子どもに読んであげられる短いお話を、季節ごとに7話ずつお届けする「一日一話」。眠る前のひとときや、電車移動の時間など、さまざまなシーンでお楽しみください。 ※見開きの形に整えたPDFをページ後半に用意しています。絵を見せながら読んであげたい方は、こちらをプリントしてお使いください。
さようならの歌がひびいて、みんなが帰ってしまうと、公園はしんとしずかになりました。
すなばのくじらポポは、夕ぐれの空を見上げました。
青い石のからだに、大きな黒い目。
ひるま、たくさんの子どもをのせた背中は、まだほんのり、あたたかです。
そのとき、風がすーっとかけてきて、ポポのほっぺたについた砂を、そっとはらいながら、言いました。
「やあ、ポポ。今日ね、遠い海で、きみにそっくりな くじらに会ったんだよ。」
風はそれだけ伝えると、またどこかへすーっとかけていきました。
「海って、どんなところだろう。ぼくにそっくりな、くじらに会ってみたいなあ。」
深い、あい色の空に、細く白くひかりはじめたお月さまに、ポポはたずねました。
「ぼくのねがい、とどきますか。」
お月さまは、優しく答えました。
「まん月の夜。ひかりが一番、強くなったら、砂と海を、つないであげましょう。」
それからポポは、毎ばん夜空を見上げてまちました。

お月さまは、夜ごとに少しずつ丸くなり、ひかりをふやしていきました。 ポポのねがいも、お月さまといっしょに少しずつ、ふくらんでいきました。
そして、まん月の夜。
ポポは、遠くからききなれない音がきこえてくるのに気づきました。
ざざざん。
ざざざん。
風がすーっとかけてきて、話しかけました。
「ポポ、ほら、海だよ。波音が、きこえるでしょう。」
「なみおと……?」
「うん。いっておいで。きっと、海のくじらに会えるよ。」
気づくと、すなばのむこうに、海がいっぱいに広がっていました。
かたいはずのポポのからだは、なめらかにうごいて、たぷたぷとした海の水にふれました。
「わあ……!」
海の中には、たくさんの小さな生きもののけはいがします。
ポポは、うんと大きくからだをのばしておよぎます。
海の中から見たお月さまは、ゆらゆらまるくゆれていました。
波間から顔をあげると、そこには大きなくじらがいました。
ポポは、ちょっとはずかしかったけれど、
「ぼく、ポポだよ。すなばから来たの。風さんに、きみのことを聞いて、会ってみたくて。」
と言いました。
「ぼく、クルクだよ。やあ、ぼくら、なんだかそっくりだね。会えて、うれしいねえ。」
お月さまのひかりが、ポポとクルクを優しく照らします。
2頭のくじらは、しばらくなにも言わずに、ならんで泳ぎました。
ポポは、おなかにあたる波がくすぐったくて、そっと笑いました。

クルクが、すこしだけ速く泳ぎました。
そして、ふわりと海の上へ、とびあがりました。
月あかりをあびた水しぶきが、ちらちらと夜空にひろがりました。
「わあ…! ぼくも!」
クルクのようにしっぽをつかって、ポポもふわりととびあがりました。
波をこえ、すこしだけお月さまに近づいたような気がしました。
ぱしゃん。
細かな波紋が、まるく広がりました。
月のひかりにゆれる海を、ふたりは、ただ見つめていました。
ポポは、言いました。
「ぼくのすなばは小さいけれど、たくさんの子どもたちが遊びに来るんだよ。」
クルクは言いました。
「海は、広いから、ときどきしんとしずかなんだ。でも波がきらきらするのがとてもきれいなんだよ。」
ポポは少し、かんがえました。
すなばは小さいけれど、にぎやか。
海は、広いけれど、しずか。
「ちがうね。でも、いいね。」
クルクは、ゆっくりうなずきました。

「そろそろ帰らなくちゃ。またね。」
「うん、またね。」
波間のむこうに、すなばがうっすら見えてきました。ポポは、見なれた景色を見つめました。
そのとき、クルクが言いました。
「また、会えるかな。」
ポポは、にっこり笑いました。
「うん。きっと、会えるよ。」
遠ざかるポポにむかって、クルクは大きくしおをふき、見送りました。
ポポは、いつものすなばにそっとからだを横たえました。
すなばで、海で、ふたりはそれぞれ目を閉じました。
空には、まあるいお月さま。
はなれていても、同じひかり。
優しくふたりをつつみました。
おやすみなさい。
(おしまい)
◆子どもと一緒に挿絵を見ながらお楽しみになる方は、こちらからPDFのファイルをダウンロードの上、出力してお楽しみください。 ※個人利用に限ります。


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