こどものとも70周年

福音館社員が選ぶ 「こどものとも」わたしの1冊|『かさもって おむかえ』(ライツ事業課・T)

絵本 |
アイキャッチ画像

月刊絵本「こどものとも」が、2026年、創刊70周年を迎えました。
小さい頃に読んでもらったり、入社して出会ったり、子どもに読み聞かせたり……これまでに刊行された「こどものとも」から、福音館社員が思い入れのある1冊をご紹介します。

第8回は入社27年目、ライツ事業課・Tの1冊。

カラフルで不思議な別の世界へ連れて行かれる
『かさもって おむかえ』

ライツ事業課・T
 

私が子どもの頃に心をつかまれて、今でもすぐにあざやかに絵本の世界が思い浮かぶ「こどものとも」の大好きな1冊は『かさもって おむかえ』です。幼い頃に何度も繰り返し読んで物語の文章から絵まで私の心の一部になっています。

 あめふり ざんざんぶり

 かさ もって おむかえ

 びしょぬれぼうず なけ なけ

 あめふり ざんざんぶり

 どろっぷ なめて おむかえ

物語は、この5行の詩から始まります。私が子どもの頃は、描かれているものと同じ缶入りドロップがあって、絵本の主人公のかおると同じようによくなめていたので、「自分も同じだ」という共感から自然と引き込まれました。

夕方になって急に雨が降ってきたので、かおるはお父さんの傘を持って駅までお迎えに行きます。しかし、駅に着いて待っていても、お父さんは降りてきません。待ちくたびれてベンチに座っていると、オレンジ色のトラネコが現れて、「おとうさんが いつも ちかてつから のりかえる えきまで いったらどう? ぼくが いっしょに いってやる」と誘います。このオレンジ色のトラネコが、かおるを日常のなかにある別の世界へ連れて行くのですが、不思議な雰囲気のトラネコの登場に、子どもの私もかおると一緒にうれしくなって、すっかり絵本の世界へ連れ込まれました。

駅のホームに着くと、赤い車両の電車が入ってきますが、1両だけ緑色。その車両に乗り込むと、何とそこにはいろいろな動物たちが座っているのです。表紙にも描かれている大きなくまのユーモラスな表情に、幼い私は釘付けになってしまい、私にとっての「くまの絵」といえば、このくまになっています。

終点に着くと、トラネコは「そら、むこうの ほーむに でんしゃが とまってるだろう。あそこで おとうさんを さがしてごらんよ」とかおるに教えてくれてくれます。かおるは何も言わずに駆け降りて行き、お父さんを見つけて、無事に一緒に傘をさして帰ります。かおるはちょっとだけオレンジ色のトラネコのことを思い出しますが、ふたたび冒頭の5行の詩を歌い出し、日常の世界に戻って物語は終わります。

この絵本の絵は、黄土色を基調として、赤、緑などが効果的に使われています。映えるけれども派手ではなく、抑えた感じの色使い──そんな長新太さんの絵が、征矢清さんの日常に溶け込んでいるファンタジーの物語をカラフルに彩り、読者を違和感なく絵本の世界に引き込んでいきます。駅のベンチに座っている場面で横顔がちょこっと描かれる以外、かおるはすべて後ろ姿なのも、かえって印象に残ります。

福音館書店に入社した後、幼い私の心をつかんで離さなかった物語を書いた征矢清さんが、かつて福音館の編集者であったこと、かおるは娘さんの名前であることを知り、とてもびっくりしました。私はお会いすることのないまま、征矢清さんは2008年にお亡くなりになられました。新宿の京王プラザホテルで開催されたお別れの会に参列させていただくことができて幸いでした。

私は権利関係の部署にいるのですが、征矢清さんの娘さんの征矢かおるさんとは、まさしくこの『かさもって おむかえ』の文章の二次的利用などに関して、度々メールのやりとりをさせていただいています。その度に、かおるさんとオレンジ色のトラネコとともに、子どもの頃の私も一緒に絵本の世界に入っていったことが思い浮かび、幸せな気持ちになります。メールの文面から、とてもお優しい人柄が感じられるのですが、あるとき、かおるさんが在籍していた文学座の舞台で共演した方から、福音館の絵本の許諾についてご連絡を受けたことがありました。「共演した舞台は当て書きでハードな芝居だったものの、稽古場はいつも楽しく、お優しいかおるさんとの思い出ばかりです」という実際のお話をうかがって、とってもうれしい気持ちになりました。

『かさもって おむかえ』 
 征矢 清 さく 長 新太 え

急に雨が降り始めた夕方、かおるは駅までお父さんを迎えに行きました。お父さんの傘を抱え、小さな傘を差して、ころころどろっぷをなめながら。人でごった返す駅のベンチでお父さんを待っているとき、かおるは、ふしぎなオレンジ色のとらねこに出会います。とらねこに導かれてやってきた電車に乗り込むと、そこにはクマやゾウ、ライオンなど、たくさんの動物たち。はたしてかおるはお父さんに会えるのでしょうか……。

*「こどものとも」1969年10月号
* 現在は「こどものとも絵本」として刊行


『かさもって おむかえ』についてはこちら
 
 

こどものとも70周年
福音館社員が選ぶ 「こどものとも」わたしの1冊|はじまりは劇場から~『あさえとちいさいいもうと』(販売課K)
アイキャッチ画像


▶ 月刊絵本「こどものとも」創刊70周年特設ページへ

この記事をシェアする