子どもに読んであげられる短いお話を、季節ごとに7話ずつお届けする「一日一話」。眠る前のひとときや、電車移動の時間など、さまざまなシーンでお楽しみください。 ※見開きの形に整えたPDFをページ後半に用意しています。絵を見せながら読んであげたい方は、こちらをプリントしてお使いください。
むかし、あるところに、貧しい夫婦がいました。持っているものは牛一頭だけでしたが、とうとうその牛も売らなくてはならなくなりました。
旦那さんが牛を引いて歩いて行くと、ひとりのお爺さんに会いました。お爺さんは、
「牛を売るのかい。いくらだね」と尋ねました。
「払えるだけでいいよ」
「それなら、このつぼと交換しよう。きっと気に入るだろう」
旦那さんは、きれいなつぼを持って家に帰りました。
ところがおかみさんは、旦那さんがつぼしか持っていないのを見て怒りだし、つぼを家の隅に捨ててしまいました。その晩、おかみさんは牛のことを思い出して眠れませんでした。するとつぼがこう言うのが聞こえました。
「さあ、出発だ!」
「とっとと、行っちまいな」
おかみさんが言ったとたん、つぼはドアから飛び出して行きました。そして城まで行くと、台所の前に座りました。
朝、料理番がやってきてつぼを見つけました。
「なんてきれいなつぼだ。ちょうどつぼが足りなくて困っていたんだ」
料理番はつぼを台所に運び入れ、肉や魚をやまほど詰め込みました。まんぱいになると、つぼが立ち上がって言いました。
「さあ、出発だ!」
そのとたん、つぼは走りだして家に戻りました。旦那さんとおかみさんはつぼのなかの食べ物を見ると、牛のことなどすっかり忘れてしまいました。毎日、ふたりはお腹いっぱい食べました。おかみさんがせっせと磨いたので、つぼは前よりもぴかぴかになりました。

ある晩、おかみさんはつぼが言うのを聞きました。
「さあ、出発だ!」
「気をつけて行っといで」と、おかみさんはつぼに言いました。
つぼは出かけて行って城の広間の前に座りました。
召使たちは、美しいつぼを見つけると、磨いた銀の食器をつぼにしまい込みました。まんぱいになると、つぼは立ちあがって言いました。
「さあ、出発だ!」
そのとたん、つぼは走り出して家に戻りました。旦那さんとおかみさんは、つぼのなかの宝を見て腰を抜かしました。ふたりはお金持ちになったのです。
しばらくの間、つぼは、テーブルクロスのかかった上等なテーブルのうえでおとなしくしていました。けれども、ある晩、つぼが言いました。
「さあ、出発だ!」
つぼは出かけて行って王様の部屋の前に座りました。
召使は美しいつぼを見つけると、王様の部屋に運び入れました。この日、城では盛大な宴会が開かれていました。王様もダンスをしていましたが、急にトイレに行きたくなって大急ぎで部屋に戻りました。そしてつぼを見ると、これはトイレだと思い込んだのです。
王様がつぼにまたがったとたん、つぼは「さあ、出発だ!」と言って、王様をのせてすごい勢いで駆けだしました。そして、家に着くやいなや粉々に割れてしまいました。

王様はあまりの怖さに口もきけないでいましたが、正気に戻ると旦那さんとおかみさんに言いました。
「城に戻るから馬を用意してくれ。それから今夜のことは我々だけの秘密だぞ。黙っていてくれれば立派な屋敷を建ててやろう」
そして、そのとおりになりました。
こうして、旦那さんとおかみさんは、つぼのおかげで、いつまでも幸せに暮らしました。
おしまい
◆子どもと一緒に挿絵を見ながらお楽しみになる方は、こちらからPDFのファイルをダウンロードの上、出力してお楽しみください。 ※個人利用に限ります。

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