わたしの限界本棚

瀬戸内海の島々を眺めながらの小学校の図書室は天国でした~! 大好きな海洋冒険物語などを詰め込んだ24冊の本棚|宣伝課・S

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もし自分の蔵書を、ひと箱(35cm四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第14回は、宣伝課・Sの本棚をご紹介します。

本が好きになったのは、小学校の図書室が素敵だったからかもしれません。広島市郊外の埋立地につくられた真新しい小学校には、牡蠣や海藻などの海の匂いがいつも漂っていました。図書室があったのは4階。当時の小学校としては蔵書も多く、窓からは瀬戸内海の島々が見えました。宮島、江田島、能美島……。小さな島には勝手に名前をつけて、「ひょっこりひょうたん島」ごっこをしたり、日が暮れるころには、大騒ぎしながら海の上空を進む人工衛星の光を追ったり。今思い起こすと、好きな本を片手に、なんて幸せな毎日だったことでしょう。

このような幼い日の環境のせいなのか、気づいたらジャンルに関係なく乱読するクセがついてしまったようです(ツンドクも多し!)。買った本は捨てられない性分で、今や寝るスペースがありませ~ん!

そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

《野球》

1『野村克也 野球論集成』
 野村克也 著/徳間書店
2『落合博満の超野球学① バッティングの理屈』
 落合博満 著/ベースボール・マガジン社
3『バッティングの正体』
 手塚一志 著/ベースボール・マガジン社

図書室にはもちろんなかったので、皆で回し読みをしたのが、マガジン、サンデー、キング、チャンピオン、ジャンプなどの少年漫画誌。特に人気だったのが野球漫画の連載でした。梶原一騎の『巨人の星』(講談社)を筆頭に、ちばあきおの『キャプテン』(集英社)、水島新司の『ドカベン』(秋田書店)など、根性物語ばかり。なので、仲間が揃えばとにかく野球でした。原っぱで大リーグボールを実践(?)し、その後、中学、高校でも坊主頭でボールを追う日々。何も考えずに野球をしていたからか、後に、元祖二刀流(捕手&監督)の門外不出の野球ノート『野村克也 野球論集成』や三度の三冠王の指南書『落合博満の超野球学①』に出会ったときは、目から鱗でした。もっと早く出版されていたらなあ~。そして、手塚一志の新運動原理を紹介する『バッティングの正体』は、日本野球をメジャー級に引き上げた革命的研究書だと密かに思っているのです。たぶん~。

《映画・SF》

4『時をかける少女』SFベストセラーズシリーズ
 筒井康隆 著/鶴書房盛光社(現在は角川文庫)
5『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』
 A.ヒッチコック、F.トリュフォー 著 山田宏一、蓮實重彦 訳/晶文社
6『蝦蟇の油─自伝のようなもの』
 黒澤明 著/岩波書店(同時代ライブラリー)
7『伊丹万作全集1』
 伊丹万作 著/筑摩書房

筒井康隆、眉村卓、豊田有恒、福島正実、光瀬龍、小松左京などのSF小説に夢中になっていた青春時代、広島市上空に謎の飛行物体を目撃!(ホント) そしてちょうど、スピルバーグの映画「未知との遭遇」が封切られたのです。(世間では、同時期封切の「スター・ウォーズ」が話題でしたが……) この衝撃で、野球少年は一気に映画少年に~。雑誌「スクリーン」「キネマ旬報」をはじめ、黒澤明、小津安二郎、ヒッチコック、ゴダール、タルコフスキー、デビッド・リンチなどに関する本に刺激を受けますが、お気に入りの監督はなんといってもヒッチコック。彼の全映画を取り上げた『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』では、カメラをトラック・バックさせながら、同時に急激にズームアップして撮影した映画「めまい」の階段シーンなど、撮影・編集の秘密が満載でした。

《教育》

8『なぜ学校へ行くのか(新版)』
 大田堯 著/岩波書店 品切れ
9『木のいのち木のこころ(天)』
 西岡常一 著/草思社

長女が小学校に入学し、学校というものに違和感を抱いたときに出会った本が、『なぜ学校へ行くのか』でした。なぜ学校は生まれ、なぜゆがめられてきたのか。そもそも、子どもにとって学校は必要なものなのか。そして、人が成長し人になるとはどういうことなのか……。平和を願う教育学者大田堯の、ぜひ今でも、親、教師に読んでもらいたい本です。一方、学校教育とは真逆の、伝統的な師弟教育を語った本が『木のいのち木のこころ(天)』。たまたま家を建てるころ、タイトルにひかれて手にとった本でしたが、いえいえ素晴らしい教育書でした。著者である法隆寺最後の宮大工・西岡常一棟梁は、飛鳥時代から千数百年伝わってきた口伝の教えとともに、自分の背中や法隆寺の木組を弟子にみせることで、自ら学ばせていきますが、そこに、失われつつある真の教育のかたちを見ることができるのです。塩野米松の聞き書きも見事!

