月刊絵本「こどものとも」が、2026年、創刊70周年を迎えました。
小さい頃に読んでもらったり、入社して出会ったり、子どもに読み聞かせたり……これまでに刊行された「こどものとも」から、福音館社員が思い入れのある1冊をご紹介します。
第7回は入社35年目、販売促進課・YKの1冊。
販売促進課・YK

我が家の本棚には、半世紀以上も前、1968年度、1969年度の「こどものとも」が十数冊並んでいます。保育士をしていた母が購読し読んでくれた絵本たち。『ゆうちゃんのみきさーしゃ』『だるまちゃんとかみなりちゃん』『かさもっておむかえ』など、今も色あせない名作ぞろいですが、なかでも異彩を放っている絵本が『さかさま』(安野光雅 作・絵)。「こどものとも」164号、1969年11月号なので、今から57年前の作品です。
ジョーカーに誘われて入り込んだ“トランプの国”。そこは、どちらが上なのか下なのかわからなくなるような不思議な世界。どのページにもユニークなおもしろい絵が描かれていますが、当時5歳の私が特に繰り返し見ていたのが、「きみたちはさかさまだ」「きみたちこそさかさまだ」とトランプの兵隊たちがけんかをしているお城の場面。


本をひっくり返したり、指で道をなぞったりしながら何度も何度も絵を見ていた、そんなおぼろげな記憶があります。そして、世の中には不思議なことがたくさんあるのだということを、この『さかさま』から学んだ気がします。
うら表紙の名前記入欄に私の名前がひらがなで書いてありますが、これは母の字ではない。当時6歳になる直前の私が自分で書いた? それにしては上手すぎる気もしますが、名前の最後の文字が鏡文字のようでちゃんと書けていないので、そうなのかもしれません。
今から10年以上前のことですが、仕事で作者の安野光雅さんと打ち合わせをしました。東京西部の待ち合わせ駅前で待っていると、一台の車がさっと前に停まり、運転席から安野さんが「乗って!」と手招き。安野さんのしっかりとしたハンドルさばきで車はやがて打ち合わせ場所のログハウス調の喫茶店へ。
小一時間の打ち合わせが済んだあとに、おずおずと私の『さかさま』を取り出して思い出を語り、記念のサインをお願いしてみました。すると安野さんはいたずらっぽく笑って、私の名前のとなりに、あたかも子ども時代の安野さんが書いたかのようなたどたどしい文字でサイン。

半世紀の歳月を超えて、ふたりの名前がおぼつかないひらがなで並んでいる『さかさま』は、もちろんこれからも大切な宝物です。
『さかさま』
安野光雅 さく/え
トランプのジョーカーがトランプの国をご案内。トランプの国では、どちらが上でどちらが下かわからないことばかり。トランプの兵隊たちは、「きみたちはさかさまだ」「きみたちこそさかさまだ」と何百年も前からけんかしているのです。4人(8人?)の王様たちも大弱り……。国際アンデルセン賞受賞作家の、「ふしぎなえ」に続くふしぎな絵本第2弾。
*「こどものとも」1969年11月号、「こどものとも年中向き」1980年12月号
* 現在は「安野光雅の絵本」シリーズとして刊行
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