絵本屋さんのある街を、親子で旅してみませんか? 全国各地のステキな絵本屋さんと、親子いっしょに楽しめる近隣のおすすめスポットの魅力を、イラストレーター・Tamyさんのイラストルポで紹介していきます。旅先で出会った1冊は、きっと想い出の1冊に。

広島駅:東京駅から新幹線のぞみ🚄で 約4時間/大阪駅から新幹線のぞみ🚄で 約1時間半

広島市中区、八丁堀の繁華街から少し歩いた先。緑豊かな袋町公園に面したビルの2階に「えほんてなブル」さんはあります。1984年に開店した広島初の児童書専門店です。
階段を上がり扉を開くと、たくさんの絵本に囲まれた、穏やかな時間が流れています。
「えほんてなブル」という店名を考えたのは、お店を営む松本さんご夫妻(峰人さん、道子さん)。1984年の開業時、神戸から運んできた2つの大きなコンテナで店舗を作ったことから、コンテナの「てな」。そして峰人(みねと)さんの小学生の頃からのあだ名「ブル」を組み合わせて名付けられました。
神戸の大学の軽音楽部で出会ったお2人は、結婚して東京で暮らしはじめますが、峰人さんの実家の家具製造業を支えるため広島へ。その後、家具製造業から離れて駐車場経営をしながら、他にもできることがあるのではないかと考えて、お店を開くことに。ずっと教師になりたかった道子さんが心惹かれたのは、子どものための本屋でした。児童図書館員の友人の後押しもあり、「片手間ではなく、ちゃんと子どもに届けられる本屋にしたい」と思ったそうです。
四十数年の歩みの中で店舗は2度の引っ越しを経験しましたが、店内のディスプレイは大きく変わっていません。絵本の表紙が見えるように並んでいるため、思わず手にとってみたくなりますが、その設計は峰人さんが担当。家具製造業の経験を生かし、木製の本棚と金属の格子を組み合わせて作成しています。壁に設置された金属の格子は、掛ける器具の位置を調整することで、さまざまなサイズの絵本を自在に陳列できます。
選書を担当しているのは道子さん。開店当時はまだ児童書専門店が珍しく、「図書館?」と勘違いされることもあったそうですが、「子どもの本屋」が当たり前にある世の中に……という思いをもって続けてきました。
「最初のうちは力んでいて、お客さまに自分の思いばかり伝えていましたが、40年も経つと力が抜けて自然体で向き合えるようになりました」と道子さん。
お客さまから注文のあった本は取り寄せますが、お店に並ぶのは、長く読み継がれてきた本や、自分が読みたいと思える本。「人気の本や売れる本を置かないんですね」と驚かれることがあっても、「店に置くのは “売りたい本” です」とぶれることはありません。
そんなお2人に、思い入れのある1冊をお聞きしました。
「私は『かわせみのマルタン』¹ です。絵がとても好きなんです」(峰人さん)
「私は『もりのなか』² 。読んだその場では、「もう1回読んで」と子どもは言わないんです。でも大きくなってから『これええよな』って思い出す、そんな作品なんですよね。もうひとつ印象深いのは、『いたずらきかんしゃ ちゅう ちゅう』³ ですね。息子2人がいつも、この絵本は『お父さんに読んでもらう』って」(道子さん)

『もりのなか』について、こんな素敵なエピソードも。
──ある日、若いお父さんが車で通りかかり、2歳の息子の誕生日プレゼントを求めて来店。道子さんは『もりのなか』をお薦めし、その場で声に出して読んでいきました。すると、そのお父さんが「あっ!」と声を上げ、「僕、この本知っています」と驚いた表情に。子どものころ、母親に読んでもらっていたことを急に思い出したそうです。そしてお母さんの声や、その時の嬉しい気持ち、幸せな気持ちがブワーッとよみがえってきたのだとか。この出来事をきっかけに、そのお父さんは毎月1冊絵本を買いに来てくれるようになりました。
「子どもの本の店をたまたま通りかかって足が向いたということは、そういう下地があるんですよね。『自分も息子とそういう経験を一緒にしたいと思ったんです』と、その方はおっしゃっていました。本の力ってすごいですね」と道子さん。
1:『かわせみの マルタン』リダ・フォシェ 文 フェードル・ロジャンコフスキー 絵 いしい ももこ 訳/童話館出版
2:『もりのなか』マリー・ホール・エッツ 文・絵 まさき るりこ 訳/福音館書店
3:『いたずらきかんしゃ ちゅう ちゅう』バージニア・リー・バートン 文・絵 むらおか はなこ 訳/福音館書店
最後に、ずっと大切にされてきたことを教えていただきました。
「『クシュラの奇跡』⁴ のあとがきに『子どもたちをすばらしい本の世界にいざない、健やかな未来を贈る大人が一人でもふえるように願っています』という、著者 ドロシー・バトラーさんの言葉があるんです。それを見たときに、「あ、これやな!」って思いました。実際に言うと口はばったくなるので、いつもは胸の内に置いていますが、私もその一員になって、バトンを渡せたらいいなって」(道子さん)
「儲からん仕事をやってるって言われることもありますが、儲からなかったとしても、社会に還元していると思っています。かっこいいこと言ってるで…という感じですけれど、そう思うんです。ずっとカツカツだったとしても、それはそれでいいかなって。ただ『老後のこと考えてなかったね』と最近2人で話しています(笑)」(峰人さん)
穏やかな笑顔で迎えてくれる道子さんと、その背中を温かく支えている峰人さん。
お店に足を運び、大切な1冊を一緒に選んでほしい。そう思える本屋さんです。
4:『クシュラの奇跡 140冊の絵本との日々』ドロシー・バトラー 著 百々佑利子 訳/のら書店(引用部分はP221)
■店舗情報
📚こどもの本屋 えほんてなブル(👉 web)
広島市中区中町1-26 ヴェル袋町公園2階
※ JR広島駅からバス🚌または市電🚃を利用して約 18 分

■スポット情報
🏯広島市中央公園(👉 web)
広島市中区基町15 ※JR広島駅からバス🚌で約20分
🎨ひろしま美術館(👉 web/Instagram/X)
📚5-Days こども図書館(👉 web)

■スポット情報
🥚長崎堂(👉 web)
広島市中区中町3-24 ※JR広島駅からバス🚌または市電🚃で約20分

■スポット情報
🍱 Pot Luck(👉 Instagram)
広島市西区中広2丁目1−1 太田ビル1階 ※JR広島駅から市電🚃を利用して約35分
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