わたしの限界本棚

釣りに熱中し「和竿」に散財するきっかけとなった本のほか、趣味の世界をこれでもかと詰め込んだ24冊の本棚|総務課・T

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もし自分の蔵書を、ひと箱(35cm四方)に絞らないといけないことになったら、そこには何を入れますか? 本好きが集まる出版社の社員たちが、本棚として成立する“限界”まで本を減らした、「限界本棚」を覗いてみましょう。第15回は、総務課・Tの本棚をご紹介します。

蔵書の背表紙を眺めながら暮らしたいと思いつつ、なかなか実現できていません。

本棚はあるのですが、いつの間にかガンプラや我が子の芸術作品(学校から持ち帰った工作類)が置かれるようになり、元々そこにいた本たちは床下に避難してしまったからです。残ったわずかな本たちも、キャンプ道具や釣り竿がバリケードとなり覆い隠されている始末。憧れのシンプルな暮らしとは真逆をいく、趣味のモノで溢れかえる部屋から、週末がんばって発掘できた本で作った〈体力の〉限界本棚。

そんな蔵書の中から、ひと箱に収まるだけ選ぶとしたら……

《職人たちの仕事》

1『MAINTENANCE』(マーク・パワー 写真/青幻舎 品切)
通勤途上の都営バスの中で、職員の方々や職場風景、仕事道具にフォーカスした写真が次々と車内モニターに映し出されたとき、思わず見入ってしまいました。インフラを支える都営交通の仕事をクールに切り取った写真集。

2『額縁の歴史』(クラウス・グリム 著 前堀信子 訳/木村三郎・千速敏男 監修/リブロポート)※現在は青幻舎より刊行
写真入りで額縁の歴史がよくわかる本。額に関する書籍のうち、部屋から発掘できたのはこの1冊だけ。額は絵画のおまけのようでいて、いやいやどうして、絵画の印象を大きく左右する絵画の一部といえるものではないでしょうか。額縁職人にあこがれています。

《和竿の世界》

幼少期に覚えた、竹竿を使った小物釣りの感触が今でも忘れられずにいます。その感触を追求し、行きついた道具が、江戸時代に生まれた竹と漆を素材とした継ぎ竿、江戸和竿でした。

3『平成の竹竿職人』(葛島一美 著/つり人社 品切)は、この道具を生み出す職人名鑑。このガイドブックがなかったら、ここまで釣りに熱中することなく、和竿に散財することもなかったでしょう。そういった意味で、とてもデンジャラスな1冊です。

4『続・平成の竹竿職人 焼き印の顔(葛島一美 著/つり人社 品切)は、その続編。既に鬼籍に入られた和竿師(和竿づくりの職人)がいる一方、いまだ現役の親方もおられます。あなたも親方たちがお元気なうちに、この世に1本しかない自分だけの和竿を誂(あつら)えてみてはいかがでしょうか? 

5『江戸和竿職人 歴史と技を語る』(松本三郎・かくまつとむ 著/平凡社 品切)
北斗神拳で例えれば、ケンシロウによる北斗神拳奥義の解説本。天明8年(1788年)泰地屋東作(たいちやとうさく)が江戸に和竿店を開いてからまもなく240年、いまでも稲荷町の東作のお店は営業中で、江戸和竿の伝統を守り続けています。本書は六代目東作・松本三郎氏が語った竿づくりの秘伝を、かくまつとむ氏がまとめたものです。この本のおかげで、世の “趣味の和竿づくり” が一層本格的なものに近づいたに違いありません。

6『竿師一代』(潮見三郎 著/つり人社 品切)
竿忠、竿治、竿辰あたりが東作系本流の竿師さんたちと言ってよいと思いますが、その中でも三代目竿治の生涯を描いた作品。戦前から戦後にかけての風俗史の一面も。三代目竿忠が初代竿忠のエピソードをまとめた『竿忠の寝言』(つり人社 品切)も必読です。和竿師の中でも、名人中の名人といわれた、これらの親方たち。名人の和竿は博物館級の高価品でとても手が出ませんが、運が良ければ入手可能かも。

《遊び》

7『遊歩大全』(コリン・フレッチャー著 芦沢一洋 訳/ヤマケイ文庫)
あふれるモノの中で息苦しさを感じるとき、コンクリートに囲まれた都市から飛び出して、インフラから切り離された自然の中でシンプルに生きたいという衝動が生まれます。私の場合は『家をせおって歩く』(村上慧 著/福音館書店)には遠く及ばない、単なるバックパッキングなのですが、その最初のバイブルとなったのが本書です。

9『江戸前の釣り』(三遊亭金馬 著/中公文庫 品切)
わたしは慣れ親しんだ小物釣り専門ですが、江戸前の釣り師は、季節ごとに釣りものを変えて、1年中釣りまくっていたようです。釣る魚によって道具がそれぞれ全部異なるわけですから、釣り道楽といわれる所以ですね。著者の金馬師匠は、五世四代目竿忠の妹である海老名香葉子さんの育ての親で、大変な釣りバカでした。

