加古里子(かこ さとし/1926-2018年)さんの絵本といえば、「だるまちゃん」シリーズ(福音館書店)や『からすのパンやさん』(偕成社)などの物語絵本が思い浮かぶかもしれません。でも加古さんには、もうひとつの顔……子どもを魅了する「科学絵本」の作り手としての顔があるのです。
東京・上野の国立科学博物館で、2026年3月24日からスタートした「かこさとしの科学絵本」(2026年6月14日まで)は、加古さんの科学絵本に光をあてる企画展。内覧会の様子とともに編集部・Iがレポートします。

東京・上野の国立科学博物館で現在開催されている、絵本作家・加古里子さんの生誕 100 年を記念した企画展「かこさとしの科学絵本」。科学博物館による科学絵本の展示……どんな内容か興味津々です。
今回の企画展は、常設展の入場料のみで見学できるのも嬉しいところ。会場となっている日本館1階の企画展示室に、いそいそと向かいます。──すると、展示室前のホールに「だるまちゃん」が!

「ぼくをうみだした/かこせんせいは/かがくのえほんも/かいたんだよ」と来館者に語りかける、だるまちゃん。
──そうなのです。加古さんは生涯に 600 冊を超える絵本(すごい…!)を手掛けましたが、その中には、たくさんの科学絵本も含まれているのです。
ちなみに、だるまちゃんの後ろのスペースには、加古さんの著作を含む科学絵本を並べた本棚が設置されていて、絵本を実際に手にとって楽しむことができます。絵本を楽しんでから企画展を見るか、企画展を堪能してから絵本の世界にひたるか、あなたはどちらを選びますか…!?

こちらが展示室の入り口。『地球』(1975年)の下絵(P4-5)に開けられた窓から、ネクタイ姿の加古さんが笑顔で迎えてくれます。窓の奥も気になりますが、会場の中へ!

まず目に飛び込んできたのは、加古さんが歩んだ道のりと科学絵本の歴史を重ねた年譜。
加古さんは、大学で応用化学を専攻し、工学博士を取得。卒業後は化学会社の技師として働く一方で、紙芝居や絵本を手作りし、社会福祉活動の一環として多くの子どもたちを楽しませていたそうです。科学的な視点と、子どもを楽しませる心──その両方を、加古さんはもっていたのですね。
そんな加古さんが絵本作家として歩むきっかけとなったのは、福音館書店の編集者・松居直(まつい ただし)との出会いでした。加古さんの絵には「子どもに語る力がある」と感じた松居は、絵本の制作を依頼します。そうして刊行された初めての絵本が、『だむの おじさんたち』(月刊絵本「こどものとも」1959年1月号)でした。

その後、次々と新作を刊行していく加古さん。
初期の作品を順に並べると……
『あたらしいうち』 こどものとも1960年3月号/加古里子 作 村田道紀 画
『かわ』 こどものとも1962年7月号/加古里子 作
『ゆきのひ』 こどものとも1966年2月号/加古里子 作
『たいふう』 こどものとも1967年9月号/加古里子 作
『だるまちゃんとてんぐちゃん』 こどものとも1967年2月号/加古里子 作
『あなたのいえ わたしのいえ』 かがくのとも1969年6月号/加古里子 作
『海』 1969年/加古里子 作
刊行のペースがどんどん上がっているような……!? 創作活動に向けられた加古さんの熱量が、年譜を通して伝わってくるようです。

加古さんが使っていた道具を展示するコーナー。この椅子に座り、この絵筆をにぎって、さまざまな本を生み出されていったのですね。パレットに残るオレンジやブルーの絵の具で、何を描いていたのでしょう?

『かわ』は、湧き水から川が生まれて海に注ぐまでの流れを、風景とともに丁寧に描いた絵本です。川がもらたす恵みや、人々の暮らしとの結びつきも、そこに描かれる風景から読み解くことができます。
こちらのコーナーでは、加古里子さんのご長女の鈴木万里さんが、この絵本にまつわるエピソードを聞かせてくださいました。
──それは、『かわ』の原画が仕上がったときのこと。表紙の絵を目にした編集者の松居は、しばらく何も言わず黙ってしまったといいます。その理由は、想定していなかった子どもの姿が表紙に描かれていたためでした。松居が「(加古さんの)お子さんですか?」と尋ねると、加古さんは「そうです」とニコニコ。松居はそれ以上何も言えなくなり、原画をお預かりし、そのまま『かわ』を刊行しました。

──もうおかわりですよね? そう、表紙に描かれている赤い服の女の子は、子どもの頃の鈴木万里さん。加古さんの温かな眼差しを感じます。
最新の知見を調べ、自身の中に落とし込み、子どもたちが楽しみながら知っていけるように表現する──それは膨大な時間や努力だけでなく、卓越したセンスがなければできない仕事です。それが結実した作品に、『海』(1969年)『地球』(1975年)『宇宙』(1978年)『人間』(1995年)の4部作があります。

今回の企画展では、この4冊を大きく取り上げ、原画とともに展示を行っています。特に興味深いのは、国立科学博物館の研究者の方々が専門分野の知見とともに、本の解説を行っていること!
『海』の展示スペースをのぞいてみると、原画と並んでワカメの標本が展示されています。──どうして? と不思議に思い、解説に目を向けると、「海藻やワカメは緑色と誤解されていることが多いが、生きているワカメは茶色。かこ先生は、正しい色でこの海藻を描いている」とあり、まさに目から鱗。

この解説を書いた方は、今回の企画展を監修した同館・植物研究部の北山太樹さん。「加古さんの科学絵本は、ページをめくることによって世界の普遍的な事柄を子どもの目線で伝えてくれる。伝えたいものは、国立科学博物館も同じなんです。違いは、自分の手でページをめくるか、自分の足で歩いて見るか、それだけしかない」と北山さんは語ります。
「誰もが楽しみながら世界の事柄を知っていけるように」──そんな願いを絵本という形で体現してきた加古さんと、展示という形で体現してきた国立科学博物館。今回の企画展は、加古さん生誕100年という大きな節目に、その両者が手を携えて実現したのですね!

4部作のひとつ『人間』は、完成までに17年の年月を要した大作。加古さんは「人間」を語るために、ビッグ・バンまでさかのぼることを選びました。それはきっと、ただ知識を教えるのではなく、背景にあるストーリーや、そこから生まれる驚きと感動を大切にしたかったから。
そう考えると、国立科学博物館の研究者の方々による数々の解説も、まさに加古さんの絵本の “背景にあるストーリー” といえそうです。写真左下のケースの中には、いったい何が……!? ますます気になってしまいます。
──ご紹介したいものは、まだまだいっぱいありますが、ご紹介はここまで。ぜひ国立科学博物館に足を運んでくださいね(会期は2026年6月14日まで)。
加古さん、たくさんの宝物を残してくださって、ありがとうございます。そんな気持ちを胸に、会場を後にしました。
*出版社名の記載ない本は福音館書店刊
▶国立科学博物館の公式案内はこちらから
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