えほんとわたし

発行部数100万部を突破! なっちゃんの頑張る姿を描いた絵本『ちょっとだけ』の作者|瀧村有子さん

絵本 |
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さまざまな分野で活躍中の方に、絵本との思い出やエピソードを語っていただくインタビュー連載「えほんとわたし」。今回登場していただくのは、月刊絵本「こどものとも年中向き」2005年4月号として刊行後、2007年に単行本化されてその発行部数が100万部を超えた『ちょっとだけ』の作者・瀧村有子さんです。

『ちょっとだけ』の主人公・なっちゃんは、まだ赤ちゃんの弟のお世話で忙しいお母さんを見て、牛乳をコップに注いだり、髪を結んでみたりと、いろいろなことを自分でやってみます。その結果は……完璧にできるわけではなくて、“ちょっとだけ” 成功。少しずつできることが増えていく喜びが描かれていて、なっちゃんの頑張る姿を応援したくなる心温まる作品です。

母として姉として——両方の視点からつづったお話

——『ちょっとだけ』は、瀧村さんのどんなご経験や思いから生まれたお話ですか?

私には、長男と1歳下の長女、その3歳下の次男の3人の子どもがいます。今は3人とも30歳を超えましたが、その3人の子どもの母の視点と、7歳年下の妹を持つ姉の視点の両方から書いた作品です。

母として3人の子どもたちを見ていて、なっちゃんに重なる出来事として印象に残っているのが、次男が生まれたときに病院に長男と長女が来てくれたときの写真です。次男を抱っこする娘の表情がなんとも言えない不思議そうな、ちょっと寂しそうな顔をしているんです。でも、その2カ月後の写真には、弟を抱っこして「私がお姉ちゃん!」という自信たっぷりの顔で写っています。まさに “なっちゃん” って感じの表情なんですよね。

なっちゃんが女の子なので、長男に「〇〇(長女の名前)の絵本でしょ」って言われたこともありましたが、長女の面倒を本当によくみてくれたしっかり者の長男のことも、長女のこともあって生まれたものだと思っています。

それと、妹を持つ姉の気持ちもありました。妹が生まれたとき、それはもう、かわいくてかわいくて仕方なくて、小学1年か2年のときに、妹のことを絵本にしたことがありました。母が取っておいてくれて今もあるんです。妹のことが好きで好きでしょうがなかったんですね。

『ちょっとだけ』を書くときは、そんなお母さんの気持ちと、姉としての子どもの頃の気持ちの両方を行ったり来たりしながら、楽しく書きました。

書いたお話を娘に見せて「『こどものとも』のおはなし募集()に応募しようかな?」と相談したら、「いいんじゃない」と言ってくれたので、出してみることにしたんです。

福音館書店 創立50周年記念企画 わたしがつくる「こどものとも」わたしがつくる「かがくのとも」作品大募集!!/2001年

それからしばらくして、当時住んでいた団地の公園でいつものように子どもと遊んで帰ってきてポストを見たら、「作品を受け取りました」という内容の福音館書店からのハガキが入っていました。「福音館書店」と書かれているのを見たら、手が震えて心臓がドドドドドドと高鳴って。

どんなふうに自宅がある5階まで上がっていったのか覚えていません。それからずっと壁にこのハガキを貼っていたので、押しピンの跡がついちゃってますね(笑)

大切に壁に貼っていたハガキ(中央)と、『ちょっとだけ』の原稿の下書き(右)

 
——年月を経たこのハガキを見ていると、そのときのお気持ちが伝わってくるような気がします。そこからどんな経緯で出版につながったのでしょう?

そのときのおはなし募集では別の方が選ばれたのですが、その後、編集者の方からお手紙をいただいたんです。そこには、残念ながら選考ではもれてしまったけれど、お話がよかったので、ぜひ一度お会いしたいということが書かれていました。

その後、編集者の方と船橋市の喫茶店でお会いすることになりました。美容院に行ってこの日のために買ったワンピースを着て、「いつもこんな感じです!」というふうに気合いを入れて緊張しながら出かけたことを覚えています。 

「素敵なことがある!」と感じて飛び込めた

——編集者と実際に会ったときは、どんなお気持ちでしたか?

自分の気持ちをお話として形にできただけでうれしいのに、これが福音館書店の方に読まれたんだと思うと、「大変だ!」という気持ちでした。小さい頃から、すぐ「はい、はーい!」と手を挙げて発言するような子どもで、先生に「答えがわかってから発言しましょうね」と言われていたくらい好奇心旺盛だったので、「きっと素敵なことがある!」と感じて、いただいた機会に思い切って飛び込んでいけたんでしょうね。

それから編集の方と文章の修正についてやりとりをしました。体言止めが多かったのでその部分を修正しましたが、ありがたいことに大筋はそのままで進めていただきました。

絵は鈴木永子さんが描いてくださることになり、最初に試作として、お母さんがなっちゃんを抱きしめている場面の絵が送られてきました。その絵は、まさに作品の大きな見せ場になっている場面です。お母さんがすっかりお尻を床につけて、しっかりとなっちゃんを抱きしめている。次に何かしなきゃって思っているときはこうはなりませんよね。私はこの絵を見たときに、心の中で「すぐ立ち上がらないだっこ」と名前を付けて、この絵を大切にしてきました。

