もし自分の蔵書を、ひと箱(35㎝四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第13回は、書籍編集部長・Yの本棚をご紹介します。
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子ども時代、おもちゃはほとんど買ってもらえないし、家にはおやつも滅多にありませんでした。しかし母が、本だけは子どもによく買ってくれていたので、兄と姉がいたこともあって、家には児童文学がけっこうたくさんありました。鍵っ子だった自分は、家に帰るとまずはダメ元で戸棚を開け、予想通りおやつがないことを確認。その後、ため息とともに本の世界へと入っていく毎日でした。
その後、成長過程では当然、大人向けの小説も手当たり次第に読みましたが、ややこしいシチュエーションと複雑すぎる感情に回りくどさを感じ、徐々にまた子どもの本に戻っていきました。結局、生きていく上で大事なことはすべて児童書から教わったような気がします。大人向け小説で読み続けているのはハードボイルドとミステリーだけ。ずいぶん極端に偏った読書遍歴となってしまいました。
そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

1『長くつ下のピッピ』
2『はるかな国の兄弟』
3『やかまし村の子どもたち』
以上、アストリッド・リンドグレーン 作 大塚勇三 訳/岩波書店
4『ドリトル先生のサーカス』
ヒュー・ロフティング 作 井伏鱒二 訳/岩波書店
5『ふたりのロッテ』
エーリヒ・ケストナー 作 高橋健二 訳/岩波書店
6『グリーン・ノウの子どもたち』
ルーシー・M・ボストン 作 亀井俊介 訳/評論社
7『海へ出るつもりじゃなかった』
アーサー・ランサム 作 神宮輝夫 訳/岩波書店
8『ふしぎなオルガン』
リヒャルト・レアンダー 作 国松孝二 訳/岩波少年文庫
9『エルマーのぼうけん』
ルース・スタイルス・ガネット 作 ルース・クリスマン・ガネット 絵 わたなべしげお 訳 子どもの本研究会 編集/福音館書店
10『小さい魔女』
オトフリート=プロイスラー 作 大塚勇三 訳/学研プラス
11『星の牧場』
庄野英二 作/理論社(品切 現在はちくま文庫で刊行)
父親と生き別れとなり、ごたごた荘にたった一人で住んでいるピッピ。鍵っ子だった自分にとって、孤独なピッピは同じ仲間でした。しかし、もしピッピにそんなこと言ったら「あら、私は一人じゃ無いわ。サルのニルソン氏もいるし、ウマもいるわよ」と強がることでしょう。彼女はなんせ世界一力持ちの女の子。さらには金貨もたくさん持っていて、お菓子もおもちゃも買い放題。でもピッピは、その力も金貨も自分の私利私欲のために使ったりはしません。弱い者いじめをする者に対し、「アリャサノコリャサ」と力を発揮して弱きを助け、恵まれない人には金貨を渡してあげます。そんな強いピッピも、森で死にかけている小鳥には、「私にもっと力があったら助けてあげられるのに」とつぶやくのみ。「ピッピ泣いてるの?」と言われると、「泣くわけないじゃない」とまたまた強がる。ピッピ~!! いいんだよ素直になって! ピッピの存在に、子どもの自分はどれだけ勇気づけられたことか!

12『アンの友達』
ルーシー・モード・モンゴメリ 著 村岡花子 訳/新潮文庫
13『チップス先生さようなら』
ジェイムズ・ヒルトン 著 白石朗 訳/新潮文庫
14『クリスマス・キャロル』
チャールズ・ディケンズ 著 村岡花子 訳/新潮文庫
大人向けの小説に回りくどさを感じ、徐々に児童書の世界に戻っていった時期です。そんな中、出会ったのがこの『アンの友達』。「赤毛のアン」シリーズのスピンオフ作品で、アンはそれぞれのエピソードの中にちょっとしか登場しません。しかし、各章の主人公は頑固な人間嫌いの老婦人だったり、偏屈なじいさんだったり、アンを上回る癖強めな人ばかり。しかしページをめくるにつれ、明らかになっていく過去。皆、偏屈や人間嫌いになる深い理由があったのです。人間とはかくも悩ましい、そして愛おしい存在なのか。性善説に裏打ちされた、人間への愛情あふれる作品です。この作品によって、自分の回りの嫌な人に対しても、ある愛情をもって観察できるようになった気がします。

