図書館の司書として長く子どもたちに本を手渡してきた伊藤明美さんに、絵本の魅力や楽しみ方について幅広く語っていただく連載です。絵本の奥深い世界をのぞいてみましょう!
前回に引き続き、大学生の読み聞かせグループワークで読んだ絵本について紹介しましょう。
『のろまなローラー』(小出正吾 作 山本忠敬 絵)は、道路工事で、道をたいらにするロードローラーのおはなしです。

ローラーが、ゆっくりゆっくり道を直していると、
ぶっぶっぶっと、うしろから、
おおきな トラックが やってきました。
トラックは、「じゃまだよ。じゃまだよ。
どいたり どいたり」と いって、
ローラーを しかりつけながら、
おいこして いきました。
トラックに続いて、りっぱな自動車、小型の自動車が、ローラーをばかにしながら走っていきます。

ところがしばらくいくと、それらは皆、でこぼこ道でパンクして止まっていました。
ローラーがゆっくり道を直していくと、でこぼこ道はたいらな道になりました。
「やあ やあ、ありがとう、ローラーくん。きみの おかげで、
でこぼこみちが たいらに なりますね。ほんとに ありがとう、ローラーくん」
とトラックは礼をいい、車たちは皆、ローラーに感謝して走っていきました。

『のろまなローラー』に出てくる車たちの台詞には、車のスピードを感じさせるリズムがあります。これを、とてもリズミカルに上手に読む学生がいました。
聞けば、「実家に帰ったらボロボロの『のろまなローラー』が本棚にあって、すごくたくさん読んでもらっていたと気づきました。読み方はたぶん、親が読んでくれたそのままです」と言うのです。 幼かった15、6年前、おうちの人が読んでくれたときの、間の取り方やリズムが耳に残っていたということでしょう。何度も何度も読んでもらったからこそ、自然にからだの中に入っていたに違いありません。
この学生は、「子どものころは、道路標識をよく見ていました。車がみんな右に向かって動いていく絵が面白かった」と言い、さらに、思い出したように、「子どものころ気づいたんだけど、ずっと犬がついてくるんだよね」と言いました。
他の学生たちは各ページの絵をよく見直し、「あ、ほんとだ!」とびっくり。「子どもってそういうとこ見てるんだ!」「絵本の絵ってすごいなあ」とみんな感心しました。

さらに学生たちから、
「車のヘッドライトが目に見えて表情がある。ローラーがどこを見ているかよくわかる」
「走って行く車が、ビューッと速く動いているように描かれているのに、ローラーはそれがない。ゆっくりゆっくり進むからかな」
「バックの町並みがピンクで、おしゃれだと思った。1967年に出た本とは思わなかった」
「周りから何を言われても、確実に仕事することに価値があるという話。絵本は自分で読むより、読んでもらったほうが面白い」
──という意見や感想がありました。
学生たちが指摘したように、『のろまなローラー』に登場する車の絵は、シンプルで表情があります。
疾走する車体は斜めになり、後ろに伸びる横線からスピード感が伝わってきます。
バックの町並みは作者の地元、静岡県三島市の風景だそうですが、オレンジがかったピンク色で遠くに描かれ、見る人は自然にローラーと車に引きつけられます。
道路標識や犬など、子どもの興味をひくものも描かれています。
坂道は右斜め上に向かってのび、横長の見開き画面全体にデザイン的な美しさがあります。
車の台詞にはリズムがある一方、地の文はゆっくり丁寧で、ローラーの仕事ぶりそのもの。
最初はばかにされていても、最後はみんなから認められるローラーに、子どもたちは共感します。『のろまなローラー』は、そんな魅力がある本だからこそ、出版後60年にわたり、子どもが読み続け、支持し続けてきたのです。

カナダと米国で活躍した図書館員リリアン・H・スミスは、『児童文学論』に書いています。
「二十世紀の絵本のなかには、幼い子どもたちが、大すきになり──何度も何度もくりかえして読み(または、親たちに読んでもらい)あきずに楽しみ満足するようなものが、いくつかある。そういうものを心して見るならば、ある絵本は、なぜ時代に左右されない特質をもっているかを、私たちは知ることができるだろう。また、なぜこういう絵本にかぎって、幼児が本能的に手をのばし、おとなになってからも、はっきりと愛情をもって思いだすことができるかを、いままでよりも正確に、的をはずさず知ることができるだろう」(p242-243)
幼い子どもたちが、繰り返し読んでもらいたがる絵本は、世代を超えて普遍的な力があります。前回も書いた「優れた絵本の物差し」です。絵本選びの「きほんのき」は、まずその物差しとなる絵本を知ることだと思います。
でも、目で読んでいるだけでは、絵本の魅力は十分にわかりません。
わたしは学生たちに、家族・友人・ぬいぐるみなど、誰かを相手に、何度も声に出して読む練習をするようにすすめています。自分が聞き手になったときは、子どもになった気持ちで聞くこと、と言っています。
読むときも、聞くときも、自分の中にあった子ども時代を振り返ると、絵本を見る目が変わってきます。子どもの目で絵本を楽しむことで、子どもの気持ちを想像することができます。
また、学生の読み聞かせグループワークは、学生自身が子ども時代を振り返り、読み聞かせをしてくれた家族や先生に思いを馳せるきっかけにもなります。
「読み聞かせの練習を母に聞いてもらったら、いろいろアドバイスをくれました。喜んで聞いてくれて嬉しかった」
「自分が読む絵本を、『かばくん』*にするか、『ティッチ』*にするか迷い、久しぶりに親と話しました。子どものころのわたしは、両方とも好きで、何度も何度も読まされたそうです。自分が大切に育てられていたと気づきました」
「子どものころ、あまり絵本を読んでもらった記憶はないが、今回のグループワークで、絵本の面白さを知った。自分が親になったら、絶対読んであげたいです」
──という報告もありました。

グループワークで『のろまなローラー』を読んだ学生は、あとで、こんな感想を寄せてきました。
「子どものころ、わたしはのんびり屋で、なにをするのも人より遅かった。でも、親に、『早くしなさい』とか、『急ぎなさい』と言われた記憶はない。もしかしてわたしは、“のろまなローラー” が自分に似ているから、この本が好きだったのかもしれない。親もそれをわかっていて、のんびり屋のわたしに、そのままでいいと伝えるために読んでくれていたのかもしれない。この本を読んでくれた親に感謝したいと思います」
今、子どもに絵本を読んでいる方たちに聞かせたい感想です。
毎日のように絵本を読むのは、時にはつらいこともあります。でも、いつか大人になった時、こんなふうに思い出してくれるかもしれません。幼いときの読み聞かせは、ずっと子どもの心に残っているのです。なんと、嬉しいことでしょうか。
*『かばくん』(岸田衿子 作 中谷千代子 絵)
*『ティッチ』(パット・ハッチンス 作・絵 いしい ももこ 訳)
※ 出版社名のないものは福音館書店刊
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