。こんな状態になっても残したくなるというのは、絵本ならではだと思います。
ブックデザイナーの祖父江慎さんが、「絵本は子どもの最初の友だちになれる。だから、<うさこちゃんの絵本> には名前を書くところがあるんです」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思うんです。絵本自体が「友だち」だから、なめたり、しゃぶったり、投げたり……フィジカルなかかわりかたをするし、愛着も生まれますよね。

自分が子どもの頃に好きだった絵本も、読み返すと忘れているところがあります。それでも、「この絵本が好きだった」という気持ちはずっと残っている。やっぱり絵本は子どもの心に訴えかける何かをもっているし、そういう絵本を作っていきたいと思っています。
──「こどものとも」は創刊から70年にわたって、どのようなことを大切にしてきたのでしょう?
「子どもが心から楽しめるか」ということではないでしょうか。それを何より大切に考えています。自分たちの身近にいる子どもや、自分の中にいる子どもが楽しめるか、その人たちに対して嘘がないかどうか……そういう思いで絵本を届けてきました。
──創刊当初から、子どもたちを取り巻く環境は大きく変わりましたが、「こどものとも」の本作りにおいて変わってきた部分はありますか?
何十年も前の折込付録(*)を読んでも、「現代は大きな変化の時代で…」なんて書かれていて、いつの時代も同じことを考えているんだな、と思います……(笑)。
今は、スマートフォンの普及やSNSの浸透などで、これまでよりいっそう「映像の時代」になっていますよね。絵が動いて、言葉が音声として入ってくるのが当たり前になっている一方で、絵本は、静止した絵と、声に出して読まないと音にならない言葉で構成されている。でも、それは「古い」「遅れている」ということではなく、こういう形だからこそ、なしうることがあると思っています。
絵本は、自分で(頭の中で)絵を動かすからこそ、イメージがより深く心に残っていく。そして、声に出して読んでくれた人とのつながりが、必ずそこに生まれますよね。
デジタルなものに肩代わりさせられない部分が存在している、ある意味で手のかかるメディアだからこそ、生まれるものがあると思っています。今後も、それに値するものを作っていきたいなと。
*月刊絵本に挟んでお届けしている、大人の方向けの小冊子。

──70周年を迎えた今、これまでの歴史を大切にしつつ、新たに挑戦していきたいことがあれば教えてください。
「こどものとも」で長年作品を作ってきてくださったベテランの作家さんと、ここ数年で活躍の場を広げてきた作家さんに、一緒に仕事をしてもらうことです。新進気鋭の作家さんが、子どもの頃に楽しんでいた絵本の作家さんと一緒に作品を作る──70年の積み重ねがあるので、そういうコラボレーションができるタイミングになってきているなと思うんです。それがまた、新しい世代に思いをつないでいくことにもなればいいなと。
それから、過去に刊行した作品に、新しい形でまた息を吹き込めないか、ということも考えています。現在 32 ページで刊行している「こどものとも」ですが、創刊当時は 16 ページしかなかったんです。もちろんその制約の中でベストの形の作品を刊行してきたわけですが、もし現在の条件でよりよくなる可能性がある作品があれば、ページ数を増やし、新しい絵で今の子どもたちに届けなおす、ということもできるかもしれません。
「こどものとも」は、長きにわたって一緒に歩んでくださる作家さんたちがいたからこそ、そしてその時々に大事に読んでくださる読者の皆さまがいたからこそ、70 年も刊行してこられたと思うんです。作り手と読み手の皆さまの思いをしっかり受けとめて、次の 70 年につないでいきたいと思います。
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