もし自分の蔵書を、ひと箱( 35㎝ 四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する “限界” まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第 19 回は、経理課・Kの本棚をご紹介します。
*
読みたい本を購入し、読み終わったら本棚に、とやっていると、本がどんどん増えていって本棚に収まりきらなくなり、仕方なくその一部を手放したことも…。そのときに考えた選別のひとつの基準が「もう一度読みたくなったとき、どこかでまた手に入りそうなものはあきらめる」でした。でもやっぱり手放したくない本は手放したくないわけで、結局その基準はあまり適用されていません。というわけで、本棚(とその周辺)には、読み返すわけではないけれど手元に置いておきたい本もたくさん、10 代に読んだ本から先週読み終わった本までいろいろ並んでいます。
そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

1『サラダ記念日』俵万智 著/河出書房新社
2『プーさんの鼻』俵万智 著/文藝春秋 ※現在は河出書房新社から刊行
3『アボカドの種』俵万智 著/角川書店
口語の会話体で詠まれた短歌に初めて出合ったのは、俵万智さんの歌集です。第一歌集『サラダ記念日』を手にした当時まだ 10 代で、心に響くものがありました。それ以来ずっと俵さんの短歌が好きで、折に触れてページを開きます。好きなアーティストの音楽をたまに聴きたくなる感じに似ているでしょうか。最近では、深夜のテレビ番組「夫が寝たあとに」に出演された俵さんが「子育てと短歌は相性がいい」というような話をされているのを観て、子育ての日々に詠まれた短歌が収録された『プーさんの鼻』以降、最新歌集『アボカドの種』までパラパラと開いて見ていました。その言葉選びと並び、やっぱりいいんですよね。

4『翻訳できない世界のことば』エラ・フランシス・サンダース 著 前田まゆみ 訳/創元社
5『三省堂国語辞典のひみつ』飯間浩明 著/三省堂
6『生きる言葉』俵万智 著/新潮新書
言葉を扱った本に興味があり、言葉の使われ方や意味が時代や場所、シチュエーションで変化する、みたいな話が好きです。『翻訳できない世界のことば』は、他の言語ではそのニュアンスをうまく伝えられない(=翻訳できない)言葉を集めた本で、言葉の背景にある生活や文化もじわじわと伝わってきます。ニュースなどで〝正しい日本語〟が話題になることがありますが、言葉は常に変わっていくもので、何をもって正誤とするかは難しいと思っています。『三省堂国語辞典のひみつ』は、辞書編さん者の目線で、新しい言葉の使われ方を「誤用」と斬り捨てず、発生源を探り、事例を集めた1冊、『生きる言葉』は、SNSも含め現代の言葉のやりとりを考察した新書で、どちらもその切り口にハッとさせられます。

7『数の発明―私たちは数をつくり、数につくられた』ケイレブ・エヴェレット 著 屋代通子 訳/みすず書房
8『数え方の辞典』飯田朝子 著 町田健 監修/小学館
9『生き抜くための数学入門』新井紀子 著/イースト・プレス ※現在は新曜社から刊行
数量的なこと、科学的なことをより論理的により精緻に表現、理解するために必要な〝言語〟とも言えるのが数字、数学だと思います。そのあたりのことを身近なことから考察する本に惹かれます。『数の発明』は、人間が数を数えるということを人類学者の目線で「数の誕生の軌跡」として紐解いていくところが興味深いですし、日本語での数え方(助数詞)をまとめた『数え方の辞典』は、数え方から文化がうかがい知れて辞典なのに読み物のように読めます。巷(ちまた)でよく耳にする「生きていくのに数学って必要?」という疑問に答えてくれる『生き抜くための数学入門』は、著者が「数学があまり得意ではなかった」そうで説得力があります。

10『歩くような速さで』是枝裕和 著/ポプラ社
11『映画を撮りながら考えたこと』是枝裕和 著/ミシマ社
是枝裕和監督の映像作品(テレビのドキュメンタリー番組や映画作品)をいろいろと観てきました。あるとき、是枝監督が自身の作品や社会について話されていたのを目にして、ずっとモヤモヤしていたことが言語化されたように感じて、是枝監督の言葉にも興味を抱くようになりました。『歩くような速さで』『映画を撮りながら考えたこと』では、是枝監督の作品作りへの向き合い方や現代社会の様々な事象の捉え方などが語られているのですが、家族とは? 社会とは? 人間の感情とは? など考えるきっかけをくれます。

12『ちえのあつまり くふうのちから』かこさとし 著 滝平二郎 絵/童心社 品切
人類の祖先からの道具と技術の発達をたどる絵本です。幼い頃のことはあまり覚えていないのですが、今でも手元にこの本が残っているということは、この本を相当気に入っていたということかなあと思いますし、大人になった今読んでも確かに楽しめます。かこさとしさんの絵本はやっぱりいいなあと思わせてくれる(絵が滝平二郎さんで、今思えばなんと豪華なコンビ!)手放せない1冊です。

