親の知らない 子どもの時間

第16回 おもちゃ ─ 持って遊べるということ ─

子育て |
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子どもと過ごす時間を大切に思っていても、いつも一緒というわけにはいきません。入園すると子どもは親の手を離れ、園で多くの時間を過ごします。わかっているようで、じつはよく知らない「子どもの園生活」。この連載では、大阪府堺市の「おおとりの森こども園」で保育に携わる松本崇史さんの目を通して、子どもたちの日々を覗いていきます。

おもちゃ ─ 持って遊べるということ ─

おもちゃは、保育現場でも、家庭でも、必ずといってよいほど目にするものです。自然物やわらべうたなどを大事にしていて、おもちゃを置いていない園もあるかもしれませんが、まったくないということは稀でしょう。

おおとりの森こども園にも、草花や木の実、空き箱、折り紙など、遊びに使えるさまざまな素材があふれています。ですが、ほかに遊ぶものがあるからといって、おもちゃを排除することはしていません。なぜかといえば、赤ちゃんや幼児の子どもたちの生活の中で、おもちゃは立派な文化として、そこにあるからです。

おもちゃ遊びを通して人とかかわる

0歳児のクラスに、年長の子どもが遊びに来ました。5歳児のGくんが、0歳児のYちゃんに積み木や鈴を見せながら、「ほら、おもちゃだよー」と声をかけています。Yちゃんが黙って手をのばします。Gくんは「これが好きなの? ほれほれ~」と、鈴を鳴らしたりしながらYちゃんの相手を続けます。

まだ仰向けに寝転んでばかりの生後4か月のMちゃんは、ベビージム(おもちゃがぶら下がった乳幼児向けの玩具)のそばで、「あっ、あっ」と言いながら手を伸ばしています。そばにいる保育者が、「わ、これが好き? これさわりたいの?」と話しかけています。ベビージムのおもちゃが風で揺らぎます。Mちゃんがじっとそれを見ています。そして、キャッキャッと笑います。

どこにでもあるような、一瞬の光景です。でも、こうした一瞬には、人としての大きな成長があるように思います。赤ちゃんは、お母さんやお父さんをはじめ、たくさんの人にあやされながら、いろんな遊びを体験していきます。一対一で向き合って、歌を歌ったり、体を動かしたり、いないいないばあをしたり──いろいろなあやし遊びがありますが、赤ちゃんはその過程で、遊ぶ楽しさを味わいます。赤ちゃんの幸せのために、少しでもそういう時間があることを心から願っています。

おもちゃを介した遊びが重要になってくるのは、生後4か月をすぎる頃から。おもちゃ遊びを通して、人とのかかわりが生まれます。また、おもちゃで遊びながら、自分の手や指とは異なる、身体以外の「物」があることに気づいていきます。だんだん好奇心が湧いてきて、自ら「遊ぼう」としはじめます。これが主体性の始まりです。

生活の真似から生まれる遊び

園の中には、おままごと遊びの空間がたくさんあります。そこには、食材に見立てて使えるさまざまな素材や、おもちゃのフライパンやお鍋があります。

もうすぐ2歳になるSちゃんが、おままごとコーナーで、茶色や白の具材をお皿に盛っています。「おいしそうだな~」と近づいていくと、「うん!」と言って、盛ったお皿をこちらに出してくれます。私が「わ~、すごいね。おいしそう! ごはんだね~」と言うと、Sちゃんが「からあげ!!」と言いました。その言い方があまりにも力強くて、思わず笑ってしまいました。

つい1年ほど前におもちゃで遊びはじめた子が、もうおままごと遊びをしています。おままごとは「生活の真似」です。おもちゃや遊びは、こうした生活の「真似」から生まれているものが少なくありません。「からあげ!!」と言ったその力強い口調も、もしかしたらお母さんやお父さんの真似かもしれません。

どんなおもちゃがよいの?

古今東西、さまざまなおもちゃがありますが、どんなおもちゃがよいかは悩ましいところです。園でおもちゃを選ぶときは、次のようなことを考えます。「パッと見たときに美しいか」「色はきらびやかすぎないか」「子どもが自分で持ちやすい大きさか」「子どもが工夫して遊ぶ余地があるか」「子どもが扱いやすいか」「さわっていて気持ちのよい素材か」「うるさくないか」──これらをクリアしているおもちゃの代表格に、積み木があります。

積み木の部屋に4歳児が集まって、積み木で遊んでいます。色々なパーツを使って、自分でコースをつくって、ビー玉を転がして遊べる積み木です。何人かが集まって、どんなコースにするかを話し合っています。Yくんが「ここはさ、もっと長いほうがいいねん!」と言います。すると、Hくんが「えっ! でもさ、それは、こうしたほうがおもしろいよ!」と言い返します。Yくんが「なんでよ! やめてよ!」と反論します。Hくんも「でもさ……」とあきらめません。延々と積み木をさわりながら、話し合いながら、組み直しながら、遊んでいます。

その場を離れてしばらくすると、Yくんが走ってきました。「自分でつくってん!!」と興奮したようす。見に行くとHくんもいて、「見て!」と言います。私が「お~! これは迫力あるコースだね!」と伝えると、Yくんが「そうやねん! 自分でつくってん!」と言いました。「ちがうよ! 自分たちでつくったんだよ!」とHくんが言うと、Yくんは「うん! そうだよ!」と言いました。

おもちゃは「遊んでいいよ」というメッセージ

おもちゃがあると、子どもたちの「遊び」が刺激されます。おもちゃの存在自体が、「遊んでいいよ」というメッセージでもあります。だから、そこにおもちゃがあるだけで、喜びがその空間にあふれるのでしょう。

おもちゃという言葉の語源は、「持ち遊び」だと言われています。手に持てるからこそ嬉しい、持ち運べるからこそ楽しい、思うままに操れるからワクワクする、さわれるからドキドキする。おもちゃという言葉には、そのような意味がもともと込められているのかもしれません。

子どもたちが過ごす場所には、子どもたちを魅了するものが必要です。おもちゃも、そのひとつ。そしておもちゃに負けないぐらい、子どもたちを魅了する環境があることが、何より大切だと思います。 保育者がおもちゃより、子どもたちを魅了できる存在であれば最高です。

イラスト・おおつか章世
  

 
 

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