「たくさんのふしぎ」は、自然や環境、人間の生活・歴史・文化から、数学・哲学まで、世界のあらゆる “ふしぎ” をお届けしている、小学生に向けた月刊誌です。
2026年11月号で通巻500号(!)を迎えることを記念し、「たくさんのふしぎ」の著者の方々に心をつかまれた1冊を紹介していただきます。

『うんこ虫を追え』の表紙を飾るのは、宝石のように輝くオオセンチコガネである。しかも、その大好物は、なんとうんこ。この取り合わせだけでも、もう十分におもしろい。けれど、この本の本当の主役は、もしかすると「わからない」という言葉なのかもしれない。
私は奈良公園を遊び場にして育った。シカのふんが落ちているあたりを探すと、瑠璃色にきらめく虫がよく見つかった。ルリセンチコガネと呼ばれる、瑠璃色のオオセンチコガネである。これほど美しい虫が、よりによってうんこを食べている。その意外な取り合わせが、子どものころの私にはたまらなく魅力的だった。
大学生のころ、私はオオセンチコガネを卵から成虫まで育ててみたいと思った。馬ふんや牛ふんを分けてもらい、土を入れた容器で飼育を試みた。しかし、繁殖には成功しなかった。成虫は簡単に見つかるのに、その足もとの土の中で何をしているのかは見えない。身近な虫でありながら、その一生は謎に包まれていた。
舘野鴻さんも、同じ壁にぶつかる。最初の飼育は失敗。大がかりな装置を作っても失敗。ようやく幼虫が現れても、思うようには育たない。それでも、失敗を隠したり、格好よく取り繕ったりはしない。「ああ、ダメなオレ」「とほほ」とぼやきながら、装置を増やし、土を深くし、置き場所や飼育条件を変えていく。ついには、自分のふんまで使って実験する。その徹底ぶりがおかしくて、同時に胸を打つ。

そうして、卵から幼虫、蛹(さなぎ)を経て、宝石のように輝く成虫へと変わっていく過程が、少しずつ明らかになっていく。けれど、一つわかれば、その先にはまた新しい謎が待っている。幼虫は何を、どのように食べるのか。どれほど深い土の中で育つのか。よく似たセンチコガネとは、暮らし方のどこが違うのか。4年にわたって観察を続けても、問いが尽きることはない。

この本は、科学の楽しさを「正解を知ること」としてではなく、「わからないことが、さらに増えていくこと」として描いている。だからこそ、子どもだけでなく、研究を仕事にしている私の目にも、この本はまぶしく映る。うまくいかないからこそ、次の工夫が生まれる。失敗するからこそ、不思議はさらに深まっていく。
かつて同じ虫の飼育に失敗した私にとって、『うんこ虫を追え』は、長いあいだ心に残っていた宿題の続きを見せてくれた本である。そして、わからないものを、わからないまま追い続ける勇気を与えてくれる1冊でもある。


『うんこ虫を追え』舘野 鴻 文・絵
美しい姿をしたオオセンチコガネという虫がいます。この虫の大好物は、うんこ。成虫は動物のうんこを食べ、うんこの塊を地中に作って幼虫を育てることが知られています。しかし、土の中での幼虫の生態は謎につつまれてきました。絵本作家の舘野鴻さんが、知恵と根性と体力で、うんこ虫のくらしの解明に挑みます。失敗を繰りかえし、取材にかかった月日は4年。現代のファーブル昆虫記のような、オオセンチコガネの一大観察記です。

『「植物」をやめた植物たち』末次健司 文・写真
植物といえば、緑色の葉っぱを思い浮かべますよね。それは、緑色の色素があるからです。緑色の色素があることで、多くの植物は光合成をし、太陽の光から栄養を作りだすことができます。ところが、この色素をもたず、キノコなどの菌を「食べて」生活する植物たちがいます。光合成をやめた植物たちは、色や形も風変わりなものばかり。彼らのちょっと変わった生活をご紹介します。
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