さまざまな分野で活躍中の方に、絵本の思い出やエピソードを語っていただく「えほんとわたし」。今回登場していただくのは、国立極地研究所、先端研究推進系生物圏研究グループの准教授で、南極のペンギンをはじめ極地の海鳥の研究がご専門の國分亙彦(こくぶん のぶを)さんです。
國分さんは2月末に南極から帰って来られたばかり。小さい頃から月刊絵本「かがくのとも」や「こどものとも」などを愛読していたという國分さんに、ペンギンのお話や、好奇心の扉を開いた絵本の思い出をうかがいました。
——2月末に南極から日本に帰ってこられたとのこと。現地ではどんな調査を?
67 次南極地域観測隊の一員として、10 月末から2月末まで南極に行ってきました。今回で南極は9回目です。ペンギンやアザラシにデータロガーと呼ばれる小型の機器を取り付けてデータを収集するバイオロギング調査を行っています。バイオロギングとは、Bio(生物の)とLog(記録する)を組み合わせた言葉で、具体的には、どんな場所でエサをとっているのかといった生態調査とともに、海洋の塩分や水温なども計測して海洋環境も調べています。これを複数年間続けることで、環境が変わったときに動物がどのような反応をするかも解明していきたいと考えています。
——データロガーとはどんなものですか?
さまざまなデータを計測できる機器です。私たちは、ペンギンやアザラシなどの動物に装着して、海水温や塩分を測ったり、GPS で移動経路を調べたり、動画を撮影したりしています。
実物はこんな感じです。

——小さいものから大きいものまでありますね!
動きに支障が出ないよう、基本的には動物の体重の3%以下の重さを目安にしていて、小さいものはペンギンに、大きいものはアザラシに装着していたものです。ペンギンは、自分の巣に戻ってくるのでデータロガーを回収できますが、アザラシは回収が難しいので、衛星にデータを送れるようにアンテナが付いています。アザラシは海の中を何百mもの深さまで潜るので、長持ちして低温にも耐えられる電池を使っていて約500gと結構重いんですよ。
——これをどうやって動物に取り付けるのですか?
ペンギンの場合は、視界が遮られると大人しくなるので布袋に入れて暴れないようにしてから、背中の羽毛に丈夫なテープで取り付けます。ただ、ペンギンは力も強く、頑丈な体をしているのでなかなか大変。フリッパーと呼ばれる羽でバチバチバチ! と高速で叩かれると結構痛いんですよ……。

北極では、見た目がペンギンに似ているウミガラスという鳥にもデータロガーを取り付けました。こちらは飛ぶ鳥なのでより難しいです。300mもの高さがある崖の岩棚が産卵場所で、そこにいるところを狙うのですが、自分が落ちてしまわないように仲間にロープで確保してもらいながら、先を輪っかにした透明の釣糸付きの釣り竿を持って狙います。こちらが派手に身を乗り出して飛び立たれてしまったら元も子もないので、大切なのは糸をかける技術よりも忍耐力。ウミガラスが首をひょこひょこ動かして様子をうかがっているうちに、間合いを見計らってひっかけます。
——そんなご苦労があるのですね。動物たちが取ってきてくれたデータからどんなことがわかりますか?
現在は、集めたデータを基に調べている段階ですが、氷が多い年と少ない年でペンギンの行動パターンが大きく違っています。氷の多さには年による変動の影響も大きいので、現段階では長期的な温暖化の影響がどれだけあるのかはわかりませんが、今後、温暖化が進んだときの動物たちの行動の予測に役立てられると考えています。
——データから、動物ってすごいと感じられるところはありますか?
ペンギンは、200~300 km 離れたところまでエサを取りに行っても、迷わずにまっすぐ帰ってくることが GPS の軌跡でわかります。それもすごいですし、分厚い氷の下にオキアミの群れがいるところをちゃんと見つけて食べていることがわかるなど、たくましいし強い動物だなと感じます。
他の海域ならば、船や自動で浮き沈みする機器を使ってデータを集めることもできますが、氷で覆われる極地の海では簡単にはデータを取ってくることができません。でもアザラシはほんのわずかな氷のすき間を見つけ、息をするときにアンテナを通じてデータを送ってくれます。極地という特殊な条件下の調査で、動物にしかできない力を発揮してくれていることもすごいと思います。
—— 子どもの頃に読まれた絵本のお話もお聞かせください。絵本を通して出会ったものや知ったことが、今の研究につながっている部分はありますか?
子どもの頃から「こどものとも」や「かがくのとも」、「たくさんのふしぎ」といった月刊絵本を購読していたこともあり、自然や動物が好きでした。中でも鳥に興味があって、薮内正幸さんの「日本の野鳥」シリーズ(福音館書店 ※現在は電子版のみ / 同シリーズを1冊にまとめた増補版『野鳥の図鑑』が刊行中)は全巻持っていて、よく見ていました。普段よく目にする鳥も、山や海に行かないとみられない鳥も、背景まで生き生きと描いてあってかっこいいんです。研究に携わるようになって、陸から何百kmも離れた海上で、この本に出てくるハシボソミズナギドリという鳥の1万羽にもなろうかという群れを見たことも印象に残っています。

