こどものとも70周年記念

《新連載》福音館社員が選ぶ 「こどものとも」わたしの1冊|父と私と『もりのおばけ』(編集部H)

絵本 |
アイキャッチ画像

月刊絵本「こどものとも」が、2026年、創刊70周年を迎えました。
小さい頃に読んでもらったり、入社して出会ったり、子どもに読み聞かせたり……これまでに刊行された「こどものとも」から、福音館社員が思い入れのある1冊をご紹介します。

第1回は入社14年目、ちいさなかがくのとも編集部・Hの1冊。

父と私と『もりのおばけ』  

ちいさなかがくのとも編集部 H
 


『もりのおばけ』を手に取ると、かならず父の声が聞こえてきます。

幼いころ、ふだん絵本を読んでくれるのは母で、父は特段絵本に興味はなさそうでしたが、なぜだか『もりのおばけ』だけは私と兄を両ひざにのせて、おどろおどろしい声で何度も読んでくれたものでした。おばけが「おーい」と言いながら森から飛び出してくるストーリーはもとより、作者の片山健さんの描く鉛筆画がなんともミステリアスで、震え上がったのを覚えています(「おばけ」自体もこわいのですが、絵本の展開には直接関係しない謎の人物が描きこまれているのもこわかった……)。

おもしろいけど、こわい。こわいけど、おもしろい……! 私は“絵本”というものに夢中になりました。
 

一度、私と兄の二人だけで「『もりのおばけ』を読もうよ」と本棚からひっぱり出してみたことがあったのですが、どうしても絵本を開くことができません。たまらずに父のところへ行き「これ読んで!」。自分たちでは開くのもおっかない絵本でしたが、父が読んでくれれば大丈夫、という信頼があったのです。父は「おれが死んじゃったら、おばけになって『おーい』って出てくるからなー!」とよく言っていました。1990年代初めごろの思い出です。

それから十数年後、2011年の春。

就職活動中の私は、福音館書店の最終面接を翌日に迎えていました。ワクワクとドキドキが入り混じる気持ちを落ち着けようと、ジュンク堂書店池袋本店に立ち寄り、児童書コーナーをのぞいてみました。すると、「新刊」のポップがついたハードカバーの『もりのおばけ』が店頭にならんでいるではありませんか。

月刊誌として何度か再販されたことはあったようですが、ハードカバーとして刊行されたのはこの時が初めてだったそう。運命めいたものを感じて、すぐに購入し、お守り(にしては随分と大きい)として、就活用カバンに忍ばせ、翌日の面接にのぞんだのでした。
 

それからさらに時は流れて、2015年の春。

私の目の前には、『もりのおばけ』の作者である片山健さんその人が座っていました。コーヒー豆をこりこりと挽きながら「へえ、お父さんが読み聞かせてくれたんですか。『もりのおばけ』をつくったときは、なかなか大変でねえ……」と微笑みながら思い出話を聞かせてくれています。「ちいさなかがくのとも」編集部の一員として『つかめる かな?』(2017年3月号)という絵本を担当していたときのことです。

だいすきな『もりのおばけ』をつくった人から直接お話を聞きながら、これから出る絵本の打ち合わせをしている。「思えば遠くにきたものだ……」という感慨で、コーヒーの味はまったく感じられませんでした。片山さん、せっかく淹れてくださったのに申し訳ありません。
 

私の父は、昨年の冬にこの世を去りました。

あらためて考えてみると、もし父が『もりのおばけ』を読んでくれていなかったら、絵本に夢中になることはなく、この会社に入ることも、片山さんにお会いすることもなかったかもしれません。

おばけになった父が、森の中から「おーい」と飛び出してきてくれたら、しっかりとお礼を伝えようと思います。サンキュー!(父の口癖)

もりのおばけ』 かたやま けん さく・え

森で弟とはぐれた「ぼく」は、いつのまにか、不思議な森に、たったひとり。ぼくはこわくて、「おーい」って呼んでみた。すると、森の奥から、「おーい」って言いながら、あっちからも、こっちからもおばけがとんできた。さあどうしよう。
「こどものとも年中向き」1969年11月号、現在は「こどものとも」絵本として刊行中。『おなかのすくさんぽ』『おやすみなさいコッコさん』で知られる片山健さんが、はじめて文と絵を手がけた作品です。

 『もりのおばけ』についてはこちら
 


▶ 月刊絵本「こどものとも」創刊70周年特設ページへ

この記事をシェアする

おすすめの記事