絵本のとびらを開いたら

《絵本のとびらを開いたら》第8回「赤ちゃんの絵本」① ものの絵本 ─ 美しい絵と言葉

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図書館の司書として長く子どもたちに本を手渡してきた伊藤明美さんに、絵本の魅力や楽しみ方について幅広く語っていただく連載です。絵本の奥深い世界をのぞいてみましょう!

第8回「赤ちゃんの絵本」① ものの絵本 ─ 美しい絵と言葉

ごく幼い、0,1,2歳向けの絵本がたくさん出版されるようになり、絵本選びの相談を受けることが多くなってきました。ものに名前があることを教える「もののえほん」は、とくに多く見かける印象です。「たべもの」「どうぶつ」など、ものの絵と名前だけが書いてあるミニ図鑑のような絵本もありますが、子どもたちがくりかえし読んでもらいたがる本を、くわしく見ていきましょう。
 

『くだもの』(平山和子 作)

『くだもの』は、おいしそうな、みずみずしい絵が美しい絵本です。くだものの名前がわかるだけでなく、皮をむいたり切ったりして、「さあ どうぞ。」と差し出されます。

以前、保育園の1歳児クラスの先生方に、どのページが一番喜ばれるか予想してもらったところ、ばなな(P22)ではないかという声がありました。「ばななは子どもが好きで、よく知っているから」という理由でした。実際に読み聞かせした結果は、というと、子どもたちは、どのくだものにもくりかえされる、「さあ どうぞ。」のページがとにかく好き、ということでした。

さあ どうぞ。」の場面は、くだものをどう食べるか、を描いています。りんご・なし・かきは、皮をむいて櫛形に切り、フォークに刺して、フォークの上の方を持って差し出しています。子どもがフォークの下の方を持って口に運ぶように促しているのです。

食べている人の絵がないのは、読んでもらう子ども自身が食べるという想定だからでしょう。差し出す手の主は描かれていませんが、フォークやお皿にやさしく添えられた手は、子どもが口に入れるものを、丁寧に扱っていることをうかがわせます。
子どもたちは、この「さあ どうぞ。」の場面に手を伸ばし、くだものを手でつかみとって食べようとします。「さあ どうぞ。」は、9か月くらいから始まる、「やりもらい遊び」や、2歳近くになってからの「ごっこ遊び」につながります。

ものの絵本としてなら、くだものの外観と名前が書いてあるだけでもよいのです。しかし、『くだもの』は、「さあ どうぞ。」のページを加えることで、人間の根源的な欲求である、「食べる」ことは、人の手を介して行われること、そこに人と人のコミュニケーションがあること、だから、「食べる」ことは大切なのだと伝えているのではないかと思えます。

くだものの絵に添えられた「かき」「いちご」などの文字と、「さあ どうぞ。」の文字のフォントが違っているのも、ものと行為を区別しているのではないかと思われます。見開きひとつに、くだものを食べるというごく短いストーリーがあります。

子どもたちは、読み手が自分ひとりに読んでくれていると思っていますから、その子が絵のどこに注目しているかを一緒に見て、その気持ちに応える応答的な読み方が大切です。

ある日、1歳児クラスで『くだもの』を読もうと表紙を見せると、たいちゃんが、立ち上がって表紙のさくらんぼにさわり、本を持って行こうとしました。
「おいしそうなさくらんぼだね。食べてみたいね。すっぱいかな、あまいかな?」と、わたしが言うと、たいちゃんは座ってみんなと一緒に絵本を見はじめました。
何気ない会話ですが、このとき、たいちゃんは、これがさくらんぼという名前だということ、食べるものだということ、食べたらすっぱい味や甘い味がするものだということを学んでいます。そして、読み手のわたしが自分の気づきや興味に応えてくれたと感じて、落ち着いたのです。

子どもの気持ちに共感しながら読むので、わたしはこの時期の読書を「共感読書」と呼んでいます。
 

『どうぶつのおかあさん』(小森 厚 文 薮内正幸 絵)

