図書館の司書として長く子どもたちに本を手渡してきた伊藤明美さんに、絵本の魅力や楽しみ方について幅広く語っていただく連載です。絵本の奥深い世界をのぞいてみましょう!
『いたずらこねこ』(バーナディン・クック 文 レミイ・シャーリップ 絵 まさき るりこ 訳/福音館書店)は、子どもたちをドキドキさせる絵本です。

まだ小さくてかめというものを見たことがないこねこが、となりの庭を散歩するかめをみつけ、好奇心旺盛に近づきます。かめはこねこをみつめ、こねこも、かめをみつめて立ち止まります。そして……

こねこは、まえあしで かめを、ポン! と たたきました。こねこは、めのたまが とびだしそうな かおに なりました! なぜって──どうなったと おもいますか? (p16-17)
かめの くびが、きえて なくなったのです! ほらね! (p18)
「えーっ?!」と、大きな声を出して目を丸くしたのは、3歳のりかちゃんです。
「そうだよ、かめは首引っ込めるんだよ」と、お兄ちゃんのしょうくんがいいます。5歳のしょうくんは、保育園で飼っているかめをよく見ていました。

こねこは、ひとあしうしろにさがり、やがて立ち上がると、かめのまわりを歩き始めます。そして、
こねこは、もういちど、ポン! と かめを たたきました。こねこの めだまは、また、とびだしそうになりました! なぜって──どうなったと おもいますか? (p22-23)
かめの あしが きえて なくなったのです! (p24)
いったい どうなってしまったのか、こねこには わかりませんでした。それで、こねこは、そこに たったまま、かめをみていました。(p26)

その後、かめはこうらから、あしと首をだし、画面の左、池に向かって歩き始めます。
やがて、かめは、ひとあし、もうひとあし、また もうひとあし まえへ でてきました。そして こねこは、ひとあし、もうひとあし、また もうひとあし うしろへ さがりました。(p36-37)
画面の絵は動いていないのに、ひとあし、もうひとあし、と繰り返される言葉から、緊張が高まります。(え? え?)と、こねこを心配する声が上がります。

次の場面(p38-39)で、こねこはもう右の後ろ足を池の上においています。
(ああああ、落ちる!)緊張はMAXに達します。
パシャーン! こねこは、いけに おっこちてしまいました。(p40)
水しぶきがあがり、こねこはかめを飛び越えて、家へ逃げ帰ります。
「あーあ!」と、りかちゃん。しょうくんは「あー、どきどきした! これ何ガメかなあ」と絵を観察。子どもの反応はいろいろです。
この絵本のストーリーは、こねこがかめに出会って、逃げ出すまで。日常のどこかで起こっているような短い時間の出来事です。ですが、主人公が行って帰ってくる、という子どもの本のストーリーの特徴(これについては、別の回でまた触れましょう)があり、満足して読み終えることができる結末になっています。
短いストーリーを緊迫感のある絵本にしているのが、舞台です。横長の画面の右端にこねこが暮らす家の垣根、左端にかめの住む池、左右をつなぐまっすぐ平らな地面。毎ページ、この地面の高さは変わらず、垣根や池も位置を変えず、動くのはこねことかめだけです。こねことかめを最初から最後まで定点観測のように同じ視点から描くことで、聞き手はずっとこねことかめの遭遇を観察し続けます。

池の水だけに表紙と同じ緑色が使われ、こねこもかめも鉛筆で書かれたように白黒。なんとシンプルな絵でしょうか。でも、シンプルだからこそ、聞き手はこねことかめだけに集中します。
地面は細い線を細かく連ねた1本の細い線だけなので、こねことかめの動きは、サーカスの綱渡りのような危なっかしさと、抜き差しならぬ気配を感じさせます。
そして、こねこもかめも、一言も発していません。聞き手は絵から感じ取り、文章の助けを受けて、頭の中で状況を理解します。まるで無言劇の舞台を見ているような構成。画家 レミイ・シャーリップは、ダンサー・演出家・振付師としても活躍した人でした。
次の日、書架に『いたずらこねこ』を並べていると、「これさ、この本と似てるね」、といわれてびっくり。しょうくんが持ってきたのは、以前読んだ『アンガスとあひる』(マージョリー・フラック 作・絵 瀬田貞二 訳/福音館書店)でした。