鈴木永子さんが描いた試作の絵

 
永子さんとは、『ちょっとだけ』の月刊誌刊行をお祝いする食事会のときに初めてお会いできたのですが、初めてという気がしなくて、私が「初めてと思えないです!」と言ったら、永子さんも「私もよ」と言ってくださいました。

永子さんは、絵を描くにあたり、近所の公園に何度も何度も通われたそうで、その場にいらっしゃったお母さんのご了解を得て、公園で遊ぶ女の子の絵を何枚も何枚もスケッチされたとお聞きしています。作品が出て数年後にモデルになってくれた女の子とお会いすることができたり、永子さんが私のアトリエに遊びに来てくださったり、電話でお話をしたりと仲良くしていただいて、とっても素敵な交流をさせていただいています。

読み聞かせは幸せな時間

——今日はご自宅にある絵本もいろいろお持ちくださったのですね。絵本の思い出もお聞かせいただけますか?

子どもの頃、『いちごばたけのちいさなおばあさん』が好きでした。自分の子どもたちが幼稚園に通うようになって園で再びこの作品に出会って、子どもたちにも読んであげたので、とても思い出深いです。おばあさんがいちごに色をつけたあとに雪がふって、ムダだったのかしら? と思うけど、そうではない。子育てにも似ているなって感じます。

子どもたちが小さい頃は、読み聞かせもたくさんしました。夜寝る前、「8時までに歯磨きを終えてお布団に入ったら、一人1冊ずつ絵本を読んであげる」というルールを決めていました。すると、洗面所で長男が「早くしろ! 始まる、始まるー!」って下の2人を急かしながら歯磨きするんです。のんびり屋の娘は「だってまだだもん……」って。そんなやりとりを聞きながら、私はニヤニヤしながら待っているわけです。それで3人がそろうとじゃんけんをして、自分が読んでほしい絵本を何番目に読んでもらうかを決めます。

娘は『くわずにょうぼう』『もりのおばけ』みたいに、ちょっと怖いお話が好きなんだけど長男と次男はそれが怖かったり、長男が自分の読んでほしい本を一番最後に読んでもらおうとするのを真似して、次男も「僕のを最後に読んで」と言うのですが、順番が来る頃にはもう限界で目が閉じそうになっていたり(笑) それは本当に幸せな時間でした。 

お母さんのことを、こんなに思っていてくれるんだ!

—— 『ちょっとだけ』は、そんな幸せな時間のなかから生まれたんですね。

そうですね。なっちゃんをお母さんが抱きしめる場面に通じるような出来事もありました。ある日、長男は幼稚園に行き、娘とまだ赤ちゃんだった次男が家にいて、私は早く洗濯しなきゃ、お掃除しなきゃと次々に家事をこなしていました。その頃、娘のマイブームがトランプで、布団を干しているときに「トランプやろう!」と言われたんです。私は「ああ、そうだね、やろうね」って軽く返事をしたんです。でも、あれもこれもと家事をしているうちにお昼になってしまって。娘はお昼ご飯をすぐ食べて、「ごちそうさま!」って食器を台所に持って行きました。私は赤ちゃんを抱っこしながら、まだ食べていたんです。

そしたら娘が「食べ終わったら、トランプできる?」って言うんです。パッと見たら、トランプのケースが開いていて、カードがきれいに並べられていました。きっと私とトランプしようと何回も準備してくれていたんですね。それを思ったら胸が苦しくなって、そのときのお昼ご飯の味も覚えていないくらい。次男を布団の上に寝かせたら泣かないし、あ、大丈夫だと思って、夢中で何度も何度も娘とトランプで遊びました。 

そのとき感じたのが、ごめんねという気持ちよりも、こんなに私のことを大切に思ってくれているんだなといううれしさでした。丁寧に愛情を伝えてくれているんだなって。そのことがあってから、自分も丁寧に気持ちを伝えよう、受け取ろうという思いがとても強くなりました。『ちょっとだけ』を通じて、そんな思いを伝えていけたらうれしいですね。

——あらためて『ちょっとだけ』の発行部数が100万部を突破したことをどのように受け止めていますか?

正直に言うと、ピンときていないです(笑) 
でも、長い間読んでいただけているのは、お母さんたちが、子どものことをかけがえのない存在として大切に思っているということかなと思います。

『ちょっとだけ』のおかげで、この 20 年の間にあんなこともあった、こんなこともあったって思い出すんです。講演会をさせていただいたときに、悩み相談を受けたこともありました。そのなかにお子さんとの関係で悩んでいる方がいらっしゃったんですね。お話を聞きながら「お子さんのこと、すごく大切に思っていらっしゃいますよね?  その気持ち、伝えないままでいいですか? いつ告白するんですか?」ってお伝えしたんです。そしたらその方が涙を流されて「本当ですね……。今日、告白します!」って。

そんなふうにいろいろな方との出会いを生んでくれた『ちょっとだけ』に感謝しています。
なっちゃん、ありがとう。

100万部の箔押しが入った『ちょっとだけ』を手に

※ 出版社名のないものは福音館書店刊

月刊絵本「こどものとも」おはなし募集のお知らせ
創刊 70 周年を記念した「こどものとも 絵本のおはなし大募集」が、2026年10月1日から始まります。応募作品の中から1点を、2028年度「こどものとも」もしくは「こどものとも年中向け」で刊行予定。詳しくは公式ホームページをご確認ください。

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