《美術》

10『ひらがな日本美術史』
 橋本治 著/新潮社(シリーズ全7巻)
11『近代絵画の見かた』
 ゲオルク・シュミット 著 中川二柄 訳/社会思想社(品切れ)

上野の近くで暮らしていたころ、国立博物館の「水先案内人」になってくれたのが、『ひらがな日本美術史』でした。橋本治は奇才ですねえ。元々は「芸術新潮」で毎月連載されていたものですが、「埴輪」「銅鐸」にはじまり、「法隆寺金堂天井板落書」や「源氏物語絵巻」、「東大寺南大門」に至るまで、著者自身の鋭い嗅覚で歴史的な美術品や建造物の美しさを言葉たくみに紐解いていく本です。それから、西洋絵画、特に印象派について軽快に語った本が『近代絵画の見かた』。スイスのバーゼル美術館元館長シュミット博士が、1955年にラジオ・バーゼルで10回にわたって放送した講演を活字に落としたものですが、これがとてもわかりやすい! 美術館所蔵の10の絵がギャラリートークのように展開され、印象派時代の急激な表現の変化がどんな美術書よりも楽しく理解できるのです。実際にこの本を片手にバーゼル美術館にも行きました。

《海洋冒険物語》

12・13『二年間の休暇』(上)(下)
 J・ベルヌ 作 朝倉剛 訳 太田大八 画/福音館書店
14『ロビンソン・クルーソー』
 D・デフォー 作 坂井晴彦 訳 B・ピカール 画/福音館書店
15『無人島に生きる十六人』
 須川邦彦 著/新潮文庫
16『ジャングルの少年』
 チボル・セケリ 作 高杉一郎 訳 松岡達英 画/福音館書店
17『たった一人の生還 「たか号」漂流二十七日間の闘い』
 佐野三治 著/新潮社(現在、山と渓谷社より刊行)

海の近くに住んでいたからなのか、小さいころから漂流、漂着ものの冒険物語に熱中していたようです。初めて手にとったのが、ベルヌの『二年間の休暇』(『十五少年漂流記』)。次に、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』でした。孤島で生き抜く姿にどれだけワクワクドキドキしたことか。(ぜひ完訳本で!) そして、日本版の漂流記『無人島に生きる十六人』は、百年前の実話をもとに須川邦彦が著した物語。漂着した何もないサンゴの島で井戸を掘り、ウミガメ牧場を作り、漁船員16人が協力して生き抜く姿に、明治男の無類のたくましさ、やさしさを感じたものです。また、森に生きるたった12歳の少年が、座礁した船や乗客を「ジャングルの教え」で救っていく『ジャングルの少年』では、本当の知恵、豊かさとは何か、を教えてくれました。(アウトドア好きな人はぜひ!) それから、ずっと大切にしている本が『たった一人の生還』。この本は、多数の死者を出した第7回日本~グアムヨットレースで遭難し27日間の漂流の後、ひとり生還した佐野三治さんの凄絶な手記です。人間は極限状態に置かれたときに何を考え、どのように死を乗り越えていけるのか、かつて自身も参加したことのあるレースだけに、すべての描写が目に浮かび、何度読み返しても胸がしめつけられるのです。

他に選んだ本は…

18『刺青・秘密』(谷崎潤一郎 著/新潮文庫)|19『文章読本』(谷崎潤一郎 著/中公文庫)|20『神谷美恵子著作集1 生きがいについて』(神谷美恵子 著/みすず書房)|21『愛情セミナー』(遠藤周作 著/集英社文庫)|22『日本の歴史をよみなおす』網野善彦 著/筑摩書房|23『貧乏は正しい』(橋本治 著/小学館 ※現在は小学館文庫)|24『プロ並みに撮る 写真術』(日沖宗弘 著/勁草書房)

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