13『傷を愛せるか 増補新版』宮地尚子 著/ちくま文庫
14『友がみな我よりえらく見える日は』上原隆 著/学陽書房 ※現在は幻冬舎アウトロー文庫から刊行
15『はたらかないで、たらふく食べたい 増補版』栗原康 著/ちくま文庫
生きていれば、しんどいこと、思うようにいかないこと、いろいろありますが、本を読んで気持ちが少し軽くなることも。『傷を愛せるか 増補新版』は、トラウマやジェンダーを研究する精神科医が日常の様々な場面で思索をめぐらせ、心のありようや言葉にならない痛みなどについて穏やかな筆致で綴るエッセイです。頑張っても報われるとは限らない、頑張る姿を誰かが見てくれている、わけでもない…でもまあ何とかやっていけるかなあ…と思えるようになれた気がします。『友がみな我よりえらく見える日は』は、社会的にうまくいかない人、困難を抱えた人など、劣等感に苛まれる市井の人々に取材した 15 編のルポルタージュ・コラムで、「人はみんな自分をはげまして生きている」さまが描かれ、こちらも背中を少し押されます。一般的な規範を根本から疑ってみる視点をもてるのは『はたらかないで、たらふく食べたい 増補版』。例えば、どんな仕事にもやりがいがある、なんて本当か? など。自分がいかに常識にとらわれているかに気づいて笑ってしまうほどで、目の前の状況は変わらなくても捉え方が変われば心が少し軽くなる、と実感した1冊です。

16『風の歌を聴け』村上春樹 著/講談社文庫
17『こちらあみ子』今村夏子 著/ちくま文庫
18『むらさきのスカートの女』今村夏子 著/朝日新聞出版
19『木になった亜沙』今村夏子 著/文藝春秋
20『とんこつQ&A』今村夏子 著/講談社文庫
自分にとって初めての村上春樹さんの小説『風の歌を聴け』を 10 代に読んだとき正直よくわからなかったんです。でも「なんだこれは!」と衝撃的にわくわくして楽しい時間でした。自分の中で、本は〝わかる〟より〝楽しい〟が優先で、想像もつかない景色を見せてくれるものが好きです。最近気になっているのは今村夏子さん。予想がつかない登場人物の思考、行動、不穏で奇抜な展開に引き込まれます。長編の『こちらあみ子』も、中編の『むらさきのスカートの女』も、『木になった亜沙』『とんこつQ&A』に収められたお話も。例えば、「木になった亜沙」は亜沙が木になる話です(タイトル通り)と書くと、どういうこと? となるかもしれませんが、これが面白いんです。
21『羊男のクリスマス』佐々木マキ 絵 村上春樹 文/講談社(現在は文庫で刊行)
22『夏物語』川上未映子 著/文藝春秋(現在は文庫で刊行)
23『TOKYO NOBODY』中野正貴 著/リトルモア
24『黒潮の風 国境の雲 Dr.コトー診療所・写真集』木村直軌 写真/フジテレビ出版 品切
25『O・ヘンリ短編集(一)』O・ヘンリ 著 大久保康雄 訳/新潮文庫 品切
26『O・ヘンリ短編集(二)』O・ヘンリ 著 大久保康雄 訳/新潮文庫 品切
27『O・ヘンリ短編集(三)』O・ヘンリ 著 大久保康雄 訳/新潮文庫 品切
28『イリュージョン』リチャード・バック 著 村上龍 訳/集英社文庫 品切
29『砂の女』安部公房 著/新潮文庫
30『リプレイ』ケン・グリムウッド 著 杉山高之 訳/新潮文庫
31『夏の庭』湯本香樹実 著/新潮文庫
32『西の魔女が死んだ』梨木香歩 著/新潮文庫
33『がんばっていきまっしょい』敷村良子 著/幻冬舎文庫
34『ミーナの行進』小川洋子 著/中公文庫
35『ことり』小川洋子 著/朝日文庫
36『なぎさ』山本文緒 著/角川文庫
37『世界の果てのこどもたち』中脇初枝 著/講談社文庫
来月は これ読もう!
あの人の ほっとするとき ほっとするもの
絵本のとびらを開いたら
えほんとわたし
有賀さんの スープと、やさいと。
こどものとも70周年
絵本の選びかた
こども時代、どう生きる!?
えほんとわたし
わたしの限界本棚
母の気も知らぬきみ
あの人の ほっとするとき ほっとするもの
母の気も知らぬきみ
あの人の ほっとするとき ほっとするもの
母の気も知らぬきみ