10『小さな魚を巡る小さな自転車の釣り散歩』(葛島一美 著/つり人社 品切)
良い歳をしたおじさんたちが和竿を携え、少年のように自転車で各地の釣り場を巡る物語。和竿の購入の仕方を丁寧に解説してくれているコーナーもあります。ぜひあなたもこの世に1本しかない自分だけの和竿を誂えてみてはいかがでしょうか?(和竿沼へのお誘い2回目)

11『新技法によるタナゴ釣り』(宇留間鳴竿 著/西東社 品切)
12『みんなのハゼ釣り』(つり人社書籍編集部 編/つり人社)
13『テナガエビ釣りの「コツ」全部』(つり人編集部 編/つり人社)

《汗を流す》

14『東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ』(草隆社 編/東京都公衆浴場業生活衛生同業組合 品切)
「東京銭湯お遍路マップ」という名称に変わり、書店で流通しなくなってからは大変入手しにくくなりました。私が購入したのは池袋のジュンク堂書店で、当時300円でした。
各銭湯の営業時間、定休日、サウナや電気風呂の有無など基本情報満載で、このマップを熟読してから目当ての銭湯に出かけます。改装や廃業のニュースはすぐに地図上に反映させます。近場の銭湯はコンプリートし、残すは遠方の銭湯だけ。遠いと交通費がかさむのと、帰宅前に湯冷めしてしまうのが目下の悩み。

15『自転車とろろん銭湯記』(疋田智 著/ハヤカワ文庫 品切)
16『東京銭湯三國志』(笠原五夫 著/文芸社 品切)

《再生》

17『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』(石光真人 編著/中公新書)
祖母が会津人だったので、よく泊まりに出かけました。山河で遊び回り、お腹がすけば「つと豆腐」を食べ、いつしか自分にも会津人としての自覚が芽生え……どんな逆境にあっても柔軟性を失わなかった尊敬する柴五郎翁の生涯についての記録。

会津出身の陸軍軍人。義和団事件での奮戦で知られる

18・19『大江戸釣客伝』上・下(夢枕獏 著/講談社文庫 品切・電子版あり)
日本最古といわれる釣りの指南書「何羨録」(かせんろく)の著者 津軽采女(つがるうねめ)が主人公の物語。采女は吉良上野介の義理の息子なので、お馴染みの討ち入りの場面も出てきます。生類憐みの令が発布されている元禄時代、多賀朝湖は島流しにあっても、そこで絵を描き続け、釣りを続けました。わたしの一番好きなキャラクター。彼が描いた「雨宿り図屛風」を実際に見たときには涙が出ました。釣りを知らなくても楽しめますが、知っていたら胸アツの連続、間違いなし。

江戸時代の画家、英一蝶(はなぶさ いっちょう)が剃髪後に用いた名前

《他に選んだ本》

20『青函連絡船の人びと』(本橋成一 写真 佐藤滋 文/津軽書房)
青函連絡船に乗船した経験はないのですが、全てが消えてなくなってしまう前に、よくぞ記録しておいてくれましたと感じた1冊。

21『東京23区物語』(泉麻人 著/新潮文庫 品切)
休日も都営バスに乗って都内あちこちへ出かけます。東京23区内、下町なら下町の、山の手なら山の手の雰囲気があって、それらはちょっとやそっとの歳月では変わらないのですね。本書が出版されてもうすぐ40年たちますが、読み返すとそれがよくわかります。今ではなくなってしまったお店が出てくるのがとても懐かしい。歯に衣着せぬ表現で全ての区を揶揄しながら、同時に深い慈しみが感じられるところが好き。

22『ソロモンの指環〈動物行動学入門〉』(コンラート・ローレンツ 著 日高敏隆 訳/早川書房)
ノーベル賞を受賞しているローレンツ博士の著書。きっと博士は魔法の指環で動物たちと話ができたに違いない。そして動物たちが、同じ動物である人間をどう見ているのか、聞いたはず。動物たちから学び、人類が愚行を繰り返さないようにするための大切な1冊。

23『ワインズバーグ・オハイオ』(アンダスン 著 橋本福夫 訳/新潮文庫)
架空の町ワインズバーグに暮らす人々の物語。大学時代、英文学部の授業で原書に出会いました。短編集なので読みやすい。特に好きなのは、序文「グロテスクなものについての書」とPaper Pills(「紙玉」)。

24『一九八四年』(ジョージ・オーウェル 著/ハヤカワ文庫)

発掘できなかった本…》

『春鮒日記』(英 美子 著/白燈社 品切)
装画は朝倉摂。朝倉摂の父は彫刻家 朝倉文夫で、竿忠と親交があったため、竿忠の銅像を作りました。鮒(ふな)をつりまくる話。

『麻雀放浪記』全4巻(阿佐田哲也/角川文庫)
『ドサ健ばくち地獄』上・下(阿佐田哲也/角川文庫)
放浪記のほうは、坊や哲が主人公ですが、本書はドサ健を主人公とした『麻雀放浪記』のスピンオフ作品。

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