15『11人いる!』
16『トーマの心臓』
以上、萩尾望都 著/小学館文庫
中学生の自分は、姉が買っていた少女漫画を見て「目に星がある女の子がイケメンと恋に落ちるだけだろ? ケッ」と思っていましたが、ある日、兄の部屋にあった(なぜ?)『11人いる!』を読んでぶっ飛びました。愛とか恋とかまったくなくて、モロSFやん! これで少女漫画⁉ めっちゃ面白いやん!
さらに同じ著者の『トーマの心臓』を読むと、これはもう文学だ! 深い! 切ない! なぜトーマは死んだのか? う~む、考えさせられる……。ここから萩尾望都にはまり、大島弓子にはまり、槇村さとるにはまり、なぜか『スケバン刑事』(和田慎二 著/秋田書店)にまではまり……と、しばらく少女漫画沼にはまっていました。

17『パパ・ユーアクレイジー』
ウィリアム・サローヤン 著 伊丹十三 訳/新潮文庫(品切)
18『たんぽぽのお酒』
レイ・ブラッドベリ 著 北山克彦 訳/晶文社
19『長距離走者の孤独』
アラン・シリトー 著 丸谷才一、河野一郎 訳/新潮文庫
20『熊とにんげん』
ライナー・チムニク 作 上田真而子 訳/福武文庫(品切 現在は徳間書店から刊行)
21『レクトロ物語』
ライナー・チムニク 著 佐久間リカ 訳/筑摩書房(品切)
人生で一番読み返した本は? と問われれば、間違いなくこの『パパ・ユーアクレイジー』です。父と息子との日常というと、なんてことないようですが、作家である父が息子に伝えているのが、この世界の感じ方というか見方というか生きる思想というか。そこにはとても大きな愛とメッセージが感じられますし、自分自身の世界観・人生観も大きな影響を受けました。息子が感じる世界を受け止めつつ、そこにさらなる広がりへのヒントをそっとさしだす。こんな父親になりたいと思いつつ、まったく違ってしまったのは、自分の子どもが「息子」ではなく「娘」だったからなんだと自分に言い訳しています。
ちなみに翻訳は、「マルサの女」などの映画監督・伊丹十三。この訳文が独特で、指示代名詞を省略せずに訳しているため、「僕の父は僕の母に、彼女が僕と僕の父を彼女の車で送ることを断った」というような感じで一見読みにくい。しかし逆に具体的描写が淡々と伝わってきて、独特の雰囲気を醸し出しています。
ライナー・チムニク2作品も、何度も何度も読み返した作品。玄人受けの作家なのか、福音館書店・佑学社・童話屋・福武書店・アリス館・パロル舎などさまざまな出版社でいくつもの作品が翻訳出版されるも、現在はどれも品切れと、なかなか長続きしない不遇の作家。現在は徳間書店から『熊とにんげん』『タイコたたきの夢』が刊行されています。

22『初秋』
ロバート・B・パーカー 著 菊池光 訳/ハヤカワ文庫
23『毒猿 新宿鮫II』
大沢在昌 著/光文社文庫
24『火車』
宮部みゆき 著/新潮文庫
25『テロリストのパラソル』
藤原伊織 著/角川文庫
26『検事の死命』
柚月裕子 著/角川文庫
大学時代にたまたま母に勧められたのが、この『初秋』。もともと松本清張やアガサ・クリスティなど本格派ミステリーは好きでしたが、ハードボイルド小説はこれが初めてでした。といっても、主人公である探偵スペンサーは軽口叩いてよくしゃべるし、女好きだし、自分で料理するし、「愛とは決して後悔しないこと」的なハードボイルド探偵ではありません。しかしそんなスペンサーが、離婚した両親から道具のように扱われる少年ポールに、自立できるよう手をさしのべる姿にシビれます。男とは? 自分とは? 愛とは? 生きるとは? 自分がかっこいい大人になる(結果はともかく)うえで、とても影響を受けた1冊です。
27『北極海へ』(野田知佑 著/文春文庫)|28『人情裏長屋』(山本周五郎 著/新潮文庫)|29『犬を飼う』(谷口ジロー 著/小学館文庫)|30『かっこいいスキヤキ』泉昌之 著/扶桑社文庫
好きな本を何度も何度も読み返し、それ以外の本は古本屋に売ってしまうので、我が家の本棚は、すでに大きな「限界本棚」状態で、絞り込むのはけっこう大変でした。といっても、ジャンルが限られているので、どれを選んでも印象はほぼ変わらず。読書遍歴的にはまったく成長してない感が多々ありですが、それが素の自分なのでしょうがないですね。
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