『アンガスとあひる』は、こいぬのアンガスが垣根の向こうから聞こえてくる音の正体を確かめに、隣の庭に入り、2羽のあひると遭遇する話です。アンガスはあひるに吠えかかり、あひるは逃げ出しますが、やがて形勢逆転、アンガスはあひるに追い立てられて家に逃げ帰ります。見知らぬものに好奇心を持って近づいていったものの、逆襲にあうという点では、『いたずらこねこ』と同じです。

聞けば、しょうくんはいぬが好きで『アンガスとあひる』がお気に入りだが、りかちゃんはねこが好きなので、『いたずらこねこ』が好きだとのこと。「でも、ぼく、かめも好きだから、『いたずらこねこ』もいいや!」と言って、しょうくんは笑いました。
2冊が違うのは、『アンガスとあひる』には、鳴き声や追いかけられて逃げる動的な面白さがあるのに対し、『いたずらこねこ』は、音がなく、動きも最小限で、静的な面白さがあるという点です。これは限りなくシンプルに刈り込まれた絵からくるものでしょう。よく似たテーマでも、表現の仕方でそれぞれ違う面白さが表現できるとは、絵本はすごいですね。
『いたずらこねこ』を読むときは、こねこの動きに沿って、「ひとあし、もうひとあし、また もうひとあし」と間をたっぷり取って読んでいくほうが、聞き手の気持ちに添うでしょう。
左右のページに分かれて文字が書かれているのも、意味があります。白い余白の部分はこねこの緊張した心の時間と考えて間をとり、ページをめくるタイミングを考えましょう。字の分量が少ないからとさっとめくってしまっては、もったいないと思います。
「なぜって──どうなったとおもいますか?」という問いかけの言葉が2回出てきますが、そこで子どもたちが答える言葉も受け止めてから、ページをめくりましょう。
「しっぽがなくなった!」「ひっくりかえった!」などいろいろな答えが返ってくることもあって、面白いですよ。
でも、ここまで読み方のコツをあげておいて申し訳ないのですが、こういう絵本は、読み手より聞き手にまわったほうが、だんぜん面白いのです。聞き手の位置から絵本を見ると、横一直線に伸びた舞台がはっきり見え、上手から下手へ動くこねこの足や、こねこの存在をものともしない、かめの目の表情がよくわかるからです。
前回、絵本を読むコツ①~③をご紹介しましたが、ここで残りの④と⑤をご紹介しましょう。(*コツ①~③はこちらです)
コツの4:絵をよく見せること。
子どもは絵からストーリーを想像しています。文章が短く終わっているからといって、さっとページをめくってしまうのではなく、絵を見る時間をあげてください。
絵の中になにかを見つけて、言ってくることがあったら、それに応えてあげてください。応えるといっても、「そうだね」「なんだろうね」くらいで良いのです。応えてくれると子どもは自分の興味や疑問を受け止めてもらえたと安心します。応えてくれないままだと、欲求不満がたまって絵本を楽しめなくなります。さっと応えて次のページにいけば良いでしょう。
コツの5:自分も聞き手にまわってみること。
いつもお母さんが読んでいるなら、時々お父さんに読んでもらって、お母さんも子どもと一緒に聞きましょう。聞き手になってみると、子どものように絵をじっくり見ることができます。すると、絵が動き出し、物語の面白さに気づき、もっと絵本を楽しめるようになります。絵本の楽しみ上手は、読み上手。ぜひ、試してみてください!
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