『どうぶつのおかあさん』は、さまざまな動物が子どもをどう運ぶかを描いた絵本です。薮内正幸さんの絵は、動物の毛の1本1本まで丁寧に描き、体温や鼓動まで伝わってくるようです。周囲に余計なものを描かず、樹上で暮らす動物の絵にだけ木が描かれ、幼獣と成獣で顔つきや体つきが違うこともわかります。

おかあさん○○は、こどもを△△して運びます」という短いストーリーが、見開きひとつに描かれ、文章にきちんとした書き言葉を使っているのも特徴です。

もしも、「おかあさんねこは こどもを くわえて はこびます。」が、「ねこちゃんのおかあさんはね、こねこちゃんをくわえてはこぶんだって よいしょよいしょ。」と、書かれていたら、どうでしょうか。一見親しみやすそうですが、この絵本に描かれた生きたねこが、作り物のねこに感じられてしまいます。簡潔できっぱりとした言葉には、命ある動物へのリスペクトが感じられます。文を書いた小森厚さんは、動物園の職員でした。

「くわえて」「しがみつかせて」など、子どもたちが普段耳にしない言葉もでてきますが、絵があることで、どんな動きかわかります。子どもたちは、この本を読んでもらって、本の中には、知らない言葉がでてくることや、書き言葉のストーリーがあることを、自然に学びます。

1歳児は、『どうぶつのおかあさん』を、何度も読んでもらいたがります。子どもたちは、動物の子どもに自分を重ねているので、おかあさんが一緒にいることに安心するようです。
 

『どうぶつのこどもたち』(小森 厚 文 薮内正幸 絵)

一方、同じ作者の『どうぶつのこどもたち』は、身体の動きが活発になる2歳後半くらいに読んだ方がよくわかります。「おいかけっこをして」「おしあって」など、動物が遊びながら身体能力を高め、成長していく姿を子どもたちは面白がります。

『どうぶつのこどもたち』P24

最後のチンパンジーの絵には、文章がついていません。
2歳児クラスでこのページを見せたとき、あさひくんがぱっと立ち上がり、書架から『どうぶつのおかあさん』を持ってきました。そして、チンパンジーのページを開き、「おんなじ! このチンパンジーだよ!」と叫びました。わたしは、「ほんとだ、おんなじだね」と驚きました。同じ画家の絵だからこそ、つながった発見。あさひくんのなかに1年前に読んだ『どうぶつのおかあさん』が生きていました。

『どうぶつのおかあさん』P8-9

美しい絵・言葉・ストーリーが大事

『くだもの』『どうぶつのおかあさん』『どうぶつのこどもたち』には、共通点があります。美しい絵と言葉とストーリー、そして、くりかえしです。

これらの絵本では、見開き1枚のごく短いストーリーが、ほとんど同じ言葉でくりかえされます。これは、この年齢の子どもが大好きな、わらべうたに共通します。「こーこはとうちゃんにんどころ こーこはかあちゃんにんどころ……」と顔をつついて遊ぶあやしうたなど、わらべうたは短く、同じ言葉をくりかえし、何度もうたいます。
絵本のストーリーも、くりかえすことで、意味を把握し、少しずつ長いストーリーを理解していくことにつながるのではないでしょうか。

生まれてから1年2年、日々、めざましい成長を続けるこの年齢は、スポンジのようにまわりのものを吸収していきます。だからこそ、とりわけ美しい絵と言葉とストーリーが必要です。

そうした絵本を子どもと一緒に、子どもの気持ちに共感しながら読みましょう。子どもが飽きてしまったら、その日は1ページでもOK。でも、次の日(少し日を置いてからでも)、おとなが手に持って読んでいると、きっと膝に上って見にくることでしょう。子どもも、好きなおとなの気持ちに共感したいのです。むりをせず、少しずつ絵本を楽しんでいきましょう。 

※ 出版社名のないものは福音館書店刊

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