2025年3月に休刊となった雑誌「母の友」に、「こどもに聞かせる 一日一話」という人気企画がありました。子どもにさっと読んであげられる短いお話を、一挙にまとめて掲載するものです。
その「一日一話」を、「とものま」で再開します。
季節ごとに7話ずつ、とびっきりのお話をお届けしていきます。
たしろちさと 作
ある寒い冬の朝のこと、森の動物たちの家に、フクロウ先生から月旅行のパンフレットが届きました。明日の真夜中、東の山のてっぺんから、月に向かう宇宙船が出発するのです。パンフレットには「星巡りの旅 1泊2日の月旅行!」と、書いてあります。
たぬきは「ああ、ぼく月に行ってみたい!」と、飛び跳ねました。
「でも、ちょっとこわいんじゃない?」
ガチョウが言いました。
「だれも行ったことがないものねえ」
それで、みんなちょっと怖くなって、ガチョウはお留守番をすることになりました。
オオカミは、だまってお気に入りのマフラーを巻きました。月につけていくのです。
アナグマは、大きな鞄にたくさん着るものをつめました。月は寒いといけませんからね。
野ねずみはお菓子をいっぱい鞄に詰めました。
こうして、つぎの晩、山の向こうにお月さまが昇ると、動物たちはそろって宇宙船の発着所に向かいました。お留守番のガチョウも見送りについてきました。
なんてすてきな宇宙船!
「さあさあ、みなさんご乗船ください」
フクロウ先生が言いました。
ごごごー。
宇宙船は動物たちを乗せて、月旅行へ出発しました。
地球がぐんぐん遠くなります。いつのまにか窓の外は星がいっぱいです。
「あれがオリオン座。むこうに見えるのが白鳥座」
フクロウ先生が教えてくれました。

野ねずみが、持ってきたお菓子をみんなに配り始めました。するとポップコーンも、お煎餅も、みんなふわりと宙に浮きました。ここは宇宙。無重力の世界なのです。
やがて、宇宙船はお月さまにぐんぐん近づきました。近くで見ると、いつも見ているお月さまとぜんぜん違います。とってもとっても大きくて、まあるいゴツゴツ穴がたくさん見えました。
「わーいお月さま」
たぬきは踊り出しました。
アナグマはセーターを着込み、寒がりの野ねずみにもぼうしを貸してやりました。
オオカミはだまってマフラーを巻き直しました。
ごごごー着陸!
みんなは宇宙服を着て、お月さまの上を歩きました。ふわりふわり、飛んでいるみたいです。
フクロウ先生と動物たちは、みんなで記念写真をとりました。

こうして宇宙船は、みんなを乗せて、無事に地球に戻りました。帰ってくると、動物たちは、留守番をしていたガチョウに、月旅行の話をしてやりました。お月さまはどんなだったかって? それはもう、いままでだあれもしたことのない旅行だったそうですよ。
「ぼこぼこだったよ」
「ふしぎだった!」
「ほんとにびっくりした!」
「おーきくて」
「ぼくはふわふわーと」
みんな口々にいろんなことを言うので、ガチョウは、お月さまがどんなだったか、ちっともわかりませんでした。それで、ちょっとこんがらがってしまって、「なんとまあ」とか「それはたいへんでしたでしょうね」とか答えました。
家にかえるとガチョウは、いつものマグカップに、いつものお茶を入れてすすると、ちょっとおちつきました。窓の外にはいつもと同じ黄色いお月さまが浮かんでいました。
「おやすみなさいお月さま」と言って、次の朝までぐっすり眠りました。
(おしまい)

子どもと一緒に挿絵を見ながらお楽しみになる方は、こちらからPDFファイルをダウンロードし、出力してお楽しみください。 ※個人利用に限ります。
こどもに聞かせる 一日一話
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