10 万羽ものウミネコが飛来する北海道の天売島のことを紹介した、「たくさんのふしぎ」の『海鳥の島』(1991年3月号)も思い出深いです。2013年頃に天売島に海鳥の調査に行ったときには、作者の寺沢孝毅さんに道端でバッタリお会いできて。島で生活しながらあの本を書かれた方だという思いがあったので、とてもうれしかったですね。
——絵本の思い出はほかにも?
「たくさんのふしぎ」の『青函連絡船ものがたり』(1988年1月号)を読んで、小学2年生のときに、6年生の兄と2人だけで青函連絡船に乗りに行ったことがあります。寝台列車で青森まで行き、そこから函館へ。遠くに旅に出るのも、船に乗るのも初めてで、とても楽しかったです。懐かしいですね。その頃から寒いところ、北海道に行ってみたいなという憧れがありました。

——それで北海道の大学へ?
はい。海鳥の研究に興味があったこともあり、北海道大学の水産学部に入学しました。大学では探検部に入部し、冬山登山などを楽しんでいました。1800年代初頭に樺太からユーラシア大陸にわたった間宮林蔵という人物がいるのですが、彼が海を渡ってたどり着いた大陸の沿岸から、アムール川沿いのデレンという町までのルートについて、まだわかっていないところがあったので、そこに行ってみようと6人の仲間とその跡をたどったことがありました。スキーをはいて荷物を載せたそりを曳き、冬だったので凍った海や湖、川の上を歩きながら1か月ほどかけて無事、サハリンからアムール川まで到達できました。とても寒いし、予定通りにいかないことも多くて大変でしたが、面白さの方が勝りました。
実は後日談があって、『まぼろしのデレン 間宮林蔵の北方探検』(福音館書店 ※品切)という本で、実際に間宮林蔵の足跡をたどった作者の関屋敏隆さんから、私たちの探検について取材を受けて、絵本のあとがきに名前を載せていただきました。
——厳寒の地域の探検……。現在の極地での研究活動に近づいていくようなエピソードですね。
その後、大学の修士課程に在籍していた 2004 年に、水産庁の調査船の補助調査員の募集がありました。場所はニュージーランドの南にある南極のロス海。そこに約 100 年前、白瀬矗(しらせ のぶ)が苦労してたどり着いたことを知っていたので、ぜひ行きたいと応募して参加できることに。それが初めての南極です。
そのときは大陸に上陸することはなく船からの観測でしたが、100 年越しに白瀬さんと同じ場所に行くことができてうれしかったです。白瀬隊の記録では、ロス海の奥には数えきれないくらいのクジラがいたと書かれています。今はそこではそれほどクジラは多くなく、当時とはだいぶ様相が違いましたが、船の上から見えた氷の壁を見て、白瀬さんたちは南極点を目指してここを自力でよじ登っていったんだなと想像できて、とても感慨深かったです。
——日本にいらっしゃるときは、お子さんに絵本を読むことはありましたか?
今、長男が小学3年生、長女が1年生なので、自分で読むことも増えてきましたが、小さい頃は一緒にいろいろな絵本を楽しみました。『でんしゃがはしる』(品切)や『どうぶつえんのおいしゃさん』も好きでしたね。月刊絵本「ちいさなかがくのとも」の『ぺんぎん ぺんぎん ドボン ドボン』(2010年12月号)、「たくさんのふしぎ」の『いきものと熱』(2026年4月号)など、自分の研究と関連の深い本も一緒に読みました。また、9歳のソフィーが、船長のお父さんと一緒にオーストラリアの南極基地に向かう『ソフィー・スコットの南極日記』(小峰書店)という本には、私も行ったことがある基地のことが描かれていたので、体験も交え、結構脱線しながら読みました。


実は長男が生まれたとき、私は南極にいて1歳近くになる頃に初めて息子と対面したので、慣れるまでの間はだいぶ泣かれたという思い出もあります。極地に行くと長期間不在になり、子どもたちにも寂しい思いをさせていると思うので、一緒に絵本を読む時間は貴重なひとときでもあります。
——最後に、「自然や動物が好き」「南極に行ってみたい」「研究者になりたい」というお子さんにメッセージをいただけますか?
子どもの頃に読んだ、「かがくのとも」の『かたくり』(1977年3月)に、雪の下から芽を出すカタクリが描かれていました。神奈川県に住んでいたので普段はそういう光景を見ることはありませんでしたが、家族で福島県の只見町に旅行に行ったときに残雪の景色やカタクリを見て、絵本で見たものを自分で感じる楽しさを知りました。「たくさんのふしぎ」の『カメラをつくる』(1987年1月号)を読んで、中学生のときにカメラをつくってみたこともあります。
実際に自分の手を動かしたり、その場所に行ってみたり、観察してみたりして、自分の感覚を養ってください。自分なりの興味を膨らませると、どんどん世界が広がって、本には書いていなかった新たな発見もあってもっと楽しくなると思いますよ。
※ 出版社名のないものは福音館書店刊
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